地元で店を開くとき、いくら要るのか
卒業後に地元へ戻って小さな店を開きたい、という相談を受けると、話は決まって「いくら貯めればいいのか」に行き着く。ここで実額の手がかりになるのが、日本政策金融公庫総合研究所が毎年出している新規開業実態調査だ。
2025年12月5日に公表された2025年度新規開業実態調査は、2025年8月時点の調査で、融資時点で開業後1年以内の8,517社に調査票を送り、2,165社から回答を得ている(回収率25.4%)。この調査によると、開業費用の平均値は975万円、中央値は600万円だった。平均と中央値がここまで離れるのは、一部の高額な開業が平均を押し上げているからで、実感に近いのは中央値のほうになる。
分布を見るともう少しはっきりする。250万円未満が20.1%、250万円以上500万円未満が21.7%で、合わせて4割を超える。数千万円を用意しないと始まらない、という前提は、少なくとも統計の上では当てはまらない。
調達の側も見ておきたい。開業時の資金調達額は平均1,219万円で、内訳は金融機関等からの借り入れが平均827万円(調達額の67.9%)、自己資金が平均279万円(22.9%)。この二つで90.7%を占める。つまり開業資金の3分の2は借りて賄うのが普通の姿であり、全額を自分で貯めてから始める人のほうが少数派だということになる。
信用金庫が貸せる相手は、法律で区切られている
借りる先として地元の信用金庫が候補に挙がるとき、銀行との違いを雰囲気で語られることが多い。だが差は制度として書かれている。信用金庫法(昭和26年法律第238号)の第1条は、国民大衆のために金融の円滑を図ること、協同組織による信用金庫の制度を確立することを目的に掲げている。株式会社ではなく協同組織だという一点が、以下の条文の形を決めている。
第53条第1項は信用金庫ができる業務を四つ挙げており、そのうち貸付けについては「会員に対する資金の貸付け」と書かれている。手形の割引も「会員のためにする」ものだ。第2項で、地方公共団体や金融機関その他会員以外の者への貸付けが政令の範囲で認められてはいるが、原則は会員向けである。借りたければ会員になる、という順序になる。
では会員になれるのは誰か。第10条が定めている。その信用金庫の地区内に住所または居所を有する者、地区内に事業所を有する者、地区内において勤労に従事する者、およびこれらに準ずる者として内閣府令で定める者。つまり地区という地理的な線がまずある。隣県の有名な信用金庫に電話しても、そこが自分の地区をカバーしていなければ話が始まらない。
規模の上限もある。第10条のただし書きは、個人の事業者については常時使用する従業員の数が300人を超える者を、法人については従業員300人超かつ資本金または出資の総額が政令で定める金額を超える者を、それぞれ会員の資格から除いている。創業したての事業がこの線を超えることはまずないので、実務上は地区の条件のほうを先に確かめればよい。
創業の資金は、二本立てで組まれることが多い
窓口で話が進むと、信用金庫の融資と日本政策金融公庫の融資を組み合わせる話が出てくることがある。これが協調融資と呼ばれるもので、同じ資金計画に対して両者が協議したうえで融資を実行する形を指す。
規模は小さくない。日本公庫の国民生活事業のご案内2026によると、令和7年度の地域金融機関との協調融資の実績は、全体で23,692件・11,151億円だった。業態ごとに並べると、信用金庫の位置がよくわかる。
| 業態 | 件数(令和7年度) | 金額 |
|---|---|---|
| 都市銀行 | 1,317件 | 2,470億円 |
| 地方銀行 | 6,773件 | 5,611億円 |
| 第二地方銀行 | 2,224件 | 1,244億円 |
| 信用金庫 | 11,743件 | 2,509億円 |
| 信用組合 | 1,570件 | 338億円 |
| その他 | 622件 | 469億円 |
| 合計 | 23,692件 | 11,151億円 |
件数では信用金庫が11,743件で全体のほぼ半分を占める。一方で金額は2,509億円にとどまり、1件あたりの規模は都市銀行や地方銀行より小さい。小口の案件を数多く扱っているという構図で、創業時の数百万円という金額帯はまさにここに入る。
紹介の段取りが決まっている相手も多い。同じ資料では、協調融資のスキームを構築した地域金融機関が令和8年3月末時点で433機関あり、うち信用金庫が250機関と書かれている。創業向けの協調融資商品を独自に作っている金庫もあり、令和7年4月の愛知信用金庫のESCORT2、呉信用金庫の創業・新事業支援融資アクレ、同年7月の結城信用金庫の未来などが例として挙げられている。
窓口に行く前に、自分の数字を置いてみる
相談の前にやっておくと話が早いのは、さきほどの平均値を自分の計画に当ててみることだ。調達額のうち自己資金が22.9%、借り入れが67.9%という比率は、裏返すと、開業費用の4分の1ほどは自分で用意している人が多いという意味になる。600万円の計画なら、150万円前後が一つの目安になる。
ここで大事なのは、比率を満たすことそのものではない。見積りの根拠を説明できるかどうかだ。厨房機器はどの型番でいくらか、内装は何社から見積りを取ったか、仕入れの単価はどこの数字か。金額の大小より、数字の出どころがはっきりしている計画のほうが話が通る。
開業時の年齢も参考になる。同じ調査では、開業時の平均年齢は43.9歳で、調査開始以来もっとも高い。年齢層の構成は40歳代が36.9%、30歳代が28.0%で、29歳以下は7.0%にとどまる。若くして開業する人は統計上は少数だが、だからこそ計画の中身で説明が要る、と考えておくとよい。公庫側の制度そのものは日本政策金融公庫の創業融資はどこまで使えるか|金利と特例を読むで扱っている。
どの金庫に行くかを決める三つの手がかり
地元に複数の信用金庫がある地域も珍しくない。選ぶときに見るところは三つある。
一つめは地区。定款で定められた地区に自分の住所や事業所が入っているかを最初に確かめる。店を出す場所と住んでいる場所が違う場合、どちらかが地区に入っていれば会員になれる可能性がある。二つめは創業向けの商品があるかどうか。協調融資商品を作っている金庫は、公庫との紹介の段取りが決まっているぶん、話が前に進みやすい。三つめは、借りたあとの付き合い方。協同組織の金融機関なので、借り手は会員として出資もする。取引は一回きりではなく続く前提になる。
補助金や税の優遇と組み合わせる手もある。制度の全体像は地域起業の支援制度|補助・融資・税の優遇を一枚に並べるに、信用金庫という業態そのものの成り立ちは信用金庫とは?地方銀行との違いと仕事内容を丁寧に徹底解説するにまとめてある。地域で働く・起業するという選択肢を広く見たい人はFLASPOもあわせて読むとよい。
よくある質問
自己資金がゼロでも借りられますか。統計上は調達額の22.9%が自己資金で、何も用意していない状態は例外的です。制度として一律に禁じられているわけではありませんが、返済の原資をどう見込むかの説明がより重くなります。
学生のうちに相談に行ってもよいですか。開業の予定が具体化してからのほうが話は進みます。ただし地区の条件や必要書類を聞くだけなら早くても構いません。平均年齢が43.9歳という数字は、若い相談者が門前払いされるという意味ではありません。
信用金庫と日本公庫、どちらに先に行くべきですか。どちらからでも構いませんが、協調融資のスキームがある金庫なら、信用金庫の窓口から公庫につないでもらう流れが用意されています。二重に同じ説明をする手間が減ります。
会員になると何か義務が生じますか。出資をして会員になる形なので、脱退までは出資金が預けた状態になります。議決の仕組みに参加する立場にもなります。借りるためだけの手続きというより、組織に入るという理解が近いです。
地区の外に移転したらどうなりますか。会員資格は地区内の住所、事業所、勤労のいずれかで判定されます。移転後にどれも当てはまらなくなる場合は、融資の継続も含めて事前に相談が必要です。
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