「いいね」を見せたあとに返ってくる質問
地域の公式アカウントを任されて三か月、フォロワーが千人増えた。報告の場でその数字を出したところ、担当課の職員から「それで宿泊はどう動きましたか」と聞かれて言葉に詰まる。ここでつまずくのは熱意の不足ではなく、自分の数字が制度のどこに置かれる数字なのかを知らないからである。
観光庁は地域の観光の舵取りを担う法人を「観光地域づくり法人(DMO)」として登録している。観光庁の登録一覧によれば、令和8年9月1日現在で広域連携DMOが10法人、都道府県DMOが38法人、地域DMOが274法人。北海道と沖縄県は広域連携と都道府県の二つを兼ねるため、単純に足すと二重に数えることになる。ほかに候補DMOとして地域DMOが21法人ある。
これらの法人は、登録の要件として指標を設定し、その達成状況を分析して評価することを求められている。つまり地域ブランドの手応えは、感覚ではなく決められた指標の形で国に報告されている。発信の数字がその報告のどこに入るのかは、公開されている資料から追える。
指標は頂点から枝が分かれる木の形で置かれている
観光庁のKGI・KPI計測に係る手引書は、指標を一本の木として描いている。頂点にあるのが重要目標達成指標(KGI)で、旅行消費額と経済波及効果の二つ。旅行消費額は観光客が域内で使った金額、経済波及効果は域内での消費が調達先の産業に生産を誘発した結果の金額と定義されている。
その下に重要成功要因(KSF)が六つ並ぶ。消費単価の向上、滞在日数の増加、来訪者数の管理、需要の平準化、環境歴史文化保全、地域への裨益である。前の四つは旅行消費額に、後の二つは経済波及効果につながる枝として整理されている。
さらに各KSFの下に、必ず計測するKPI①が一つずつ置かれる。来訪者満足度は五段階評価のうち「大変満足」と「やや満足」を合わせた割合、来訪者の平準化率は年間入込客数に占める閑散期(連続する三か月)の割合、というように定義まで書かれている。区分によって免除もあり、広域連携DMOは住民満足度と観光事業者の平均給与額と月別来訪者数の平準化率を必須とせず、都道府県DMOは住民満足度を必須としない。
| 重要成功要因(KSF) | 必須のKPI①(地域全体の成果) | KPI②の例(DMOの活動による直接成果) |
|---|---|---|
| 消費単価の向上 | 1人あたり旅行消費額 | 旅行商品販売額増加率 |
| 滞在日数の増加 | 延べ宿泊者数 | 平均泊数 |
| 来訪者数の管理 | 来訪者満足度 | ウェブサイトアクセス数/SNSによる高評価率/広告換算値/リピーター率/再来訪意向 |
| 需要の平準化 | 来訪者の平準化率 | MICEの誘致数/宿泊施設の稼働率 |
| 環境歴史文化保全 | 持続可能な観光に対する住民満足度 | GSTC研修受講者数/保全への寄付金額 |
| 地域への裨益 | 観光従事者の平均給与額 | 観光事業者数/地場製品活用率 |
SNSは「高評価率」という形で表に載っている
表の右列、KPI②の欄が発信の居場所である。手引書はここを「DMOの活動による直接成果」と呼び、例として広告換算値、ウェブサイトアクセス数、SNSによる高評価率、リピーター率、再来訪意向などを挙げている。注目したいのは、SNSの欄に書かれている指標名がフォロワー数ではないという点だ。
SNSによる高評価率の定義は「当該年の運営するSNSでの投稿全体に占める高評価投稿の割合」。分母は投稿の数であり、分子は高評価を得た投稿の数になる。千人増えたという数字は、この定義のどこにも入らない。アカウントの規模ではなく、出した投稿のうち何割が届いたかを問う作りになっている。
隣のウェブサイトアクセス数は、DMOが運営するサイトの年間アクセス数と定義され、訪日外国人向けページのアクセス数を内数として別に数える。計測方法の欄にはGoogleアナリティクスに代表される分析ツールが挙げられ、性別・年代・国といった属性別に集計すればターゲット層に届いているかを検証できると書かれている。広告換算値のほうは、Webメディアを「ニュースサイト等を想定しており、SNSは含まない」と明記して線を引いている。
手引書が計測手法を章立てして解説しているのは、平均泊数、広告換算値、ウェブサイトアクセス数、地場製品活用率の四つである。SNSによる高評価率には、その解説が付いていない。どう数えるかは現場に委ねられていると読むのが正確で、だからこそ数え方を自分で決めて書き残す必要が出てくる。
2025年の改正で、指標の置き方そのものが動いた
この枠組みは最近組み替えられている。観光庁の説明資料によれば、DMO登録制度のガイドラインは令和7年3月に改正され、令和7年10月から施行された。オーバーツーリズムを未然に防ぎながら地方への誘客を進める必要があるという背景が、改正の理由として挙げられている。
改正の柱は六つ。観光地経営戦略の策定を義務化し、その中でKGIを追加して必須KPIを見直した。組織体制では意思決定機関の設置を求め、マーケティング責任者(CMO)の専従を撤廃する一方で常勤職員三名以上の配置を条件にした。財源については安定財源確保率そのものをKPIに加えている。
残る三つは、更新登録要件の導入、審査方法の改善、登録区分の見直しである。更新時にはこれまでの活動の成果を定量と定性の両面で評価し、研修の受講も要件になった。審査にはヒアリングが入り、一年かけて行う形に変わった。区分は広域連携・地域連携・地域の三つから、広域連携・都道府県・地域の三つへ置き換わっている。
発信を任された側が先に決めておくこと
やることは三つに絞れる。第一に分母を決める。投稿ごとに数えるのか、月ごとにまとめるのかで高評価率は別の数字になるので、集計の単位を最初に書き留めておく。第二に「高評価」に数える反応の種類を決める。保存、共有、返信のどれを含めるかで結果が変わるため、途中で変えないことのほうが数字の意味を守る。
第三に、属性別に見られる状態を作っておく。手引書がアクセス数の計測で属性別の集計を勧めているのと同じ理屈で、誰に届いたかが分からない数字は次の判断に使えない。ここまで整えると、報告の場で「宿泊はどう動いたか」と聞かれても、自分の数字が答えられる範囲と答えられない範囲を線を引いて示せる。
KPI②は活動の直接成果であって、地域全体の成果であるKPI①とは層が違う。だから発信の数字から宿泊者数の増減を言い切るには、その間をつなぐ別の調査が必要になる。この層の違いは、SNS発信で地域に人は来るのかを扱った記事で見た「届くこと」と「来ること」の距離とも重なる。学生が地域の発信に関わる機会はFLASPOのようなプロジェクト型の場でも増えているが、引き受ける前に測り方を決めておくかどうかで、終わったあとに残るものが変わる。
よくある質問
フォロワー数を報告に使ってはいけないのか。禁じられているわけではなく、任意のKPIとして自分で設定する余地は残っている。ただし観光庁が例示しているのは高評価率のほうなので、フォロワー数だけを出すと「それで何が動いたか」を別途説明する手間が増える。併記して、どちらを主に見るかを決めておくのが扱いやすい。
自治体の公式アカウントもDMOと同じ指標で測るのか。登録DMOに課されている要件は、自治体の広報アカウントにそのまま適用されるものではない。それでも指標の分け方は参考になり、観光に関する発信であれば同じ木の上に自分の数字を置いて考えられる。なお発信の表示義務については地域のSNSと広告表示を扱った記事のほうが近い。
高評価率が低く出たときはどうすればよいのか。分母である投稿数が多いほど率は下がるので、まず投稿の本数と期間を揃えて比べる。率が下がった原因が投稿の中身なのか本数なのかを分けられれば、次に手を入れる場所が決まる。率そのものの高低より、同じ数え方で並べ続けられるかどうかのほうが効く。
旅行消費額まで一人で追うのは無理ではないか。KGIの計測はDMOという組織の仕事であり、発信を担当する一人が背負う範囲ではない。地域ブランドの立ち上がり方そのものを知りたい場合は、地域ブランドの成功事例に共通する条件のほうが入口になる。自分の数字と組織の数字の境目を知っておけば、関わり方の見通しも立てやすい。
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