ソーシャルビジネスのデメリット|赤字3割とNPO法人の8年連続減

ソーシャルビジネスのデメリット|赤字3割とNPO法人の8年連続減

やめる理由は、志より先に収支の側から来る

相談の席でよく出るのは、続ける自信がないという言葉ではなく、来月の支払いが読めないという言葉である。社会課題に向かう事業が行き詰まるとき、最初に音を立てるのは動機ではなく収支だ。そこを数字で見ておかないと、精神論の話に流れてしまう。

日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、現在の採算状況が黒字基調の割合が67.0パーセント、赤字基調が33.0パーセントだった。三社に一社が赤字のまま走っている。満足度の内訳でも、事業からの収入に満足と答えた割合は28.3パーセントにとどまる。

先にひとつ断っておきたい。社会課題系の事業者だけを抜き出した経営統計は国内に存在しない。この調査は分野を限らない新規開業全体を対象にしているので、以下では全体の数字を土台に置き、社会課題を扱うことで重みが変わる項目を見分けていく。言葉の輪郭から確かめたい場合はソーシャルビジネスの定義を先に読むと、どの要件が負担に転じるのかが掴みやすい。

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立ち上げで詰まるのは資金、続けるときに詰まるのは客

同じ調査は、苦労した項目を開業時と現在の二つの時点で尋ねている。この二枚を重ねると、壁の位置が動くことが見えてくる。

苦労した項目 開業時 現在
資金繰り、資金調達 56.9% 36.2%
顧客・販路の開拓 49.9% 48.8%
財務・税務・法務に関する知識の不足 36.4% 調査報告は低下と記述

資金の苦労は20.7ポイント下がる。借り入れが一度通れば、同じ重さでのしかかり続けるわけではないということだ。ところが顧客と販路の苦労は49.9から48.8へ1.1ポイントしか動かない。開業から平均15.5か月が経っても、売る相手を探す仕事は軽くならない。

ここが社会課題を扱う事業でとくに重くなる。便益を受ける人と対価を払う人が一致しない場面が多いからだ。困っている当事者には支払う余裕がなく、代わりに公費や会費、寄付、企業の予算から回収する組み立てになる。売り先を探す相手が受益者とずれるぶん、販路の開拓は一段むずかしくなる。回収の相手が誰になるかは分野ごとに違うので、ソーシャルビジネスの事例で四つの型を見比べておくと見当がつく。

人に関する苦労だけが、時間とともに増していく

調査報告は項目の動き方についても書いている。開業時と比べて従業員の確保や従業員教育、人材育成といった人材に関連する項目で割合の上昇が目立ち、反対に資金繰りや知識不足に関連する項目は低下したという整理だ。つまり三つの壁のうち、人の壁だけが後から高くなる。

規模の数字を添えると事情が分かる。開業時の平均従業者数は2.8人で、3年続けて3人を下回った。調査時点では3.9人になっており、1.1人の増である。経営者本人を含めて三人か四人という組織で、採用と育成が同時にのしかかる。一人辞めれば回らない人数だから、確保の苦労が消えないのは当然だ。

元手が薄いことも効いている。開業費用の分布は250万円未満が20.1パーセント、250万円から500万円未満が21.7パーセントで、この二つで4割を超える。平均は975万円だが、長期的には少額化の傾向にある。小さく始める設計は参入の敷居を下げる一方、人を一人増やすだけで収支が傾く構造を抱え込む。

器そのものが、8年度続けて減っている

個々の事業者の話とは別に、担い手の器が縮んでいる。内閣府がまとめている認証・認定数の推移を年度末で並べると、増え続けていた流れが2017年度で折り返し、そこから8年度続けて減り、2026年度も8月末の時点でさらに下がっている。

年度末 認証法人数 認定法人数
2017年度 51,866 1,064
2019年度 51,255 1,147
2021年度 50,780 1,237
2023年度 49,942 1,287
2025年度 49,071 1,318
2026年8月末 48,754 1,315

ピークの51,866から48,754まで、3,112法人ぶんが消えた。比率にすれば6パーセントの減である。一方で認定を受けた法人は1,064から1,315へ増えており、動きが逆を向いている。新しく入る人がいないのではなく、既存の法人が畳んでいると読むのが自然だ。

器を畳む理由は統計からは追えないが、NPO法人には毎事業年度の報告と備置きの義務があり、小さな団体には事務の負担が重い。法人格ごとの縛りの違いはソーシャルビジネスとNPOの違いにまとめてある。選ぶ前に、10年続けられる事務量かどうかを見積もっておきたい。

若い担い手と創業の件数が、そろって前年を下回った

資金の側にも不安材料がある。公庫が2026年5月25日に公表した令和7年度のソーシャルビジネス関連融資実績を年代別に見ると、社会的課題の解決を目的とする事業者向け8,818件のうち30代以下が2,631件で、前年度比97.9パーセント。40代は108.2パーセント、50代は106.6パーセント、60代以上は112.8パーセントと伸びているのに、30代以下だけが前年を割った。

創業期の件数も似た向きだ。ソーシャルビジネス関連融資18,032件に占める創業前および創業後1年以内への融資は6,577件で、前年度比98.5パーセント。全体の件数が103.8パーセントで伸びているなかの減少なので、既にある事業者が太る一方、入口の人数は細っている。この二つが続くと、数年後に担い手の年齢構成が偏る。

では避ける手立てはあるのか。三つに絞れる。第一に、受益者と支払い手を計画書の別の欄に書き分ける。第二に、最初の採用をできるだけ遅らせ、業務委託で凌ぐ期間を設計に入れる。第三に、認定の取得など資金源を二本化する道筋を初年度から視野に入れる。地域で実際に回っている事業の相談先や事例はFLASPOにも集まっている。

よくある質問

社会課題を扱う事業は、普通の事業より儲からないのですか。分野を限らない調査では赤字基調が33.0パーセントです。社会課題系だけを抜いた数字はないため断定はできませんが、収入への満足度が28.3パーセントと低いことから、報酬面の見返りは薄いと見ておくのが安全です。

いちばん多い失敗の原因は何ですか。原因別の統計はありません。ただし苦労の項目では顧客と販路の開拓が開業時から現在まで下がらず、48.8パーセントが今も苦労していると答えています。売る相手の設計が最も長く残る課題です。

NPO法人は減っているのに、なぜ認定法人は増えているのですか。審査を通った法人が積み上がる一方、小規模な法人が解散しているためと考えられます。認証が48,754、認定が1,315という開きは、器の数と信用の濃さが別に動いている証拠です。

人材が集まらないときはどうすればよいですか。採用を急ぐ前に、増やす一人が何を回収するのかを決めることです。平均従業者数は開業時2.8人から3.9人への増加にとどまり、収支が揺れやすい規模だと分かります。

寄付や助成金で埋めれば乗り切れますか。期限の内側なら成り立ちますが、終われば同じ穴が開きます。公庫の枠で1年に動いた1,345億円は返済を伴う融資であり、無償の資金が主役になっている構図ではありません。採択と不採択で収入が上下する設計は、固定費を抱えた段階で危うくなります。

それでも始める価値はありますか。あります。見返りの出方が金額以外に移るだけで、同じ調査の総合満足度は74.8パーセント、仕事のやりがいでは84.4パーセントです。何を受け取りたいのかを先に決めれば、ここで挙げた負担は織り込める範囲に収まります。


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