口座の残高は変わらないのに、買えるものが減っていた
去年と同じ金額を財布に入れて買い物に行き、同じかごの中身で会計が上がっていた。そういう体験が続いた時期に、預金の見え方が変わった人は多いだろう。総務省統計局が2026年9月18日に公表した全国消費者物価指数は、2026年8月分の総合指数が102.2で前年同月比1.9%上昇、生鮮食品を除く総合は102.0で1.7%の上昇だった(総務省統計局「消費者物価指数(全国)」)。
物価が年1.9%のペースで上がり続けると仮定して計算すると、100万円の現金で買えるものは10年後に82万8千円分、20年後には68万6千円分に落ちる。残高の数字は1円も減っていないのに、交換できる価値だけが削れていく。この目減りに手を打つ方法のひとつが投資であり、得られるものは「増やす」の一語では足りない。
以下では、投資を続けることで手に入るものを、複利の働き、税制上の扱い、物価への備え、選択肢の広がりという4つの角度から分けて見ていく。数字はすべて公的機関が公表している資料と、そこから機械的に導いた試算に限った。
複利は、期間を倍にすると効き方が倍を超える
投資の利点として最初に挙がるのが複利だが、言葉の説明より数字の並びを見るほうが早い。元本100万円を年3%で置いたと仮定し、利息を受け取ってしまう単利と、利息を元本に組み入れる複利を並べると、差は後半で急に開く。
| 経過年数 | 単利(年3%) | 複利(年3%) | 差 |
|---|---|---|---|
| 10年 | 130万0千円 | 134万4千円 | 4万4千円 |
| 20年 | 160万0千円 | 180万6千円 | 20万6千円 |
| 30年 | 190万0千円 | 242万7千円 | 52万7千円 |
期間が10年から30年へ3倍になると、単利の増加分は30万円から90万円へ素直に3倍になる。複利の増加分は34万4千円から142万7千円へ、4倍を超えて伸びる。毎月3万円を積み立てる形でも同じ性質が出る。年3%で20年なら元本720万円に対して約984万9千円、30年なら元本1,080万円に対して約1,748万2千円で、元本を超えた部分は265万円から668万円へ広がる。
ここで効いているのは金額ではなく期間である。月に出せる額を2倍にするのは生活を削る話だが、始める時期を5年早めるのは意思決定だけで済む。20代で投資を考える意味は、資金の大きさよりこの一点にある。なお3%という数字は計算のための仮定で、約束された利回りではない。
税金が引かれない枠を使えるかどうかで手残りが変わる
投資で出た利益には通常、税金がかかる。国税庁によれば、上場株式等の譲渡益に対する税率は所得税15%と住民税5%の合計20%で、ここに復興特別所得税が加わる(国税庁「上場株式等に係る譲渡所得等の課税の仕組み」)。利益が100万円出たとして、約20万3千円が税で引かれる計算になる。
この税がかからない器がNISAである。金融庁の説明では、つみたて投資枠の年間投資枠が120万円、成長投資枠が240万円で、併用すれば年360万円まで使える。生涯の非課税保有限度額は1,800万円、うち成長投資枠は1,200万円が上限で、非課税で持てる期間に期限はない(金融庁「NISAを知る」)。
枠の上限だけを見ると大きな額に見えるが、つみたて投資枠の120万円は月10万円、成長投資枠を含めた360万円は月30万円に相当する。使い切ることが目的ではなく、課税される口座と課税されない口座のどちらに置くかという選択が先に来る。同じ商品を同じ期間持っても、器の違いだけで手残りが2割ほど変わるためである。
日本の家計は、資産の半分近くを現金と預金で持っている
日本銀行調査統計局が2026年8月31日に公表した「資金循環の日米欧比較」は、2026年3月末時点の家計の金融資産構成を並べている。日本の家計金融資産は2,386兆円で、その47.2%が現金・預金だった。米国は141.6兆ドルのうち現金・預金が10.7%、ユーロエリアは35.5兆ユーロのうち31.1%である(日本銀行「資金循環の日米欧比較」)。
| 区分 | 日本 | 米国 | ユーロエリア |
|---|---|---|---|
| 現金・預金 | 47.2% | 10.7% | 31.1% |
| 債務証券 | 1.5% | 4.3% | 2.8% |
| 投資信託 | 6.9% | 13.3% | 12.1% |
| 株式等 | 16.7% | 43.4% | 25.5% |
| 保険・年金・定型保証 | 24.5% | 25.7% | 26.5% |
| 金融資産の合計 | 2,386兆円 | 141.6兆ドル | 35.5兆ユーロ |
株式等と投資信託を足すと、日本は23.6%、米国は56.7%、ユーロエリアは37.6%になる。この差は国民性で説明されることが多いが、保険・年金・定型保証の比率は三者ともほぼ4分の1で並んでいる。違いが出ているのは、残りを現金で持つか市場で持つかという一点である。どちらが正解という話ではなく、物価が上がる局面では置き場所の違いが結果の違いになるという事実が残る。
少額と分散が、始めるときの壁を下げている
まとまった資金が必要だという前提は、いまの制度では当てはまらない。投資信託は100円や1,000円の単位で買えるものがあり、つみたて投資枠の対象商品は毎月決まった額を自動で買い付ける形が基本になっている。家計の中で先に差し引いてしまう設計にできるため、支出を我慢する意志の強さに頼らずに続けられる。支出を仕組みで管理する考え方はお金管理と節約の記事と重なる部分が多い。
一本に集中しない形を選べることも利点のひとつである。公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人は、2026年度第1四半期末で317兆7,596億円を預かり、その構成を国内債券25.59%、外国債券24.60%、国内株式24.48%、外国株式25.33%としている(年金積立金管理運用独立行政法人「最新の運用状況」)。4つの資産にほぼ4分の1ずつ置く形である。
個人が同じ構成を自分で組むのは手間がかかるが、複数の資産をまとめた投資信託を1本持てば近い形になる。値動きの方向がそろわない資産を混ぜることで、全体の振れ幅は小さくなる。地域に移って働き方を組み替える選択を考えている人にとっては、収入の波を資産側で受け止める余地が生まれる。暮らす場所の選択肢を広げる情報はFLASPOでも扱っている。
よくある質問
貯金をある程度ためてから始めるべきか。生活費の3か月から6か月分を現金で確保しておく考え方が広く使われている。失業や入院で収入が止まったときに、値下がりしている資産を売らずに済ませるための現金である。この分を確保したうえで、残りの余力から積み立てに回す順番になる。節約で原資をつくる手順は生活費の内訳から削る順番を整理した記事が参考になる。
投資のメリットは結局、お金が増えることだけなのか。手に入るのは金額だけではない。物価が上がっても購買力が削られにくくなること、税制の枠を使って手残りを増やせること、そして収入源が給与一本でなくなることが含まれる。働き方や住む場所を変える判断をするとき、選べる幅が広がるのは資産がもたらす効果のひとつである。
NISAの枠は使い切らないと損をするのか。年間投資枠は翌年に繰り越せないが、使わなかったからといって生涯の総枠1,800万円が減るわけではない。急いで埋めるために生活費を削ると、途中で売る必要が生じて複利が途切れる。枠の大きさは上限であって目標ではない。
利益が出たら確定申告が必要になるのか。NISAの口座で出た利益は課税されないため申告は不要である。課税口座でも、源泉徴収ありの特定口座を選んでいれば証券会社が納税まで済ませる。損失を翌年以降に繰り越したいときや、複数の口座の損益を通算したいときは申告したほうが有利になる場合がある。節約で浮いた分の使い道を考える段階では、節約で得られるものを整理した記事も合わせて読んでおきたい。
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