平均的な学生の家計は、年に1万1千円しか残っていない
節約の話は、どれだけ我慢できるかという根性の問題に落ちやすい。先に見ておきたいのは、手元に実際いくら残っているかである。日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査によると、大学学部(昼間部)の収入は年間2,030,100円、支出にあたる学生生活費は2,019,100円だった。差は11,000円しかない。
月あたり900円ほどの余りで1年を回している計算になる。専門書を2冊買えば消える水準であり、平均という言葉から想像される余裕はここにはない。だからこそ、支出をいくらか圧縮できたときの効き方が大きくなる。
支出の内訳は学費が1,221,800円、生活費が797,300円。学費は入学した時点でほぼ決まってしまうので、手を入れられるのは生活費の79.7万円、月に直して約66,400円の側だ。この66,400円を5パーセント圧縮すると月3,300円、年におよそ4万円が残る。余力が年1万1千円の家計にとって、4万円は性質の違う金額になる。
節約で得られるものを測る物差しは、削った額の大小ではない。削った額が自分の家計の余力に対して何倍になるか、という比率のほうである。平均値に当てはめれば、月3,300円の圧縮は余力をおよそ4倍に膨らませる操作にあたる。
浮かせた1万円は、アルバイト8時間半に相当する
金額だけで語ると節約は地味に見える。学生にとってもう一つ分かりやすい単位があって、それは働かずに済む時間だ。
厚生労働省が取りまとめた令和8年度の地域別最低賃金は、答申時点の全国加重平均で1,177円。前年度の1,121円から56円引き上げられ、昭和53年度に目安制度が始まって以降で2番目に大きい上げ幅となった。この時給を基準に置くと、月1万円を浮かせる行為は約8.5時間の労働と釣り合う。
年単位にすると見え方が変わる。月1万円は年12万円、時間に換算すれば約102時間である。学生生活調査のアルバイト収入は年間507,700円だったので、同じ時給で割ると年431時間、週あたり8.3時間ほど働いている姿が出てくる。節約で年12万円を確保できる人は、そのうち4分の1近くのシフトを手放せる。
| 圧縮できた額(月) | 年額 | 時給1,177円での労働時間 | 週あたりに戻る時間 |
|---|---|---|---|
| 3,000円 | 36,000円 | 約31時間 | 約35分 |
| 5,000円 | 60,000円 | 約51時間 | 約59分 |
| 10,000円 | 120,000円 | 約102時間 | 約1時間58分 |
| 15,000円 | 180,000円 | 約153時間 | 約2時間57分 |
週に1時間や2時間と聞くと小さく感じるかもしれない。ただ、戻ってくるのは平日の夜や土曜の昼といった、ゼミの準備や就職活動に使える時間帯である。収入を増やす方向で同じ余裕を作ろうとすれば、逆に時間を差し出すことになる。向きが反対なのだ。
仕送りが細る流れのなかで、節約は自衛として働く
この2年で、学生の収入の出どころが入れ替わった。学生生活調査で収入構成比を見ると、家庭からの支援は55.8パーセントから50.7パーセントへ5.1ポイント下がり、アルバイト収入は19.1パーセントから25.0パーセントへ5.9ポイント上がっている。奨学金は20.7パーセントから21.6パーセントで、ほぼ横ばいだった。
減った家庭からの支援を、自分の労働で埋めている形である。アルバイトに従事した学生の割合も令和2年度の80.7パーセント、令和4年度の83.8パーセントを経て、令和6年度は86.4パーセントまで上がった。「家庭からの支援のみでは修学がやや困難・非常に困難及び支援無し」と答えた層は31.5パーセントから35.1パーセントに増えている。
一方で奨学金を受給している学生の割合は51.1パーセントで、前回より3.9ポイント減った。借りる方向の選択肢がそのまま広がっているわけではない。平均額や10年の推移は大学生の一人暮らしと仕送りに整理がある。
この地合いで節約が持つ意味は、単に貯金が増えることではない。仕送りが月に5,000円減ったときに、シフトを増やさずに吸収できる幅を先に作っておく、という保険の側面だ。支出を絞っていない家計は、収入側が動いた瞬間に働く時間で埋めるしか手がなくなる。
物価が上がる局面では、同じ暮らしを続けるだけで支出が増える
去年と同じ部屋に住み、同じものを食べていても、支払う額は同じにならない。総務省統計局の消費者物価指数によると、2026年8月の全国の総合指数は2025年を100として102.2、前年同月比で1.9パーセントの上昇だった。生鮮食品を除く総合は1.7パーセント、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は1.9パーセントの上昇である。
学生の家計への出方はもっと急だった。学生生活費は令和4年度の1,824,700円から令和6年度の2,019,100円へ、194,400円すなわち10.7パーセント増えている。同じ期間の収入の伸びは3.2パーセントにとどまるので、差のぶんは暮らしの内側で吸収されたことになる。
つまり何もしなければ、家計は毎年少しずつ悪くなる。節約を「余裕を作る作業」と捉えると始めるきっかけを失いやすいので、「現状を維持するための作業」と置き直したほうが続く。削る順番の考え方は大学生の節約とはにまとめた。
物価の上がり方は費目ごとに違うから、効きやすい場所も毎年動く。年に一度は契約まわりを点検して、いまの価格と自分の支払額を突き合わせる時間を取っておきたい。
時間を使う節約と、時間を生む節約を分けて考える
節約には2種類ある。毎回の行動で稼ぐものと、一度の手続きで自動的に効き続けるものだ。この区別を置かないまま始めると、労力の割に残らない。
自炊で月1万円を浮かせる場合を考える。買い物と調理と片づけに1日40分、月に20時間を使うとすれば、時間あたりの見返りは500円である。令和8年度の最低賃金の全国加重平均1,177円を大きく下回る。栄養や生活の整え方として自炊を選ぶのは理にかなっているが、節約の手段として最初に置くには効率が悪い。
対して通信契約の見直しは、申し込みの1、2時間で終わり、その後は毎月自動で差が出る。月2,000円下がれば年24,000円、4年で96,000円になる。手間は最初の一度きりなので、時間あたりの見返りは自炊と桁が違う。
時間を守る意味は、学生生活調査の生活時間の集計からも読み取れる。大学学部(昼間部)では「大学の授業」「大学の授業の予習・復習、課題など」「娯楽・交友」のそれぞれに週1時間以上を費やす学生が9割を超えていた。削るべきでない時間はすでに埋まっている。FLASPOが学生の相談を受けてきた範囲でも、家計の相談と単位の相談は同じ時期に重なって出てくる。
アルバイトで得られるものは収入だけではないという整理は大学生がアルバイトで得るものにあるので、働く時間を一律に減らす話にはしたくない。配分の問題として扱うのが実際的だ。
よくある質問
節約しているのにメリットを感じられないのはなぜですか。削っている対象が変動費だけになっている可能性が高い。外食を1回減らす判断は毎回やり直しが必要で、効果も月によってばらつく。毎月自動で引かれるものを1円でも下げると、翌月から何もしなくても差が出る。感覚として分かりやすいのは後者のほうだ。
保健衛生費も削ったほうがよいですか。おすすめしない。学生生活調査での保健衛生費は年間49,100円、月あたり4,100円ほどで、家計全体から見れば小さい。歯科の受診を先送りして治療費が膨らむ例は多く、節約として計算が合わなくなる。
食費はどこまで下げられますか。自宅から通う学生の食費は年間126,900円、月あたり約1万600円だった。下宿やアパートの学生は年間321,700円、月あたり約2万6,800円なので、自炊中心に切り替えれば1万円前後の圧縮は現実的である。ただし自宅生の水準を下回ると栄養が偏りやすいので、下限の目印として覚えておきたい。
節約より収入を増やすほうが早くありませんか。短期的にはそうなる場合がある。ただしアルバイト従事者の割合はすでに86.4パーセントに達しており、働いていない学生のほうが少数になった。多くの人にとって残っているのは時間を増やす選択だけで、そこには授業と体力の上限がある。
何から始めればよいですか。契約書や引き落とし明細を1か所に集めて、月額が決まっているものを書き出すところから始めるとよい。金額の大きい順に並べると、どこに手を入れれば割に合うかが自然に見えてくる。
出典
日本学生支援機構「令和6年度学生生活調査」https://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/2024.html(有効回答12,659人、大学学部昼間部のn=7,461)
厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の改定額が答申されました」(令和8年9月3日)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_75950.html
総務省統計局「消費者物価指数(CPI)全国 2026年8月分」https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/index-z.html
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