求人票に「時給1,200円」と書いてある。これは高いのか、それとも相場より安いのか。判断に迷うのは、比べる相手を決めていないからだ。時給には法律で定められた下限と、統計で測られた平均という二つの基準があり、どちらに当てるかで答えが反対になることもある。
相場という言葉には二つの中身がある
一つは地域別最低賃金である。都道府県ごとに決まり、これを下回る契約は賃金部分が無効になる。強制力のある床なので、求人票の数字がここを割っていればその場で問題になる。
もう一つは実際に支払われている額の平均で、厚生労働省の賃金構造基本統計調査が毎年測っている。こちらは守るべき基準ではなく、交渉や職種選びの目安として使う数字だ。床より平均のほうが当然高く、その差がどれだけあるかを知っておくと、提示額の位置が見えてくる。
混同が起きやすいのは、求人サイトが掲げる「平均時給」である。掲載された募集の単純平均なので、募集が多い都市部や人手不足の業種に引っ張られる。公的統計の平均とは母集団が違うため、同じ言葉でも別の数字になる。
以下では、下限と平均を順に見てから、年齢と企業規模による差、そして月収に直したときの実感に進む。職種ごとの働き方の違いそのものは大学生のアルバイトの種類を比較で扱っている。
下限は住んでいる都道府県で決まる
令和8年度の地域別最低賃金は、47都道府県すべてで答申が出そろった。改定後の全国加重平均額は1,177円。前年度の1,121円から56円引き上げられ、都道府県別の引上げ額は54円から65円の幅に収まった。
金額の開きは小さくない。最高額は1,280円、最低額は1,085円で、両端の差は195円になる。1日5時間のシフトなら1日で975円、月20日入れば19,500円の違いが生じる計算だ。進学先を決める段階で、生活費と時給の両方が地域によって動くことは押さえておきたい。
改定額は都道府県労働局長の決定を経て、令和8年10月1日から12月2日までの間に順次発効する。全国いっせいではないため、発効日をまたぐ月の給与は前後の単価が混ざる。自分の勤務地の発効日は、厚生労働省の地域別最低賃金の全国一覧で確かめられる。
なお最低賃金は、時給で払われていなくても適用される。月給や日給の場合は時間当たりに換算して比べる仕組みなので、固定給の仕事でも計算すれば下限を割っているかどうか判定できる。
産業による差は1,400円を超える
令和6年賃金構造基本統計調査によると、短時間労働者の1時間当たり賃金は男女計で1,476円だった。前年から4.5%増えている。産業別に並べると、同じ短時間の働き方でも単価がこれだけ散らばる。
| 産業 | 1時間当たり賃金(男女計) | 対前年増減率 |
|---|---|---|
| 宿泊業,飲食サービス業 | 1,190円 | 4.8% |
| 卸売業,小売業 | 1,217円 | 1.1% |
| 製造業 | 1,238円 | 5.7% |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 1,246円 | ▲0.6% |
| 運輸業,郵便業 | 1,291円 | 0.2% |
| サービス業(他に分類されないもの) | 1,364円 | 7.5% |
| 情報通信業 | 1,784円 | 9.2% |
| 医療,福祉 | 2,086円 | 3.4% |
| 教育,学習支援業 | 2,627円 | 1.7% |
最も低い宿泊業・飲食サービス業と、最も高い教育・学習支援業の差は1,437円。2倍ではなく2.2倍である。学生の募集が集まりやすい飲食と小売は、どちらも1,200円台の前半に沈んでいる。
ただしこの統計は学生だけを抜き出したものではない。短時間労働者全体の平均年齢は45.9歳、勤続年数は6.5年で、教育・学習支援業の高さには大学の非常勤職なども含まれる。塾講師の募集が2,627円で出ているわけではないので、産業間の順序と開きの大きさを読む材料として使うのが妥当だ。
年齢と企業規模でも位置がずれる
同じ統計を年齢階級で切ると、若い層の単価は全体平均よりはっきり低い。19歳以下は1,137円、20歳から24歳は1,228円。25歳から29歳で1,523円まで上がり、ここで初めて全体平均の1,476円を超える。
19歳以下の1,137円は、令和8年度の最低賃金の全国加重平均1,177円を下回っている。これは違法が横行しているという話ではなく、統計の対象が令和6年6月分であり、当時の下限がより低かったためだ。言い換えれば、最低賃金が上がるときに最も押し上げられるのは10代の層ということになる。
企業規模で見ると、大企業1,413円、中企業1,638円、小企業1,424円。大きい会社ほど高いという直感は当たらない。大企業はマニュアル化された定型業務の比重が高く、中規模の事業所では一人が担う範囲が広いぶん単価が上がりやすい、という説明が成り立つ。
つまり同じ1,200円でも、19歳の飲食なら相場の上側、24歳の塾講師なら下側に位置する。自分の年齢と業種を決めてから数字を当てないと、高いか安いかの判定はできない。
月収に直すと見え方が変わる
時給の次に確かめるのは、月に入る額である。日本学生支援機構の令和6年度学生生活調査では、大学学部(昼間部)のアルバイト収入は年間507,700円だった。12で割れば月およそ42,300円になる。
この数字は全学生の平均なので、働いていない13.6%も分母に含まれる。実際に働いている人の手取り感覚に近いのは、全国大学生協連が2025年に測った月額で、自宅生が46,377円、下宿生が37,620円だった。下宿生のほうが低いのは、家賃を払うために働くはずの層が時間を確保しきれていないという、ねじれた事情を映している。
単純計算との差も見ておきたい。時給1,200円で週12時間入れば、1か月で約62,000円になる。実測の4万円台との開きは、試験期間や長期休暇でシフトが揺れること、月によって入れる日数が変わることから生まれる。年間で均すと、週12時間を12か月続けられる学生は多数派ではない。
単価を上げる方向に動くなら、時給の職種を替えるほかに、成果で値がつく仕事に寄せる道もある。学生が自分で単価を決める場合の考え方は学生フリーランスの収入の実像にまとめた。FLASPOが見てきた範囲でも、時給を50円上げる交渉より、通勤時間を30分削るほうが時間当たりの実入りは改善しやすい。
よくある質問
時給1,200円は相場として妥当ですか。地域別最低賃金の全国加重平均1,177円は上回っているので、下限の基準では問題ない。ただし短時間労働者全体の平均は1,476円で、飲食や小売の産業平均1,200円台と比べると標準的、他産業と比べると低めという位置になる。
最低賃金は10月からすぐ上がりますか。令和8年度の改定額は10月1日から12月2日までの間に都道府県ごとに順次発効する。自分の勤務地の発効日より前の勤務分は旧額のままなので、給与明細で単価が切り替わった日を確認するとよい。
塾講師は本当に時給が高いのですか。統計上は教育・学習支援業の短時間労働者が2,627円で最も高い。ただし対象には大学の非常勤など学生以外の職も含まれる。学生向けの募集では、授業1コマ単位の支払いで、準備や報告の時間が含まれない形も多いため、拘束時間で割り直して比べたい。
交通費は時給に含めて考えるべきですか。別に支給される場合は収入に足し、支給されない場合は実費を差し引いて時間当たりに直すのが正確である。往復600円かかる職場に4時間入るなら、時給換算で150円分が失われている。
深夜や残業で単価は上がりますか。22時から翌5時までの労働には25%以上の深夜割増が、1日8時間または週40時間を超える労働には25%以上の時間外割増がつく。18歳未満は原則として深夜に働けないため、学年によって入れる時間帯が変わる。
出典
厚生労働省「令和8年度地域別最低賃金額改定の答申について」/厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 短時間労働者の賃金」/日本学生支援機構「令和6年度学生生活調査結果」/全国大学生活協同組合連合会「第61回学生生活実態調査」
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