請求した金額と、手元に残る金額は別物である
「月に10万円稼いだ」という話を聞いたとき、それが請求書に書いた金額なのか、口座に入った金額なのか、使った経費を引いた後の金額なのかで意味はまるで変わる。業務委託で働き始めた学生がつまずくのは、たいていこの三つの区別である。
公的な調査もこの点を慎重に扱っている。内閣官房新しい資本主義実現会議事務局と公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁が令和4年8月に実施した令和4年度フリーランス実態調査結果は、収入を尋ねる際に「事業としての収入(売上高)ではなく、売上高から必要な経費等を差し引いた所得の額であって社会保険料及び税を差し引く前の額」と定義している。つまり世に出回る「フリーランスの年収」は、請求額ではなく経費を引いた後の数字である。
学生の場合、経費は少なく見えて意外に積み上がる。撮影の交通費、通信費、ソフトの月額、参考書籍。これを記録しないまま請求額だけを数えると、確定申告の段階で所得を過大に申告することになり、払わなくてよい税を払う。収入の話は、最初に売上と経費と所得を別の欄に分けるところから始まる。
分布を見て、最初の目標額を逆算する
では、その所得はどのくらいの帯に散らばっているのか。同じ調査で2,119名に直近1年間の収入を尋ねた結果は、100万円未満が14.1パーセント、100万円から200万円未満が12.6パーセント、200万円から300万円未満が12.7パーセント、300万円から400万円未満が12.6パーセント、400万円から500万円未満が9.5パーセントだった。1,000万円以上は3.4パーセントで、わからない・答えたくないが16.4パーセントを占める。
注意したいのは、回答者の年齢構成が50代37.5パーセント、60代31.6パーセントに偏っていることである。これは本業として長く続けた人の分布であって、在学中の到達点ではない。学生が参照するなら、下から2つの帯の中身を見るほうが実際的である。月あたりに割れば、100万円未満の帯は月8万円台まで、100万円から200万円未満の帯は月8万円台から16万円台にあたる。
もう一つ押さえたいのは収入源の偏りで、主な契約の収入が自分の全収入の100パーセントを占める人が45.3パーセント、80パーセント以上100パーセント未満が14.1パーセントだった。合わせて6割近くが1本の契約に乗っている。在学中は時間の制約で掛け持ちが難しいぶん、この偏りはさらに強く出る。金額の目標を立てるときは、同時に「その1社が止まったら何割が消えるか」も数えておきたい。職種ごとの相場観は動画編集の収入やプログラミングでフリーランスになる方法のように、仕事の種類別に見たほうが実感に近い。
金額に効く引き算と境目を、数字で並べる
請求額から手取りに至る間には、法律で決まった引き算がいくつも挟まる。どこで何が起きるかを一覧にすると、受ける仕事量の判断がしやすくなる。
| 区分 | 金額・率 | 出典 |
|---|---|---|
| 原稿料や講演料などの源泉徴収(支払金額100万円以下) | 支払金額×10.21% | 国税庁 No.2795 |
| 同(100万円超の部分) | (支払金額−100万円)×20.42%+102,100円 | 国税庁 No.2795 |
| 消費税の納税義務の免除 | 前々年の課税売上高1,000万円以下 | 国税庁 No.6501 |
| 基礎控除(合計所得132万円以下・令和7年分) | 95万円 | 国税庁 No.1199 |
| 同(令和8年分・令和9年分以後) | 104万円 | 国税庁 No.1199 |
| 勤労学生控除 | 27万円(合計所得85万円以下) | 国税庁 No.1175 |
| 青色申告特別控除 | 65万円/55万円/10万円 | 国税庁 No.2072 |
| 学生納付特例の所得基準 | 128万円+扶養親族等の数×38万円+社会保険料控除等 | 日本年金機構 |
源泉徴収は税の前払いなので、引かれた分は確定申告で精算される。多く引かれていれば戻ってくる。学生の取引で混乱が起きるのは、源泉徴収をする取引先としない取引先が混在するところで、支払通知書の金額をそのまま売上に書くと二重に数え違える。請求額と入金額の両方を残しておけば足りる。
単価を下げさせない根拠は、条文の側にある
値段の話は気まずい。学生であればなおさらで、提示された金額をそのまま受けてしまいがちである。ただ、安すぎる報酬を押しつける行為は好みの問題ではなく禁止行為として書かれている。特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の第5条第1項第4号は、同種または類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めることを禁じている。相場より明らかに低い提示は、交渉の余地があるという以前に、法律が名指しした行為である。
入金の時期にも線が引かれている。第4条は、給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に報酬の支払期日を定めなければならないと定める。支払期日を決めていなければ受領日が支払期日とみなされ、60日を超える設定をした場合は60日を経過する日が支払期日とみなされる。再委託の場合は、元委託支払期日から起算して30日以内である。
実態はまだ追いついていない。調査では主な契約の報酬の支払時期は後払いが47.8パーセント、定期払いが24.8パーセントで、特に決まっていないが20.6パーセントを占めた。前払いと着手金払いはそれぞれ2.0パーセントにとどまる。発注者が一方的な都合で報酬の8割しか払えないと伝えてきた場合の対応を尋ねた設問では、全額払ってもらえるまで交渉すると答えた人が38.8パーセントだった。先に条文を知っているかどうかで、この3割台に入れるかが決まる。
控除の境目を踏まえて、受ける量を決める
税の側から見た境目は、ここ数年で動いている。基礎控除は合計所得金額が132万円以下の人について、令和7年分が95万円、令和8年分と令和9年分以後が104万円、令和10年分以後が99万円である。令和8年分の規定は令和8年12月1日に施行される点も押さえておきたい。勤労学生控除は27万円で、合計所得金額が85万円以下かつ勤労に基づく所得以外の所得が10万円以下という条件が付く。この85万円は令和8年12月1日施行で令和8年分から89万円以下になる。
帳簿をつければ控除が増える。青色申告特別控除は、正規の簿記の原則で記帳して貸借対照表と損益計算書を添え、翌年3月15日の期限までに申告すれば55万円。これに優良な電子帳簿の保存かe-Taxでの送信が加わると65万円、どちらの要件にも当たらない場合は10万円である。所得が控除額より少なければ、その所得が限度になる。
消費税は桁が違う。納税義務の免除は前々年の課税売上高が1,000万円以下なら原則として適用されるため、学生のうちに該当することはまずない。落とし穴は登録のほうで、課税売上高が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者の登録を受けていると納税義務は免除されない。取引先に求められて軽い気持ちで登録すると、申告と納付が増える。先に取引の条件と見比べる価値がある。
手続きの順番を整えたい場合はライティングとフリーランスの実態のように仕事と収入を合わせて追った記事が参考になり、地域で働く選択肢を広く見るならFLASPOも覗いてみてほしい。
よくある質問
最初の単価は、どう決めればよいですか。時間あたりの希望額に作業時間を掛け、修正の回数と調べものの時間を足すところから始める。そのうえで提示額が同種の仕事の相場から著しく外れていないかを確かめる。相場より大きく下回る提示には、第5条第1項第4号という根拠を添えて質問してよい。
源泉徴収されていたら、確定申告はしなくてよいのですか。源泉徴収は概算の前払いなので、精算は申告で行う。引かれた額が本来の税額より多ければ還付される。逆に申告しないまま放置すると、戻るはずの金額をそのまま置いていくことになる。
入金が遅い取引先に、どう切り出せばよいですか。催促というより条件の確認として聞くほうが通りやすい。支払期日が決まっていなければ受領日が支払期日とみなされ、60日を超える取り決めは60日を経過する日とみなされる。この扱いを添えて、支払期日を明記した書面を求めれば足りる。
経費はどこまで入れられますか。業務のために使った支出が対象で、私用と混ざるものは使った割合で分ける。自宅の通信費や電気代を全額入れるのは通らない。領収書と、何の仕事に使ったかの一行メモを残しておけば、申告のときに迷わない。
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