協力隊の受け入れは何でつまずくか|行政と60%・地域と45%という出発点

協力隊がうまくいかなかった話は、辞めた隊員の側から語られることが多い。受け入れた自治体の運用のどこに穴があったのかを数字で示した資料は少ない。長野県が県内の現役隊員187人に直接聞いた調査が1本あり、そこには着任の前からずれが生じている様子が記録されている。

ずれは着任してから起きるのではない

最初に調査の形を確かめる。長野県企画振興部地域振興課が令和4年7月28日に公表した令和3年度長野県地域おこし協力隊活動状況アンケート調査結果は、県内72市町村で令和4年2月1日時点に隊員だった366人を対象とし、187人から回答を得ている。回収率は51.09パーセント。隊員本人がフォームに直接答える方式で、市町村の担当者を経由していない。

核心は認識の一致を尋ねた2問だ。着任前後に「隊員としてやりたかったこと」と「行政が期待すること」がほぼ一致またはある程度一致していた隊員は60パーセント。同じ問いを地域住民や関係者に置き換えると45パーセントまで下がる。つまり着任した時点で、行政相手でも4割、地域相手では5割以上の隊員がすでに違和感を抱えている。

相手 着任前後に一致していた割合 任期2〜3年目の現時点
行政(市町村)の期待と 60% 61%
地域住民・関係者の期待と 45% 50%

任期2年目から3年目の隊員に現時点の一致を聞いても、行政相手が61パーセント、地域相手が50パーセントで、着任前後からほとんど動いていない。時間が解決する種類のずれではないということだ。報告書自身も、行政と地域の間で共通認識が形成されないまま募集が行われている例が一定数あると推察している。

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応募者が見ていない項目が、あとで効いてくる

ではどこで食い違うのか。市町村を選んだ決め手を複数回答で聞いた結果が手がかりになる。最も多いのは「活動内容が魅力的だったから」の88件で、「地域自体に魅力を感じたから」84件、「ご縁があったから」62件が続く。

着任した市町村を選んだ決め手 回答数(複数回答)
活動内容が魅力的だったから 88
地域自体に魅力を感じたから 84
ご縁があったから 62
担当者や協力隊OBOGなど関係者に好感を持ったから 35
任期後も暮らし続けられると思ったから 29
報酬や待遇が充実していたから 25
自分をサポートしてくれる体制が充実していたから 24

注目すべきは下の2行である。サポート体制を決め手に挙げた回答は24件で、最多項目の4分の1強しかない。任期後に暮らし続けられるかを見た人も29件にとどまる。応募の段階で、受け入れ体制と出口は見られていないということだ。

報告書の考察はここを素通りしていない。応募者の関心が低いサポート体制が着任後にミスマッチの原因とならないよう、募集段階で自治体側からの丁寧な説明が必要だと書いている。応募者が聞かないから説明しなくてよい、という構えで募集を出した自治体が、着任後に説明不足の帰結を受け取る。

募集の入口の偏りも無関係ではない。募集を最初に知ったきっかけは知人友人からの紹介が27パーセントで最多、JOINのホームページやSNSが25パーセント、県や市町村のホームページやSNSが16パーセントだった。人づてで届いた案件は、条件の説明が省かれやすい。

やりがいは75パーセント、地域の活気は28パーセント

運用の失敗がどこに現れるかを、同じ調査の別の問いが示している。隊員本人の実感を聞いた4つの項目を並べると、極端な落差が出る。活動しやすいと感じている隊員は69パーセント、やりがいを感じている隊員は75パーセント、自分が成長したと感じている隊員は72パーセントである。

ところが「自分の活動によって、地域に活気が出てきたと感じますか」への回答は、大いに感じているが3パーセント、ある程度感じているが25パーセントで、合わせて28パーセントしかない。どちらとも言えないが41パーセント、あまり感じていないが20パーセント、ほとんど感じていないが11パーセントを占める。

隊員が感じていること 肯定的な回答の割合
活動のやりがい 75%
自己の成長 72%
この地域での活動しやすさ 69%
自分の活動による地域の活気への寄与 28%

この47ポイントの開きが、受け入れ運用の失敗がもっとも見えやすい形で出た箇所だと読める。隊員は満足しており、本人の成長も進んでいる。それでも地域が動いた実感は返ってこない。報告書は理由として地域の反応を得られる機会の少なさ、成果が短期では現れにくいこと、活動自体に地域の協力が得られていないことを可能性として挙げ、本調査では確認できていないと明記している。

制度の成果をどの指標で測るかという問題は、国の側でも未解決のまま残っている。経緯は協力隊が何で評価されているのかを整理した記事に書いた。

2年目にだけ、数字が落ちる

時系列で見ると、落ち込む時期が特定できる。活動しやすさを任期の年次別に見ると、1年目と3年目は7割台を保つのに対し、2年目だけが5割台まで下がる。報告書も、2年目のみ顕著に低下すると書き、1年目と3年目には大きな差がないとしている。

考察の説明は具体的だ。1年目は地域や職場に溶け込む段階で、相談できる環境があることがそのまま活動しやすさにつながる。2年目は隊員による企画提案と任期後の生業づくりの模索が本格化し、行政や地域からの理解や活動の制約について壁にぶつかる。3年目は周囲の理解を得て動ける環境を獲得している、という流れである。

活動しにくいと答えた理由の内訳でも、年次による差はほとんどなく、行政職員とのコミュニケーションの課題が上位に来る。受け入れ側が用意すべきものは、2年目に隊員が持ち込む提案を受け止める窓口だということになる。ここが詰まると、本人の意欲が高い時期に行き先を失う。

回答者の属性も運用設計に関わる。前歴はフルタイムの会社員や公務員が58パーセントで、パートタイムや派遣が17パーセント、自営業やフリーランスが16パーセント、学生は6パーセントだった。出身地は県外が88パーセント、着任直前の住所も県外が89パーセントを占める。組織での勤務経験を持つ人が外から入ってくる構図なので、裁量と報告の線引きが曖昧だと衝突しやすい。

国の会議も、原因を受入体制に置いている

この見立ては一つの県の調査にとどまらない。令和8年度地方財政審議会(4月7日)議事要旨は、議題を地域おこし協力隊として自治行政局地域自立応援課から説明を受けた記録で、委員の主な意見が箇条で残されている。

そのうちの一つがこう書かれている。ミスマッチや活動不調・任期途中での離脱について、多くは受入体制や関係者の認識共有、役割の整理等が十分ではないことに起因していると理解した、という内容だ。あわせて、募集案件を組むにあたって地域課題と協力隊の役割を事前に整理し、地域内で共通認識にしていくことが求められている。長野県の調査が数字で示した地点と、同じ場所を指している。

隊員数の目標についても懸念が記録されている。1万人という目標で数字が先行し、ミスマッチや地域の負担につながるのではないかという意見があり、隊員と地域と自治体の「三方良し」を重視してほしいと述べられている。募集枠を増やす圧力と、受け入れ体制を整える時間は、同じ担当課の中で競合する。

任期を終えた隊員がどこへ向かったかという出口の数字は不明511人と地域差24ポイントを追った記事にまとめた。入口の設計が粗いまま出口だけ良くなることはない。地域の課題を先に言葉にしてから人を募る順序は、FLASPOのようなコンテスト形式で学生と自治体が組む場面でも同じように効く。

よくある質問

「長野県の調査結果を全国に当てはめてよいのか」。対象は長野県内の隊員に限られ、回収率も51.09パーセントである。全国の分布を代表する標本ではない。ただし国の審議会で示された原因の見立てと方向が一致しているため、傾向としては参考になる。

「この調査は辞めた隊員に聞いているのか」。聞いていない。対象は令和4年2月1日時点で現役だった隊員である。すでに離れた人の声は含まれないため、実際のずれは数字より大きい可能性がある。

「一致していた割合が6割なら、むしろ高いのではないか」。報告書は、着任前後の時点で既に半数程度の隊員が認識の一致に違和感を覚えていると評価している。選択肢は6段階あり、ここで一致側に数えているのは上位2つだけだ。残りには「少し一致していた」や「どちらとも言えない」が含まれる。

「地域の活気への寄与が28パーセントしかないのは隊員の力不足か」。報告書は理由を特定していない。活動の成果が短期間では現れにくいことも可能性として挙げられており、1年から3年という任期の長さと指標の時間軸が噛み合っていない面がある。

「受け入れ側がすぐ変えられる点はどこか」。募集段階の説明と、2年目の受け止め方の2点に絞られる。前者は行政と地域で役割を書き出して突き合わせる作業、後者は提案が持ち込まれたときの窓口と予算の扱いを決めておく作業で、どちらも人員を増やさずに着手できる。


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