地域のPRをLINEで、という提案は会議でまず反対されない。全国でどれだけの自治体がすでに業務でLINEを使っているのか、その中でPRにあたる使い方がどの位置を占めるのかは、意外に語られない。国が全数で確認した記録が1件あるので、そこから数字を拾っていく。
全1,788団体のうち1,158団体が業務で使っていた
総務省は令和3年4月30日に地方公共団体における業務でのLINEの利用状況等についてを公表している。対象は47都道府県と1,741市区町村を合わせた全1,788団体で、書面による確認に対する回答率は100パーセントだった。全数調査なので、推計や抽出のばらつきがない。
結果は、業務でLINEを利用している団体が1,158で、全体の64.8パーセントにあたる。内訳を開くと差が大きい。都道府県は47のうち47、つまり例外なく使っていた。市区町村は1,741のうち1,111で63.8パーセントにとどまる。残りの630団体は当時まったく使っていなかったということになる。
| 区分 | 対象団体 | 利用団体 | 割合 |
|---|---|---|---|
| 都道府県 | 47 | 47 | 100.0% |
| 市区町村 | 1,741 | 1,111 | 63.8% |
| 合計 | 1,788 | 1,158 | 64.8% |
この調査はPRの効果を測るために行われたものではない。当時のLINEの個人情報の取り扱いが問題になり、行政がどこまで依存しているかを急いで把握する必要があって実施された。目的が別なぶん、利用の広がりについては飾りのない数字が残った。
3,193件の業務のうち、個人情報を扱うのは719件
団体数よりも実態が見えるのは、業務の件数のほうだ。同じ公表資料によれば、LINEが使われていた業務は3,193件あり、そのうち個人情報を扱う業務は719件、22.5パーセントだった。残る約2,474件は個人情報に触れない業務である。
個人情報を扱わない側に並ぶのは、観光やイベントの情報発信、職員間の情報共有による業務効率化、防災や税や社会保険の情報提供、問い合わせ対応のチャットボットといった使い方だ。扱う側には、健康や子育ての相談業務、施設の利用予約、申請手続、イベント参加の申込といったオンライン手続が入る。
地域のPRは、この分類では最も軽い層に位置する。住民の情報を預からずに始められるため、庁内の手続も相談先も少ない。逆に言えば、PRから入った担当課がそのまま相談や申請まで広げたとき、審査すべき論点が一段上がることになる。線を越える瞬間を自覚しないまま機能を足していくのが、いちばん危うい進み方だ。
件数の比率は、1団体あたり平均2.8件の業務が動いていたことも意味する。単一の広報アカウントだけで完結している団体もあれば、課ごとに別々の用途を抱えている団体もある。
届く年代の幅が、ほかのSNSと桁で違う
なぜ自治体がLINEに寄るのかは、利用率の形を見ると説明がつく。令和7年版情報通信白書によれば、LINEの利用率は2014年の55.1パーセントから2024年の94.9パーセントへ上がった。注目すべきは年代別の動きで、60代の利用率が同じ10年間に11.3パーセントから91.1パーセントへ伸びている。
| 調査年 | LINEの利用率(全体) | 60代の利用率 |
|---|---|---|
| 2014年 | 55.1% | 11.3% |
| 2024年 | 94.9% | 91.1% |
同じ白書は、2024年にXとInstagramが全体の半数程度の利用にとどまり、50代でも4割を超える水準だと書いている。半数と9割では、同じ内容を出したときに届く人数が倍近く変わる。しかも自治体の広報が本来いちばん届けたい層、つまり防災や健康の情報を必要とする高齢層が、LINEだけ9割に乗っている。
裏返せば、若い世代に向けた発信をLINEだけで組むと取りこぼす。媒体ごとに誰が見ているかという前提は地域のSNS発信が誰に届くかを利用率から確かめた記事に整理してあり、年代の分布を先に見てから媒体を決める順序になる。
福岡市は31.3万人に491万通を送っていた
規模の上限を知るには、早くから本格運用した事例が参考になる。総務省の地域情報化事例に載る福岡市の取り組みでは、公式アカウントの友だち数が平成30年1月17日時点で約31.3万人に達していた。市の人口は平成27年国勢調査で1,538,681人なので、市民の約2割が登録していたことになる。
配信の実績も記録されている。サービス開始から平成29年12月末までの累計配信数は約491万通、延べの情報受信者数は約36.5万人である。利用者アンケートでは約8割が満足と答えた。事業費の欄は導入費が0千円、運用費が648千円と書かれている。
この事例の肝は通数ではなく、受け取る側が受信したい分野を選べる形にしたところだ。全員に同じ文面を流すのではなく、利用者ごとに絞った情報を届ける設計で、資料は「One to One」の情報配信と呼んでいる。登録者が増えるほど一斉配信の無関心は増えるので、分野を分ける仕組みを最初に入れておくかどうかで数年後の開封率が変わる。
運用費の648千円という水準も見落とせない。年間でこの額なら、紙の広報紙を1回増刷するより安い。費用の壁が低いことが、都道府県で100パーセントまで広がった理由の一つだろう。
始める前に決めておく4つのこと
ここまでの数字を踏まえると、PRのためにアカウントを開く段階で先に決めるべき項目が絞れる。第一に、個人情報を扱う業務に広げる予定があるかどうか。扱わない範囲で止めるなら手続は軽く、広げるなら庁内の審査と外部サービスの選定が別途必要になる。
第二に、配信を分野で分けるか一斉で流すか。福岡市の例が示すとおり、分けた設計は後から入れるより最初から組んだほうが安い。第三に、送る頻度の上限を文書で決めること。プッシュ通知は相手の手元で鳴るため、週に何通までという取り決めがないと、ブロックが静かに積み上がる。
第四に、無料で送れる通数の枠を把握しておくこと。配信数には料金プランごとの上限があり、登録者が増えると一斉配信の費用が急に立ち上がる。小さな組織がこの壁に当たる場面は学生団体のLINE公式アカウントで無料200通の壁を扱った記事に具体的に出てくる。
自治体の側に学生が入って運用を担うときは、以上に加えて運用方針の確認が必要になる。誰が投稿を承認し、炎上時に誰が止めるかという手順は自治体のSNS発信に学生が入るときの記事で整理した。地域の課題を企画にしてから発信に落とす進め方なら、FLASPOのような自治体と学生が組む枠組みを入口にする選択もある。
よくある質問
「1,158団体という数字はいまも同じか」。令和3年3月時点の全数調査の結果である。その後、同じ条件で全団体を数え直した国の公表資料は見当たらない。民間の集計では増加が伝えられているが、調査方法が違うため並べて比べられない。最新の状況を言うときは、出典の年を必ず添える必要がある。
「都道府県が100パーセントなのに市区町村が63.8パーセントなのはなぜか」。公表資料は理由を書いていない。担当職員の数、既存の広報手段、システム調達の体制といった差が考えられるが、推測の域を出ない。
「LINEの利用率94.9パーセントは全年代の平均か」。白書の該当表は10代から60代までの利用率をもとに算出されており、70代以上は含まれていない。高齢層の全体をこの数字で代表させることはできない。
「PRだけなら個人情報の検討はいらないのか」。友だち登録そのものが利用者IDの保有にあたるため、名簿としての性質は残る。問い合わせへの返信で住所や連絡先を受け取った瞬間に、扱う業務の側へ移る。線引きを運用ルールに書いておくほうが安全だ。
「一斉配信は何通までが適切か」。公的な基準はない。福岡市の累計491万通という実績は分野を絞った配信を積み上げた結果であり、一斉配信の推奨回数を示すものではない。自組織の登録者数と内容の緊急度から決めることになる。
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