35.3万円は、何を何で割った数字なのか
相場を知りたいときに最初に出てくるのが、世帯年間払込保険料の平均35.3万円という数字だ。生命保険文化センターが2024年4月5日から5月26日まで、全国400地点の世帯員2人以上の一般世帯4,000件を留置調査で集めた結果である。前回調査の37.1万円から1.8万円下がっている。
この平均の作り方には癖がある。分子は世帯の全員が1年間に払い込む保険料の総合計で、世帯主ひとりぶんではない。分母は生命保険に加入している世帯数であって、調査した世帯の全数ではない。つまり未加入の世帯は計算から外れており、加入している世帯だけを並べた平均になっている。
個人年金保険も含めた額だという点も押さえておきたい。老後資金の積み立てとして払っているものが、保障のための保険料と同じ袋に入っている。だから自分の支出と見比べるときは、まず手元の契約を保障と積み立てに分けてから、どちらを35.3万円と並べるのかを決める必要がある。公的な保険料とは別勘定であることは、健康保険料の決まり方を追った記事と読み比べるとはっきりする。
月あたり約2.9万円、ただし最も多い帯は平均より下
年35.3万円を12で割ると、月あたりおよそ2.9万円になる。ただしこの割り算で納得してしまうと相場を読み損なう。同じ調査の分布を見ると、最も多いのは「12万円から24万円未満」で19.3%、次が「12万円未満」の17.8%だ。年12万円未満なら月1万円を切る世帯である。
その上の帯は「24万円から36万円未満」が15.7%、「36万円から48万円未満」が9.9%と細っていく。つまり世帯の数が集まっているのは平均より下の側で、平均値は高額を払う少数の世帯に引き上げられている。中心的な支出額を知りたいなら、35.3万円よりも12万円から24万円という帯を基準に置いたほうが実感に近い。
保険料の相場を検索して出てくる「月2万円台が目安」という言い方は、この平均を12で割った値の近辺を指している。数字としては間違っていないが、最も多い世帯の実態とはずれる。自分の支出が平均より少ないからといって、保障が薄いと決まるわけではない。
世帯主の年齢で10万円以上動く
相場をもう一段分解すると、世帯主の年齢による差が見えてくる。最も高いのは55歳から59歳の40.7万円だった。現役世代の区分でいちばん低い30歳から34歳の29.8万円との差は10.9万円ある。子どもの教育費と老後の準備が重なる時期に払込額が膨らみ、その前後では軽くなる形になっている。
| 世帯主の年齢 | 世帯年間払込保険料(2024年度) | 2012年度 |
|---|---|---|
| 29歳以下 | 32.2万円 | 20.2万円 |
| 30〜34歳 | 29.8万円 | 31.0万円 |
| 35〜39歳 | 31.2万円 | 31.7万円 |
| 40〜44歳 | 37.4万円 | 40.3万円 |
| 45〜49歳 | 36.8万円 | 46.2万円 |
| 50〜54歳 | 38.2万円 | 51.8万円 |
| 55〜59歳 | 40.7万円 | 51.3万円 |
| 60〜64歳 | 34.3万円 | 43.4万円 |
| 全体 | 35.3万円 | 41.6万円 |
右端の2012年度と見比べると、動きの向きが年齢で逆になっていることがわかる。45歳から59歳までの各区分は2012年以降減少傾向が続き、50歳から54歳では51.8万円が38.2万円まで落ちた。反対に29歳以下は20.2万円から32.2万円へと増えている。若い世帯のほうが払込額を増やし、中年期の世帯が絞ってきた12年だったことになる。
誰が払っているかも分かれている。世帯主の年間払込保険料の平均は21.4万円、配偶者は14.1万円だ。どちらも払い込んでいる本人を母数にした平均なので、足し合わせて世帯の額になるわけではない。自分ひとりの支出を比べるなら、世帯の35.3万円より世帯主の21.4万円のほうが近い。
単身世帯は14.4万円、年収との比率で見ると差が縮む
同じ調査は単身世帯を別立てで集計している。2,200人へのインターネット調査による年間払込保険料の平均は14.4万円で、2人以上世帯の35.3万円の4割ほどだ。機関別では民間の生命保険会社が16.0万円、簡易保険が15.0万円、JAが10.3万円、県民共済や生協等が4.0万円と、使う窓口でも開きが出る。
ところが年収に対する比率にすると、世帯の形による差は小さくなる。単身世帯の年間払込保険料対年収比率は平均5.3%、2人以上世帯は6.0%である。2人以上世帯の比率は前回の6.7%から0.7ポイント下がった。金額の差は世帯人数と収入の差を映したものが大きく、収入に対する負担感としては5%台から6%台に収まっている。
単身世帯の比率の分布では「2%未満」が27.2%で最も多く、「2%から4%未満」が17.4%、「4%から6%未満」が10.8%と続く。年収の2%を下回る層が4分の1以上いる一方、平均は5.3%まで上がっている。ここでも平均は上側に引っ張られた値だと読むのが正しい。なお個人単位では、2025年度の生活保障に関する調査で年17.1万円、男性19.6万円、女性15.4万円という値が出ている。
払える額は29.7万円、控除で戻るぶんも勘定に入れる
相場の話で見落とされがちなのが、払っている額と払えると思っている額が一致していないことだ。現在支払っている保険料を含めた世帯の支出可能保険料は29.7万円(前回31.8万円)で、実際の払込額35.3万円を5.6万円下回る。平均的な世帯は、自分が妥当と考える水準より多く払っている状態にある。
窓口による差も相場の幅をつくる。世帯年間払込保険料を機関別にみると、民間の生命保険会社が35.4万円、JAが19.9万円、簡易保険が19.6万円、県民共済や生協等が8.4万円だった。同じ保障を求めても、どこで契約するかで年額の桁が変わる。老後の積み立てでは個人年金保険の払込中の世帯が年20.4万円、一時払の場合は平均565万円である。
実質的な負担は、税の控除で少し軽くなる。国税庁の説明では、平成24年以後に結んだ新契約の場合、一般生命保険料と介護医療保険料、新個人年金保険料の各区分は年間の支払額が8万円を超えると一律4万円の控除になり、合計の上限は12万円だ。さらに令和8年分以後は、23歳未満の扶養親族がいる場合に限って新生命保険料の区分が年12万円超で一律6万円へ引き上げられる。払込額を比べるときは、この戻りも含めて考えたい。地域や働き方による家計の違いはFLASPOでも扱っているテーマだ。
よくある質問
平均より少ないと保障が足りないのか。金額の多寡と保障の十分さは別の軸だ。分布の最多が年12万円から24万円の帯であることからも、平均を基準に不足を判断するのは早い。必要額から逆算する手順は公的保険と民間保険を比べた記事のほうが近い。
月々の目安は収入の何%までか。調査の実績値でいえば、2人以上世帯で年収の6.0%、単身世帯で5.3%が平均である。これは目標値ではなく結果の平均だが、自分の比率がこの水準から大きく外れているなら、理由を説明できるかどうかを点検する材料になる。
若いうちは安く済むのではないか。29歳以下の世帯の払込額は32.2万円で、全体平均の35.3万円と3.1万円しか違わない。しかも2012年度の20.2万円から大きく増えている。年齢が低いほど保険料率は下がるが、契約の本数や個人年金の積み立てが加わると年額は近づく。
この平均は値上がりしているのか。全体では前回37.1万円から35.3万円へ、年収比率も6.7%から6.0%へ下がった。世帯普通死亡保険金額の平均も2,027万円から1,936万円へ低下している。保障額と払込額がそろって縮む方向にあり、相場が上がっているという印象とは逆の動きだ。
出典は公益財団法人生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査 速報版」と「生命保険の保険料は年間どれくらい払っている?」、国税庁「No.1140 生命保険料控除」による。
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