学生の3人に1人が通る道になった
奨学金を「一部の学生が使うもの」と捉えていると、いまの大学の教室の風景とは合わない。日本学生支援機構の奨学金事業に関するデータ集によると、令和6年度には高等教育機関で学ぶ学生358万人のうち115万人が機構の奨学金を利用した。概ね3人に1人である。内訳では給付を受けている学生が10人に1人(10.5%)、貸与を受けている学生が4人に1人(26.4%)という水準になる。
金額の規模も小さくない。同じ年度に給付奨学金は35万人へ1,500億円が支給され、貸与奨学金は94万人へ8,238億円が貸与された。給付と貸与の人数を単純に足した数と、利用者として示された115万人は一致しない。両方の制度にまたがる学生がいるためで、学生一人の学費が複数の制度の組み合わせで成り立っていることを示している。奨学金は例外的な措置ではなく、進学の前提条件の一つとして組み込まれている。
学校の種類で利用率は5倍以上開く
同じ「学生」という言葉でくくっても、どこに通っているかで奨学金との距離はまるで違う。令和6年度の学校種別の利用状況では、専修学校の専門課程が41.8%と最も高く、高等専門学校は7.5%にとどまる。高専は多くが15歳で入学し5年間を過ごす課程で、学費の構造も在学中の生活の形も大学とは異なる。平均の32.2%という数字だけを見ていると、この開きが見えなくなる。
| 学校種 | 全学生数 | 奨学生数 | 利用割合 |
|---|---|---|---|
| 大学 | 2,730,610人 | 865,104人 | 31.7% |
| 短期大学 | 92,500人 | 31,961人 | 34.6% |
| 大学院 | 216,882人 | 48,888人 | 22.5% |
| 高等専門学校 | 55,748人 | 4,194人 | 7.5% |
| 専修学校(専門課程) | 481,853人 | 201,319人 | 41.8% |
| 合計 | 3,577,593人 | 1,151,466人 | 32.2% |
大学院の22.5%も読み方に注意がいる。大学院の奨学金は貸与が中心で、給付奨学金の対象は限られる。進学の判断に借入の見通しが直結するため、利用率の低さがそのまま負担の軽さを意味するわけではない。
収入の2割強を奨学金が占める家計
機構の令和6年度学生生活調査の集計表を見ると、学生の一年間の家計の形が数字で見える。大学学部の昼間部では、奨学金を受けている学生の割合は平均51.1%だった。設置者別では国立43.8%、公立54.8%、私立52.4%で、国立が最も低い。短期大学の昼間部では平均57.3%と、大学より高い水準にある。
金額に移すと重みがはっきりする。大学学部昼間部の年間収入の平均は203万100円で、その内訳は家庭からの支援が102万9,700円、奨学金が43万7,500円、アルバイト収入が50万7,700円、定職収入とその他が5万5,200円である。奨学金は収入全体の2割強を占め、アルバイト収入とほぼ並ぶ。一方で支出側は学費が122万1,800円、生活費が79万7,300円で、合計201万9,100円となる。収入から学費を引いた残りで生活を組み立てる構造になっており、奨学金が止まれば学業の継続そのものが揺らぐ。働く時間との兼ね合いはアルバイトと若者の実態と合わせて見ると理解しやすい。
卒業の翌年から返す側へ移っていく
受け取る側にいる期間は数年だが、返す側にいる期間はその3倍を超える。令和6年度末の時点で既に返還を開始している人は435万人にのぼる。第一種と第二種を別々に数える統計上の人数では497万人で、内訳は第一種が187万人、第二種が310万人である。大学学部で貸与を受けた人の平均貸与総額は323万円、平均返還年数は15年だから、20代前半で返し始めた人の多くが30代の終わりまで払い続ける。
苦しくなる人も一定数いる。令和6年度末の延滞額は723億円で、3か月以上の延滞者は12万7千人、返還者に占める割合は2.6%である。この割合は平成16年度末の9.9%、平成21年度末の21万1千人という水準から大きく下がってきた。減額返還制度と返還期限猶予制度の拡充や、相談体制の整備が効いた結果だと機構は説明している。それでも12万人超という規模は、若い世代の生活設計に奨学金の返還が食い込んでいることを示す。住む場所の選択にも影響し、若者の一人暮らしと単独世帯の動きと無縁ではない。
返し始める時期も固定されている。返還は貸与が終了した翌月から数えて7か月目に始まり、毎月27日に口座から引き落とされる。大学を3月に卒業した人なら、社会に出て半年あまりが過ぎた10月が最初の引き落とし月になる。初任給で生活の形がまだ固まらない時期に、十数年続く支出が加わる設計である。平成29年度以降に第一種の奨学生となった人は、申込時に定額返還方式と所得連動返還方式のどちらかを選んでおり、この選択が返し始めの負担感を大きく左右する。
勤め先が代わりに返す仕組みが伸びている
返還の負担を個人だけで背負わない形も現れてきた。奨学金返還支援(代理返還)制度は、企業などが従業員の返還残額の一部または全部を機構へ直接送金する仕組みである。利用企業は令和3年度の320社から、令和4年度733社、令和5年度1,798社、令和6年度3,266社へと毎年倍前後の勢いで増えた。支援を受けた人数も813人から1万3,421人へ広がり、令和7年9月末には4,154社・2万500人に達している。
広がっている理由は双方に利点があるからだ。従業員側は支援額が非課税となり得るため、同額の給与より手取りの効率がよい。企業側は若手人材への訴求と定着率の改善、経費としての課税優遇が見込める。求人を比べるときに給与額だけでなくこの制度の有無を見る価値があり、奨学金の返還額と初任給から逆算する視点とあわせて判断材料になる。地域での働き方や暮らしを選択肢に入れたい人はFLASPOで地域の情報を集めるところから始められる。
よくある質問
奨学金を使う学生は増えているのですか。制度の重心が移っていると言うほうが正確です。貸与件数は平成24年度の131万9千件から令和6年度の108万7千件へ減り、同じ期間に給付件数は令和2年度の27万7千件から令和6年度の35万1千件へ増えました。令和2年4月に始まった高等教育の修学支援新制度により給付奨学金が拡充された影響が大きく、借りる制度から受け取る制度への置き換わりが進んでいます。
住んでいる形で受け取る額は変わりますか。大学学部昼間部の年額平均では、自宅が38万1,900円、学寮が57万3,400円、下宿やアパートなどが50万8,500円です。自宅以外では住居費が家計に乗るため、受け取る金額も大きくなります。同じ調査では自宅通学の住居・光熱費は計上されていません。
延滞する人の割合はどのくらいですか。令和6年度末では、1日以上の延滞者が31万8千人で返還者の6.4%、3か月以上の延滞者が12万7千人で2.6%でした。1日以上には振替口座の残高不足による一時的な遅れも含まれ、その多くは3か月以内に解消しています。
代理返還制度は自分で申し込めるのですか。手続きの主体は企業などの側です。従業員が直接機構へ申請する制度ではないため、まず勤め先に制度の導入があるかを確かめることになります。導入済みの企業は機構のサイトで公表されており、就職活動の段階で確認できます。
貸与の規模は縮んでいるのですか。貸与金額は平成24年度の1兆815億円から令和6年度の8,238億円へ下がっており、内訳は第一種が2,675億円、第二種が5,562億円です。あわせて令和6年度には授業料後払い制度の実績が初めて計上され、1億円、0.1千件と記録されています。無利子と有利子の比率や新しい制度の立ち上がりを見ておくと、数年後に申し込む世代の選択肢の形が読めます。
機構以外の奨学金はどのくらい使われていますか。大学学部昼間部で奨学金を受けている学生の内訳では、日本学生支援機構のみが83.0%、それ以外の奨学金のみが6.8%、両方を併用している学生が10.2%でした。自治体や大学独自の制度、民間財団の給付型を組み合わせる余地は残っており、機構の基準で届かなかった場合の選択肢になります。
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