高知県安芸郡馬路村の村土は、96パーセントが森林である。そこに住む人は754人。その村の農協が、1年で28億5千万円を超える売上を立てている。村民1人あたりに割り直すと約379万円になる。この落差が村の計画書にどう書かれ、次の5年にどんな数字が置かれたのかを、認定された地域再生計画からたどる。
3,425人が754人になるまでに、65年かかった
最初に人口の来歴を押さえる。内閣府地方創生推進事務局が公表している地域再生計画馬路村デジタル田園都市構想総合戦略には、村の歩みが数行で記されている。昭和35年(1960年)の国勢調査では3,425人。国有林野事業を中心とした林業で栄えていた時期の数字だ。林業が衰退し、令和7年(2025年)3月末の住民基本台帳では754人になった。65年で78パーセントが消えた計算になる。
計画は自然動態と社会動態の両方を書き分けている。出生と死亡の差では、平成11年(1999年)の8人の自然増が頂点で、この年を境に自然減へ転じた。近年は年10人から13人の自然減が続き、令和6年(2024年)は11人の減だった。転入と転出の差では、平成12年(2000年)に転入65人に対し転出54人で11人の社会増となったのが頂点で、以降は細り続け、2024年は8人の社会減である。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、令和32年(2050年)の総人口は343人とされる。いまの754人から25年で半分を下回る水準だ。
| 時点 | 人口 | 種別 |
|---|---|---|
| 昭和35年(1960年) | 3,425人 | 国勢調査 |
| 令和2年(2020年)3月末 | 849人 | 住民基本台帳 |
| 令和7年(2025年)3月末 | 754人 | 住民基本台帳 |
| 令和32年(2050年) | 343人 | 社人研の推計 |
849人という数字は、同じ村が5年前に出した馬路村まち・ひと・しごと創生推進計画に載っている。5年で95人、年平均19人のペースで減ったことになる。数十人規模の集落なら、1つが消えるのと同じ速さだ。
ゆずの売上は、村の規模から外れたところにある
では産業の側はどうなっているのか。計画の数値目標の一番上に置かれているのが馬路村農協の売上高で、令和6年度の現状値は2,855,432,238円と1円単位で書かれている。四捨五入ではなく実額が載るのは、村がこの数字をそのまま成績表として使っているということだ。令和11年度の目標値は2,950,000,000円。伸ばす幅は約9,457万円、率にして3.3パーセントである。
目標の置き方は控えめに見えるが、計画はその理由にあたる課題も書いている。「加工品の売上の主要素が業者売となり、利益率の減少傾向が見られる」という一文だ。卸に頼ると総額は立つが手残りが薄くなる。だからネット直販を進めたいという順序で、具体的な事業に越境ECサイトの構築と海外への販路拡大が並ぶ。村産品の海外進出先の再検討と実証実験、在日外国人や訪日観光客への販売促進の検討も挙がっている。
つまり争点は売上の総額ではなく、どの経路で売るかに移っている。28億円という規模を維持しながら利益率を戻す作業は、新しい商品を当てるより地味で、外からは見えにくい。
村が自分に課した数字は、たった4つだった
計画の数値目標は4項目しかない。人口754人の自治体が5年間の成績を測る指標として選んだのが次の4つである。
| 指標 | 現状値(計画開始時点) | 目標値(令和11年度) |
|---|---|---|
| 馬路村農協売上高 | 令和6年度 2,855,432,238円 | 2,950,000,000円 |
| 移住者数 | 過去5年間の累計 48人 | 令和7年から11年の累計 60人 |
| 子育て世帯の転出数 | 過去5年間 7世帯(山村留学・転勤による転出を除く) | 令和7年から11年 7世帯 |
| 観光客数(うまじ温泉宿泊人数) | 令和5年 6,046人 | 令和11年 7,000人 |
移住者60人は、過去5年の48人から12人の積み増しにあたる。754人の村で5年に60人なら、現在の人口の約8パーセントが外から入ってくる計算になる。都市の自治体が同じ比率を掲げたら無理のある数字だが、ここでは年12人、月に1人を確保し続ければ届く。
子育て世帯の転出数が興味深い。これは増やす目標ではなく、7世帯という現状を超えないようにする目標である。守りの指標を4つのうち1つに割り当てているところに、村の切迫感が出ている。数値目標の立て方そのものを比べたいなら、下田市が関係人口に4つの数値目標を置いた記事と並べて読むと輪郭がはっきりする。
4つの基本目標は「未来を拓くしごとづくり」「人と自然が繋がる流れづくり」「馬路村で育む結婚・出産・子育ての未来」「心惹かれる村づくり」と置かれ、各指標がどの基本目標に紐づくかも表に明示されている。
5年前の計画と並べると、測り方が入れ替わっている
同じ村の前の計画を開くと、指標の性質が違う。令和2年の計画に載っていたKPIは、村内主要民間事業体の総雇用者数を0人から16人へ、移住者数を0人から32人へ、出生数を0人から16人へ、転出者数を120人以下へ、という組み立てだった。いずれも計画開始時点の現状値が0人で、累計を積み上げる形になっている。
新しい計画では、農協売上高28億5千万円や温泉の宿泊6,046人という、すでに回っている実額が現状値になった。0から積み上げる書き方から、いまある数字を少し押し上げる書き方へ替わったということだ。達成の判定がしやすくなる一方で、新しく生まれたものだけを数える余地は減る。
前の計画には、新しい計画に載っていない数字もある。平成29年(2017年)の合計特殊出生率は1.48で、同年の高知県と同水準、全国の1.43を0.05ポイント上回っていた。ただし人口置換水準の2.1とは大きく離れている。社人研の推計も、前の計画では令和42年(2060年)に229人と書かれていた。推計年が違うため単純に比べられないが、どちらも3桁の前半に落ちる見通しである。
合併せずに村のまま残った自治体が、何を資源に据えて計画を書くかという論点は馬路村に限らない。西粟倉村が百年の森林構想を選んだ経緯と読み合わせると、森林を抱えた村の選択肢の幅が見えてくる。
外から関わる入口は、情報発信の側に置かれている
計画の事業欄を読むと、村が外部の力を当てにしている箇所がはっきりしている。しごとづくりの側では村産品のデジタルを活かした販路拡大の検討と越境EC、流れづくりの側ではインターネットを活用した新しい情報発信手法の検討と、ターゲットを絞った移住推進PR動画による情報発信が並ぶ。いずれも村の職員だけで完結しにくい領域だ。
観光の指標がうまじ温泉の宿泊人数に一本化されているのも手がかりになる。令和5年の6,046人を令和11年に7,000人へ、つまり954人の増である。日帰りの来訪者ではなく泊まった人を数える指標なので、滞在の長さを伸ばす施策と相性がよい。
制度としての入口を探すなら、高知県全体の受け入れ状況が参考になる。県内の地域おこし協力隊については304人という隊員数と定住率73.8パーセントをまとめた記事に整理した。企画や発信の経験を地域に持ち込む道筋を考える段階なら、FLASPOのようにコンテスト形式で自治体と学生をつなぐ場を使う手もある。
よくある質問
「農協の売上28億円は村の経済全体を表しているのか」。表していない。計画はこの1組織の売上高をKPIに選んでいるだけで、村内総生産のような指標ではない。林業や公共事業、年金収入は含まれない。それでも村が最上段に置いたという事実が、依存度の大きさを示している。
「754人はいつの時点の数字か」。令和7年3月末の住民基本台帳である。国勢調査の数字ではないため、ほかの資料と比べるときは基準日と種別を合わせる必要がある。
「2050年に343人という推計は決まった未来なのか」。社人研の推計は現在の傾向を延長した試算で、計画はその抑制を目的に掲げている。計画書そのものが、推計どおりになることを前提にしていない。
「移住者60人はどう数えるのか」。令和7年から11年までの累計である。過去5年の実績が48人なので、年平均で12人を5年続ける設計になる。1世帯で複数人が移れば1年分が一度に埋まる規模だ。
「ゆず以外に数字で追える産業はあるのか」。現行計画の指標に限れば、産業側は農協売上高の1本だけである。森林が村土の96パーセントを占めながら林業の指標が置かれていない点は、前の計画から引き継がれた空白として残っている。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
