移住の目標が、二桁で置かれている
伊豆半島の南端にある静岡県下田市は、観光地としての知名度があり、地方創生の文脈でも名前が挙がる。その市が自分で立てた計画を開くと、目標の桁が思っていたものと違う。移住相談の窓口を使って実際に移り住んだ人の数を、9人から46人に増やす。これが第2期の計画に書かれた数値目標である。
出所は市が令和6年12月に改訂した第2期下田市まち・ひと・しごと創生総合戦略で、計画の一覧は市の地方創生のページに置かれている。第1期は平成27年度に、第2期と将来人口ビジョンは令和元年度に策定された。
この二桁という桁感は、自治体の移住施策を外から見るときに取り違えやすいところだ。移住の相談会に何百人が来た、という報道と、実際に住民票を移した人の数は別の指標である。計画の側は後者で目標を立てているので、学生が関わり方を考えるときは後者の桁で見ておいたほうが話が合う。
人口は市制施行時の6割を切った
目標の桁を理解するには、市の規模を先に押さえる必要がある。令和7年度下田市統計書によると、住民基本台帳の人口は市制施行の翌年である昭和46年4月1日に3万914人だった。令和7年4月1日は1万9016人で、世帯数は1万246。54年で38.5パーセント減ったことになる。
2万人を割ったのは令和5年で、同年4月1日が1万9963人だった。国勢調査でたどると、平成27年の2万2916人から令和2年の2万183人へと5年で2733人減っている。将来の見通しはさらに急で、総合戦略は国立社会保障・人口問題研究所の平成30年推計を引いて、令和27年には1万767人になるとしている。
減り方の中身は二つに分かれる。自然減のほうは、出生数が年200人程度から100人程度へ下がる一方で、死亡数が年300人程度から400人程度へ増え、差が開き続けている。社会減のほうは、転入数と転出数がともに年1400人程度から減りながら、転出が転入を上回る形が続き、年100人から200人程度の減少になっている。この二つが同時に進むので、施策で動かせる幅は小さい。
第1期の基本目標は、どれも届かなかった
第2期の計画は、第1期の総括から書き始められている。評価の文言は率直だ。基本目標はいずれも減少し、人口減少に歯止めがかかっていない状況にある、と市自身が記している。
数字で追うとこうなる。暮らし続ける地域づくりの基本目標に置かれた転出人口は、平成25年度の1072人を基準に、平成28年度918人、平成29年度1012人、平成30年度925人と動いた。第1期の目標値は720人だったので、届いていない。人づくりの基本目標だった出生数は、平成26年度の123人を基準に111人、101人、103人と推移し、目標の150人から離れていった。
成果が出た部分も書かれている。首都圏で開かれる移住相談会への参画、移住相談サポーター制度の創設、市が独自に開く移住相談イベントによって、移住に関する相談件数は順調に増えている。こども医療費の無償化や病児預かりなど子育て支援の整備も進んだ。ただし相談が増えても転出超過は止まっておらず、相談者が求める仕事と住まいについて相談機能を拡充する必要がある、という課題の立て方になっている。
第2期の目標を並べる
第2期の基本目標と重要業績評価指標のうち、人の流れに関わるものを抜き出すと次のようになる。
| 指標 | 基準値 | 目標値 |
|---|---|---|
| 社会増減数 | △160人(平成30年度) | △115人 |
| 出生数 | 105人(平成30年度) | 102人 |
| 移住相談窓口等を利用した移住者数 | 9人(平成30年度) | 46人 |
| 空き家バンク利用者マッチング数 | 10件(令和元年度) | 22件 |
| ワーケーション関係施設利用者数 | ー(平成30年度) | 1,800人 |
| ふるさと応援寄附件数 | 9,000件(令和元年度) | 21,000件 |
いちばん上の行が、この計画の性格を示している。社会増減の目標は増加ではなく、マイナス160人からマイナス115人への縮小である。出生数の目標値は基準値より3人低い。減らさないことではなく、減り方を緩めることが目標に据えられている。
一方で、寄附の件数だけは9000件から2万1000件へと2.3倍を掲げている。住む人の数では戻せない分を、関わる人の数で埋めようという配分がここに出ている。同じ構えの計画は各地にあり、宮崎県の例は日南市の総合戦略は「維持」で書かれている|社会増減△37人と出生数200人で扱った。
計画の骨組みも押さえておくと、どの指標がどこに属しているかがわかる。第2期は四つの基本目標で組まれており、観光づくり、交流産業づくり、人づくり、暮らし続ける地域づくりの順に並ぶ。掲げたコンセプトは、下田の魅力を活かした世界に誇るふるさとづくり、というものだ。移住と出生は三つめの人づくりに、関係人口は二つめの交流産業づくりに入っている。関係人口が人の話ではなく産業の話として置かれている点が、この市の整理の特徴になっている。
関係人口の側に用意された入口
第2期の計画には関係人口創出・拡大事業の推進という施策が立っており、具体的な取組は二つ挙がっている。一つはワーケーションの推進で、新規ビジネスの創出と遊休資産の活用を狙い、企業と人材の来訪を促しながら、下田の魅力や課題を知るイベント、地元企業とのビジネスマッチングを行うとされている。もう一つはふるさと納税の返礼品開発で、協力事業所と組んで体験型の返礼品をつくり、見どころの情報を交流サイトを通じて発信する形だ。
受け入れの器は数の上では足りている。統計書によると、令和7年3月31日現在の宿泊施設は508軒で、ホテル・旅館が251軒、簡易宿所が257軒。宿泊人員は令和6年度が91万3718人で、令和4年度の89万5538人から増えている。伊豆急下田駅の乗降人員は令和6年に87万2001人だった。人口1万9016人の市に、泊まる人が年に91万人来ている計算になる。
学生が入れそうな隙間は、この器と目標の落差にある。ワーケーション関係施設の利用者数は基準値が空欄で、目標が1800人。積み上げの実績が無いところに数字を置いた指標なので、持ち込める企画の余地が残っている。滞在しながら関わる形の制度的な枠は学生が地域に滞在して働くには|ワーケーション制度の外にある3つの枠に、寄附から関わりに変える道筋は関係人口のふるさと納税事例|5,963万件の寄附を関わりに変えるにまとめてある。地域との関わり方を広く探すならFLASPOも使える。
よくある質問
下田市は地方創生の成功事例なのか。観光の集客という一点では規模が際立つが、人口の指標では市自身が目標未達を認めている。成功か失敗かという二択で見るより、どの指標で何を目標にしているかを読むほうが実態に近い。
移住者46人という目標は少なすぎないか。この指標が数えているのは、市の相談窓口などを経由して移住した人に限られる。窓口を通さずに移った人や、二地域居住の形で関わる人は含まれない。施策の効果を測るための範囲を絞った指標なので、移住者の総数とは一致しない。
計画はいつまでのものか。第2期は令和2年度から6年間の計画として策定され、令和4年8月と令和6年12月に改訂されている。期間の終わりが近いため、次の計画で指標が組み替えられる可能性がある。最新版の日付を確認してから引用したほうがいい。
学生が関われる窓口はどこか。計画の担当は市の企画課系の部署で、観光の実務は観光交流課、移住相談は移住の窓口が受ける。施策ごとに担当が分かれているので、ワーケーションの企画なら観光、空き家の活用なら移住の側に先に当たることになる。統計書の巻末には部署の一覧と連絡先が載っている。
数字を自分で追い直したいときは何を見ればよいか。住民基本台帳の人口と宿泊の実績は市の統計書に毎年度分が載る。目標値の側は総合戦略の改訂版にあり、改訂のたびに基準年度が置き換わる。両方を同じ年度で揃えてから比べないと、達成度の読み違いが起きる。
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