返礼品が届いた段ボールを開けた瞬間に、その自治体との関係はたいてい終わる。寄附した側に悪気はなく、受け取った側も次の接点を用意していないことが多い。年に6千万件近く発生しているこの一瞬を、続く関わりに変えられないか。国はそれを一つの事業類型として試しており、成功も失敗も記録に残っている。
5,963万件の寄附のうち、使い道まで選べる余地は限られている
まず土台の数字を確かめる。総務省のふるさと納税に関する現況調査結果(令和8年度実施)によると、令和7年度の受入額は約1兆3,314億円、受入件数は約5,963万件だった。前年度から受入額は4.6パーセント、件数は1.4パーセント増えている。
注目したいのは募集時の使途の扱いである。同じ調査は、寄附の使い道を選べるようにしている団体の数も公表している。
| 募集時の使途の選び方 | 団体数 | 全指定団体に占める割合 |
|---|---|---|
| 使途を選択できる | 1,749団体 | 98.2% |
| うち分野を選択できる | 1,684団体 | 94.6% |
| うち具体的な事業を選択できる | 586団体 | 32.9% |
| うちクラウドファンディング型を実施 | 516団体 | 29.0% |
分野を選べる団体はほぼ全てだが、具体的な事業まで指定できるのは3分の1にとどまる。目標額と期間を定めて特定の事業に募るクラウドファンディング型は516団体、プロジェクト総数1,547事業、寄附金受入総額333億円だった。全体の受入額に占める割合は2.5パーセントほどである。同じ年度の返礼品の調達費用が3,528億円、受入額の26.5パーセントを占めることと並べると、重心がどちらにあるかが分かる。
国は「関係深化型(ふるさと納税型)」という枠を用意した
寄附者を関係人口として扱う発想は、思いつきではなく制度の形になっている。総務省は平成30年度に30団体、令和元年度に44団体、合わせて74地域でモデル事業を実施した。その分類のなかに、寄附者だけを相手にする枠が最初から置かれていた。
平成30年度は「ふるさと納税を行った者(寄附者)に対して地域と継続的なつながりを持つ機会を提供する取り組み」として5団体が採択されている。北海道上士幌町、北海道標茶町、岩手県花巻市、山形県最上町、そして新潟県の新発田市と魚沼市による連携である。ゆかりのある人を対象とする枠と両方に取り組む団体が3つあった。
令和元年度は名称が関係深化型(ふるさと納税型)に整理され、単独での採択は福井県坂井市の1団体だけだった。両方に取り組む団体が4つ加わる。検証結果報告書は、こうした枠を「ふるさとに一定の関心を持っている寄附者に対して地域と継続的なつながりを持つ機会を提供」するものと定義している。ゼロから関心を作るのではなく、すでにある関心を一段深める設計である。
坂井市は、使い道そのものを寄附者に考えてもらった
単独採択された坂井市のやり方が分かりやすい。掲げた目標が具体的で、何をもって成功とするかが読み取れる。
報告書に残る目標は4つある。資金確保の指標として「百口城主100名」。取り組みを周知する指標として「イベント参加者200名」と「寄附金の使途報告書1,000件発送」。そして課題解決の指標として「具体的な寄附金の使い道の提案を6件作成し、検討委員会で3件以上採択」である。最後の一つが肝で、寄附者は金を出すだけでなく、その金の行き先を考える側に回る。
結果について報告書は、関係人口から寄附金の使い道のアイディアを得る取り組みであり、事業化につながる提案を多数もらえたと記している。資金面では、ふるさと納税による寄附金を活動の原資としているため関係人口から継続した支援を得られる、という回答も残っている。新型コロナ禍でもリモート会議で関係づくりを続けたとされ、現地に来ることを前提にしない設計が効いた形である。
認知は早く取れる。難しいのは続けることのほうだ
報告書は、ゆかり型とふるさと納税型を合わせた関係深化型32団体をまとめて分析している。施策を他者に薦める度合いの平均は7.0で、3つの類型の真ん中だった。
強みははっきりしている。もともと地域と接点のある人が相手なので、「自地域における関係人口の取組が、広く知られるようになる」「施策が自地域住民に理解される」「資金確保が進む」を成果に挙げた割合が他類型より多い。既存施策の延長に位置するため行政内部の理解が得やすく、予算も通りやすいと分析されている。継続の形では「中間支援組織が自走しての取組」が突出して多く、報告書はその背景に、返礼品の発送業務を担うNPOや観光協会など、都市部の住民とパイプを持つ母体の存在があるのではないかと見ている。
弱みも同じくらい明確だった。続けられなかった要因として「地域住民・関係人口の主体的活動を喚起できなかった」が最も多い。寄附者を相手にすると規模が大きくなり、取り組みがイベント的になってしまう。その結果、関わりしろの確保や深い関係の構築が難しくなる、という推察が添えられている。岩手県花巻市からは、制度に対する理解がまだ低く、首長レベルでの理解が得られなかったという率直な回答も出ている。
来てもらえなくても成立する、という割り切り
香川県三木町の記録は、期待の置き方を考えさせる。都内で交流会を開いたものの、首都圏在住のふるさと納税者が町を訪れることはなかった。それでも報告書は、交流会を通じて町の魅力や関係人口の制度への理解が深まったと書く。同じ町では、地元業者が町のイベントに関わるとふるさと住民や寄附者が多く来訪し、良いところや応援の言葉をかけてくれるという場面も記録されている。訪問は目的ではなく、起きれば儲けものという位置づけである。
岩手県陸前高田市は、寄附を電力に結びつけた。将来「ふるさと納電」制度の実施主体となる地域電力会社と連携し、連携体制が強化されたとされる。目標にはイベント参加者の3割以上が制度に関心を表明すること、アンケート回答数1,000件以上が置かれていた。愛媛県西条市では、ファンクラブへの登録促進を続けた結果として会員数が増え続け、明確な因果関係は説明できないがふるさと納税額も増えている、という慎重な書き方で効果が報告されている。
こうした割り切りには裏づけがある。国土交通省の関係人口の分類と推計値では、地域を訪問せずにふるさと納税や地場産品の購入、情報発信などで関わる非訪問系が約379万人と推計されている。訪れない関わり方は例外ではなく、最初から数百万人規模で存在している。地域と若い世代の接点づくりに取り組むFLASPOの現場でも、入口は画面越しという例は珍しくない。
よくある質問
寄附者に関わってもらうには、まず何を変えればよいか。使い道の見せ方である。具体的な事業まで選べる団体が586団体、32.9パーセントにとどまる以上、分野選択から一段進めるだけでも差がつく。坂井市のように使途報告書を送る工程を作れば、寄附の後にもう一度接点が生まれる。
クラウドファンディング型にすれば関係人口は増えるのか。516団体が実施して1,547事業、333億円という規模なので、仕組みとしては定着している。ただし目標額に届くことと、寄附者が翌年も関わることは別の話で、報告書が挙げた「イベント的になってしまう」という落とし穴はここにも当てはまる。
返礼品の魅力で寄附を集めるやり方との違いは何か。返礼品は選ばれる理由をモノに置く設計で、使い道の提示は理由を地域の課題に置く設計である。どちらが強いかはふるさと納税の人気自治体はなぜ強いのか|返礼品と使い道の設計で比べている。
寄附の規模そのものが地域に何を残すのかを知りたい。1兆円を超える資金の流れと地域側の取り分については特産品と地方創生|ふるさと納税1兆3,314億円が地域に残すものが詳しい。
他の型と組み合わせたほうがよいのか。モデル事業でも、ゆかり型と両方に取り組んだ団体が平成30年度に3つ、令和元年度に4つあった。寄附者とゆかりのある人は重なる部分が大きいので、名簿を分けずに運用した自治体が一定数いたことになる。型ごとの全体像は関係人口の地域事例とは|2,263万人を5つの型に分けて読むを参照してほしい。
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