地方創生の会議で特産品が議題になると、話はたいてい「何を返礼品にするか」に着地する。ところが国の集計をたどると、その返礼品が動かしている金額は、産地が長年かけて育ててきた直売所の売上を上回る規模に達していた。特産品と地方創生の関係は、商品開発の話であると同時に、地域のお金の入り口が入れ替わった話でもある。
17年で164倍になった入り口
総務省は毎年度、各地方団体の受入額をふるさと納税に関する現況調査として集計している。令和8年度に実施された調査によると、令和7年度の受入額は1兆3,314億円、受入件数は5,963万27件だった。制度が始まった平成20年度は81億円、5万3,671件である。金額で約164倍、件数では約1,111倍になっている。
この伸び方は、地域の産品が売れるようになった結果とは少し違う。制度の使いやすさが変わるたびに段差ができている。受入額は平成26年度の389億円から平成27年度に1,653億円へ、1年で4倍以上に跳ねた。確定申告が不要になるふるさと納税ワンストップ特例制度が始まったのが、この平成27年4月1日である。
制度そのものは複雑ではない。総務省のふるさと納税の概要によれば、自分の選んだ自治体に寄附をすると、2,000円を超える部分が所得税と住民税から原則として全額控除される。給与所得者で寄附先が5団体以内なら、各自治体に申請することで確定申告も要らない。使う側の手間が下がった年に、金額は階段を上がってきた。
| 年度 | 受入額 | 受入件数 | 1件あたりの平均 |
|---|---|---|---|
| 平成20年度 | 81億円 | 5万3,671件 | 151,657円 |
| 平成27年度 | 1,653億円 | 726万93件 | 22,767円 |
| 令和2年度 | 6,725億円 | 3,488万7,898件 | 19,276円 |
| 令和5年度 | 1兆1,175億円 | 5,894万5,616件 | 18,958円 |
| 令和6年度 | 1兆2,728億円 | 5,878万7,253件 | 21,650円 |
| 令和7年度 | 1兆3,314億円 | 5,963万27件 | 22,328円 |
増えたのは金額で、1件あたりは7分の1になった
表を縦に読むと、金額と件数の伸び方がそろっていないことが分かる。平成20年度の1件あたりの平均は151,657円だった。令和7年度は22,328円である。17年で単価は7分の1近くまで下がった。
初期のふるさと納税は、縁のある自治体に高額を送る人の制度だった。いまは2万円前後の寄附を全国で6,000万回近く繰り返す制度になっている。産地の側から見れば、相手は顔の見える支援者ではなく、通信販売の購入者に近い。求められる体制も、礼状を書く力ではなく、季節の波に合わせて数万件を箱詰めして送り出す力に変わった。
直近の動きにも読みどころがある。令和6年度は受入件数が前年度から約16万件減ったのに、受入額は1兆1,175億円から1兆2,728億円へ13.9パーセント伸びた。1件あたりが18,958円から21,650円に上がったためだ。件数を追う局面から、単価を上げる局面に移りつつあると読める。
ふるさと納税が直売所の売上を追い越した
規模感をつかむには、産地が自前で持っている販路と並べてみるのが早い。農林水産省の6次産業化の動向によると、令和6年度の農産物直売所の年間販売金額は1兆1,344億円だった。同じ年度のふるさと納税の受入額は1兆2,728億円である。
全国の直売所の棚で1年間に動く金額よりも、返礼品を伴う寄附のほうが大きい。しかも直売所の売上には、来店した人の交通や飲食が地域に落ちる分が付いてくるが、寄附の場合は箱が出ていくだけで人は来ない。金額が上回っていることと、地域に残るものが多いことは別の話になる。
この差は、自治体の計画づくりで見落とされやすいところだ。受入額はひと目で分かる成果として議会にも説明しやすい。一方で、直売所に来た人が翌年また来るかどうかは統計に出にくい。数字の取りやすさが、施策の重心をどちらかに寄せてしまう。
人が減りながら販売額が増えている
産地側の体力も同じ統計で追える。農産加工、農産物直売所、観光農園、農家民宿、農家レストランを合わせた農業生産関連事業の年間販売金額は、令和2年度の2兆329億円から令和6年度の2兆2,244億円へ9.4パーセント伸びた。ところが同じ期間に従事者数は40万1,900人から37万5,000人へ6.7パーセント減っている。
割り算をすると、従事者1人あたりの販売額は505万円から593万円へ17.3パーセント上がったことになる。少ない人数で多く売る形に変わったという言い方もできるが、現場では一人が抱える作業量が増えたという意味にもなる。ふるさと納税の件数が6,000万件に近づいた時期と、この人減りは重なっている。
つまり入り口が太くなったぶん、詰める人と送る人が足りていない。返礼品の登録を増やす前に、繁忙期の人手をどこから連れてくるかを決めていない自治体は、受入額が伸びた年に産地を痛める。地方創生の文脈で特産品を扱うなら、売り先の開拓と同じ重さで担い手の確保を並べる必要がある。
残るのは寄附額ではなく体制
では何を成果とみなせばよいのか。手がかりは、寄附が止まったときに何が残るかという問いである。返礼品として箱詰めの体制を整えた産地は、その体制を使って別の販路にも出られる。逆に、寄附の受付から発送まで外部の事業者に任せきりだった場合、制度が変わった翌年には何も残らない。
同じことは人にも当てはまる。繁忙期だけ来てくれる学生や、企画を一緒に考える外部の人材が地域と関係を持ち続けるなら、それは寄附額の増減とは別の資産になる。若者と地域をつなぐ場をつくってきたFLASPOのような団体と組む意味は、返礼品の売上よりもこの部分にある。
制度の全体像や地域側の位置づけを整理したい場合は、地方創生とは?2014年の法制定から地方創生2.0まで徹底解説と地域活性化とは?地方創生との違い・若者参加型の成功事例10選が下地になる。寄附する側の仕組みから確かめたいときはふるさと納税の仕組み完全解説|3つのメリットと控除の計算方法が近い。
よくある質問
ふるさと納税の受入額は今後も伸び続けるのですか。総務省の集計を見るかぎり、令和5年度から令和7年度まで金額は増え続けています。ただし件数は令和6年度に一度減っており、伸びの中身が単価に移りつつあります。件数の増加を前提に生産計画を組むのは危うい段階に来ています。
受入額が大きい自治体ほど地方創生が進んでいると言えますか。言えません。受入額は寄附者が選んだ結果であり、地域に残った体制や人の流れとは別の指標です。同じ令和6年度に全国の農産物直売所が1兆1,344億円を売っている事実と並べると、金額の大小だけで優劣を語れないことが分かります。
小さな自治体が後から参入しても意味はありますか。単価が上がっている局面は、数で押せない産地に向いています。1件あたりが2万円台に上がったということは、少ない件数でも金額を積める余地が広がったという意味です。数万件をさばく体制がなくても勝ち目は残ります。
返礼品に使える特産品がない地域はどうすればよいのですか。返礼品の枠だけで考えると行き詰まります。直売所や観光農園を含む農業生産関連事業は令和6年度に2兆2,244億円の規模があり、人を呼んで現地で売る形も選べます。運ぶ前提を外すと、温泉や体験のような運べない資源も数えられるようになります。
寄附額の推移はどこで確かめられますか。総務省のふるさと納税ポータルに、各自治体の受入額と受入件数を平成20年度から令和7年度までまとめた表が公開されています。自分の市区町村の行を追えば、制度改正のどの年に伸びたのかが分かります。
出典
総務省「ふるさと納税に関する現況調査」(令和8年度実施、各自治体のふるさと納税受入額及び受入件数 平成20年度〜令和7年度)/同「ふるさと納税の概要」/農林水産省「6次産業化の動向」(6次産業化総合調査、令和6年度)
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。


