UIJターンの三つの型と、制度が見ている一点
地方で店や会社を始めようとする人の経路は、だいたい三つに分かれる。生まれ育った土地に戻るUターン、縁のなかった地方へ移るIターン、出身地に近い地方都市に落ち着くJターンだ。本人にとっては「地元に帰る」「地方へ移る」という違いにすぎないが、国の支援制度は別の線で区切っている。見ているのは移住先ではなく、移住する前にどこに住んでいたかという一点である。
この線引きを知らないまま計画を立てると、使えると思っていた制度が申請の段階で外れる。代表的なのが移住支援金で、地方での開業そのものを支える起業支援金とは前提が違う。三つの型の整理はJターンとはの記事に譲り、ここでは二つの制度が何を条件にしているかを突き合わせていく。
どちらも内閣官房・内閣府が進める地方創生の枠組みにあり、実際の窓口は都道府県と市町村だ。国が示した要件の上に自治体ごとの運用が重なるため、金額や受付期間は地域で変わる。変わらないのは、国が定めた対象者の条件である。
移住支援金が求める「移住元」の条件
移住支援金は、東京圏から地方へ移って就業や起業をする人を対象にした仕組みだ。支給額は世帯の場合100万円以内、単身の場合60万円以内で都道府県が設定する。18歳未満の世帯員を連れて移住する場合は、1人につき最大100万円が加算される。
核心は移住元の条件にある。移住する直前の10年間で通算5年以上、東京23区に在住していたか、東京圏のうち条件不利地域を除く地域から23区へ通勤していたことが必要で、さらに直近1年以上は23区に在住または通勤していなければならない。移住先は東京圏以外の道府県か東京圏の条件不利地域で、移住支援事業を実施している自治体に限られる。申請は転入後1年以内、申請後5年以上その市町村に住み続ける意思も求められる。
ここでUターンとJターンの多くが外れる。名古屋や福岡で働いていた人が実家のある県に戻る場合、23区の在住・通勤歴がなければ対象にならない。大学で東京に出たあと23区外で就職した人も、通算5年という条件に届かないことがある。制度の名前が「移住支援」であるため見落とされやすいが、支援の宛先は東京23区から離れる人であって、地方から地方へ移る人ではない。
起業支援金は移住を条件にしていない
もう一方の起業支援金は、地域の課題解決に資する社会的事業を起こす人に対し、起業等に必要な経費の2分の1、上限200万円を補助する。審査で見られるのは「社会性」「事業性」「必要性」の3点だ。令和8年度に実施する都道府県は43道府県で、東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府を除く範囲にあたる。令和7年度の第2回申請分からは、申請を受け付ける主体に市町村が加わった。
対象者の条件は、東京圏以外の道府県または東京圏内の条件不利地域で社会的事業を起業すること、交付決定日以降から補助事業期間の完了日までに個人開業届または法人設立を行うこと、そして起業する地域の都道府県内に居住しているか居住する予定であることだ。事業承継や第二創業で付加価値の高い分野に取り組む場合も対象になる。
並べると差がはっきりする。起業支援金は「どこで何を始めるか」を問うが、「どこから来たか」は問わない。地元に戻って始める人も、県内に住み続けて新たに起こす人も、要件の文面からは排除されていない。すでに地域と関わりながら事業を考えている段階の人には、起業支援金が求める居住要件とデジタル要件の整理も合わせて読む価値がある。
二つを重ねたときの上限と、重ねられる条件
内閣府の案内では、地方へ移住して社会的事業を起業した場合の合計は最大300万円、単身の場合は最大260万円とされている。内訳は起業支援金の200万円に、移住支援金の世帯100万円または単身60万円を足した額だ。移住支援金の就業要件には「地方創生起業支援事業を活用し、1年以内に起業支援金の交付決定を受けていること」が含まれており、起業は就業要件を満たす道の一つとして位置づけられている。
| 項目 | 起業支援金 | 移住支援金 |
|---|---|---|
| 上限額 | 200万円 | 世帯100万円以内/単身60万円以内 |
| 補助の形 | 必要経費の2分の1 | 定額(都道府県が設定) |
| 移住元の条件 | なし | 直近10年で通算5年以上、直近1年以上の23区在住または通勤 |
| 移住先の条件 | 東京圏以外の道府県等で起業し、その都道府県内に居住または居住予定 | 東京圏以外の道府県等で、実施自治体に転入後1年以内に申請 |
| 事業の条件 | 社会的事業の起業、事業承継、第二創業 | 就業、テレワーク継続、市町村独自要件、起業支援金の交付決定のいずれか |
| 実施の広がり | 令和8年度は43道府県 | 移住支援事業を実施する市町村のみ |
つまり300万円という上限は、23区の居住・通勤歴を持つ人が地方で社会的事業を起こしたときの合計である。Uターンで起業する人の多くは、起業支援金の200万円までが届く範囲になる。どちらの制度も自治体が実施していなければ使えないため、候補地の選び方は起業支援金43道府県と開業率で読むという順序が現実的だ。
23区の条件に当たらない人の順路
要件から外れたとき、打つ手がないわけではない。第一に、起業支援金は単独で申請できる。社会的事業として組み立て直せるかを、募集要領の審査の観点に照らして確かめるのが先だ。第二に、国の移住支援事業とは別に、市町村が独自に設けている移住の支援金がある。国の枠組みでは東京圏からの移住に限られるが、自治体独自の制度は移住元を問わないものも多い。
第三の入口として、移住支援金の就業要件のうち「市町村独自要件」がある。これは関係人口として認められる場合に対象とするもので、運用は市町村が決める。地域での活動歴が長い人は、窓口に該当の可否を確認しておくと判断が早い。
学生のうちから地方で働く選択を考えるなら、就職活動の交通費の最大2分の1と、その支援を受けた学生が地方へ移る際の移転費を対象にした地方就職支援金もある。卒業後すぐに地方へ就職・移住する学生が対象で、起業の前段として地域に入る経路になる。地域と若い世代の接点を扱うFLASPOでも、学生期の移動が後の独立につながる例をよく見る。
よくある疑問
東京23区に住んでいた期間が合計5年に届かない場合はどうなるのか。国の移住支援金は対象外になる。ただし起業支援金は移住元を問わないため、社会的事業として要件を満たせば申請できる。23区の居住歴は住民票の履歴で確認されるので、記憶で判断せず戸籍や住民票の記録をたどって確かめたい。
法人を先に作ってしまった場合は申請できるのか。起業支援金の条件は、交付決定日以降から補助事業期間の完了日までに個人開業届または法人設立を行うことだ。交付決定より前に設立していると要件の順序が逆になる。開業の日取りは募集のスケジュールを見てから決めるほうが安全である。
社会的事業とはどこまでを指すのか。案内では地域の課題解決に資する事業とされ、審査では社会性、事業性、必要性が見られる。飲食や宿泊のような一般的な業種でも、地域の課題との結びつきを事業計画で説明できれば対象になりうる。採択された事業の一覧を実施県の公表資料で読むと、求められている水準がつかめる。
一次情報はどこを見ればよいのか。制度の全体像は内閣官房・内閣府地方創生の起業支援金・移住支援金・地方就職支援金のページにある。対象者の条件は起業支援金と移住支援金の各ページに分かれて書かれているので、申請を考える前に両方を開いておきたい。
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