通う側から、始める側に回るとき
月に一度その町へ行き、祭りの準備を手伝い、空き家の片づけに付き合う。そういう関わり方を続けていると、やがて自分で何かを立ち上げたくなる日が来る。住んでいないが無関係でもない、いわゆる関係人口の位置から事業を始めようとするとき、最初につまずくのは資金ではなく住所の扱いである。
国が用意している地方の起業向けの支援は、申請者がどこに住んでいるかを要件に書き込んでいる。通っている回数や地域への貢献度は、要件の文面には出てこない。ここを読み違えると、計画を練り上げてから「対象外です」と返される。先に要件の文面を読んでおけば、どの段階で何を決めるべきかが逆算できる。
以下では内閣府の「地方創生起業支援事業(起業支援金)」の制度説明と、内閣官房地域未来戦略本部事務局および内閣府地方創生推進事務局が令和8年1月にまとめた資料の記述だけを材料にする。金額や要件は自治体ごとに運用が分かれるため、ここでは国が示している枠だけを扱う。
支給要件は三つに絞られている
内閣府の制度説明と令和8年1月の資料によれば、起業支援金の支給要件は三つで、すべてを満たす必要がある。
一つめは場所と中身の条件である。東京圏以外の道府県または市町村、あるいは東京圏内の条件不利地域において、「デジタル技術を活用して」地域課題の解決を目的とした起業等を行うこと。この一句は見落とされやすい。資料はデジタル技術の例として、キャッシュレス決済、Web予約システム、ECサイトでの販売、SNS等での情報発信、Wi-Fi環境整備などを挙げている。高度なシステム開発を指しているわけではないが、紙と現金だけで回す計画書は要件の文面から外れる。
二つめは手続きの時期である。国の交付決定日以降、各都道府県または各市町村が定める補助事業期間の完了日までに、個人事業の開業届出または法人等の設立を行うこと。法人等には株式会社や合同会社のほか、企業組合、協業組合、特定非営利活動法人、一般社団法人などが含まれる。
三つめが関係人口にとっての分かれ目になる。起業等をする都道府県内に居住していること、または補助事業期間の完了日までに居住する予定であること。「予定である」で足りる点は救いだが、裏を返せば住む気のないまま事業だけ地域に置く形は想定されていない。通い続ける関わり方を変えずに済ませたい場合、この制度は入口にならない。
お金はどう分担されるのか
上限と補助率を並べると、自己負担の大きさが見えてくる。起業支援金は起業等に必要な経費の2分の1相当額で、上限は200万円である。資料は費用負担の例を載せており、対象経費400万円の場合、国費100万円、都道府県または市町村の補助100万円、起業者の負担200万円という内訳になる。200万円を受け取るには、同額を自分で用意する前提だということである。
| 項目 | 国が示している枠 |
|---|---|
| 起業支援金の上限 | 200万円(補助率1/2) |
| 対象経費400万円の内訳 | 国費100万円/自治体補助100万円/起業者負担200万円 |
| 執行団体への補助 | 1,000万円以内(補助率1/2) |
| 令和7年度の実施 | 43道府県(東京都・神奈川県・埼玉県・大阪府および市町村は実施せず) |
| 申請主体 | 令和7年度第2回申請分から市町村を追加 |
対象になる経費は幅広い。人件費、店舗等の借料、設備費、原材料費、知的財産権等関連経費、謝金、旅費、外注費、委託費、マーケティング調査費、広報費などが挙がる。ただし人件費については、代表者や役員等の分は対象外で、交付決定を受けた事業者がその事業に直接従事する従業員へ支払う賃金に限られる。自分の生活費を賄う制度ではない。
窓口は国ではない。都道府県または市町村が公募を通じて執行団体を選び、その執行団体が起業者の公募から採択までの一連の業務と、立ち上げに向けた伴走支援を担う。自治体が必要な水準で実施できる場合には直接執行もできると資料は書いている。募集時期や対象となる社会的事業の分野は自治体が設定するため、狙う地域が決まっているなら、その自治体の要領を見るのが最短になる。地域の選び方そのものに迷う段階なら、起業家の移住先はどう絞るかで実施道府県と開業率から絞る手順を扱っている。
移住支援金と重ねるときの順番
地方へ移る費用も合わせて賄いたい場合、移住支援金という別の制度が並走する。こちらは東京23区に在住または東京圏から23区へ通勤していた人が地方へ移り、就業や起業などを行う場合に市町村から支給されるもので、世帯で最大100万円、単身で最大60万円。18歳未満の子どもを帯同して移住する場合は、子ども一人あたり最大100万円が加算される。
注意したいのは順番である。令和8年1月の資料は、移住先で「地域課題の解決を目的とした起業」を理由に移住支援金を受ける場合について、別途、地方創生起業支援事業の交付決定を1年以内に受けていることを条件として挙げている。起業で移住支援金を取りに行くなら、起業支援金の採択が先に立つ関係になる。
移住支援金の対象者側にも細かい条件がある。移住前の10年間で通算5年以上、かつ直近1年以上、東京23区内に在住していたか、東京圏の条件不利地域を除く地域から23区へ通勤していた人という括りである。地方の大学に通いながら地域に関わってきた学生は、そもそもこの括りに入らない。制度が想定している移動の向きは、あくまで東京23区から外へ向かうものである。
実績の規模も資料に載っている。令和元年度から令和6年度までの移住支援金の交付実績は累計11,205件で、人数では23,783人。令和6年度の単年では子育て加算の支給が2,064人分あった。6年間で1万件を超えた制度だが、起業を理由とする分がそのうち何件かは示されていない。
住む前にできることと、住んでから動くこと
要件を踏まえると、準備の順番はおおよそ決まる。交付決定日より前に使った経費は見てもらえないため、設備を買う・店を借りるといった支出を伴う動きは採択の後に回す。一方で、地域の誰と組むか、何が足りていないのかを確かめる作業は、通っている段階でしか積めない。ここが関係人口の強みが効く場所である。
交付を受けた後には義務も付いてくる。交付決定事業の完了後5年間、実施状況を都道府県または市町村へ報告すること。取得価額が1件あたり50万円以上の財産は、処分等に大臣や自治体の承認が必要になること。帳簿や支出の根拠書類は、事業が完了した年度の終了後5年間、管理と保存を求められること。5年という単位で地域に残る前提の制度だと読める。
住所を移す決断にまだ届かないなら、関わり方を太くしておく手もある。週末や休暇を使って関わり続ける形の限界と効き目については副業は関係人口を続かせるかで数字を見ている。学生の段階で地方就職を視野に入れているなら、令和7年度に38道府県533市町村で実施されている地方就職学生支援事業のように、就職活動の交通費や移転費を軽くする枠も用意されている。地域と関わる入口を増やしておきたい学生にはFLASPOのような学生向けの場も使える。
まとめると、国の起業支援金は「地域に住んで事業をやる人」のための制度であり、関係人口のまま使える設計にはなっていない。住まずに関わり続けるのか、住んで制度を使うのかは、事業計画より先に決めておいたほうが手戻りが少ない。
よくある質問
起業支援金は学生でも申請できるのか。国が示す要件に年齢や学籍の条件は書かれていない。書かれているのは起業する場所、デジタル技術の活用、開業届または法人設立の時期、そして起業する都道府県内への居住である。ただし募集時期や対象分野、提出書類は自治体が設定するため、在学中の申請が実務上できるかは、狙う自治体の要領で確かめることになる。
「居住する予定」はどこまで認められるのか。資料の文面は、補助事業期間の完了日までに居住する予定であることとしている。完了日は各都道府県または各市町村が定めるため、いつまでに住民票を移す必要があるかは地域ごとに変わる。申請前にこの完了日を確かめておくと、引っ越しの段取りが立てやすい。
どんな分野が地域課題として認められるのか。資料は地域活性化に関すること、まちづくりの推進、地域交通支援、子育て支援、過疎地域等の活性化、社会福祉、買い物弱者支援、環境に関することを並べている。ただし実際に対象となる分野は、各都道府県または各市町村が実施計画に定める必要がある。全国どこでも同じ分野が通るわけではない。
事業承継や第二創業でも使えるのか。制度説明は、新たに起業する場合と事業承継または第二創業の場合を分けて要件を示している。後者では、Society5.0関連業種など付加価値の高い分野において社会的事業を実施することが条件に加わる。居住に関する条件は、どちらの場合も求められる。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
