10年あまりでエントリーが10倍に増えた大会がある
若い世代の参加が増えているという話は感覚で語られがちだが、公表されている件数を追うと輪郭がはっきりする。東京都が主催するTOKYO STARTUP GATEWAYは、初年度のエントリーが448件で、昨年度は過去最高の4,418件に達したと公式サイトに記している。10年あまりで約10倍だ。
高校生に絞った大会でも規模は小さくない。日本政策金融公庫の高校生ビジネスプラン・グランプリは、2025年度の第13回で応募総数5,640件、応募校数639校という実績を公表している。1校あたり9件前後が出ている計算になり、個人の思いつきではなく授業や部活動の単位で参加している学校が多いことがうかがえる。
この伸びを「起業に関心のある若者が自然に増えた」と説明すると、たいてい話が合わなくなる。応募数が増えた大会の多くは同じ時期に、対象年齢を下げたり、学校向けの出張授業を増やしたり、応募の手間を削ったりしている。増えたのは意欲だけではなく、参加できる入口の数のほうだ。
そして入口が増えた背景には、はっきりした政策の目標がある。順に見ていくと、若者とビジコンの距離がこの数年で詰まった理由が追える。
出発点にあるのは開業率5.1%という数字
なぜ国が学生のビジネスプランに予算を付けるのか。根拠になっているのは、起業の少なさを示す比較の数字だ。2022年11月に決定されたスタートアップ育成5か年計画は、日本の開業率を米国9.2%、英国11.9%と比べて5.1%に留まっているとし、廃業率も米国8.5%、英国10.5%に対して3.3%だと記している。
開業率が低いことは、新しい会社が生まれにくいという話にとどまらない。同じ資料は、企業の参入率と退出率の平均が高い国ほど一人当たりの経済成長率が高く、若い企業のほうが付加価値を生む貢献度が高いと述べている。入れ替わりの少なさ自体が成長の制約として扱われている。
そこで計画は、スタートアップへの投資額を指標に据えた。2017年の3,600億円から2021年の8,200億円へ5年で2.3倍になった流れを踏まえ、2027年度に10倍を超える10兆円規模とすることを目標に掲げている。さらに将来の姿として、ユニコーンを100社、スタートアップを10万社創出するという数字も置かれた。
10万社という規模を考えると、担い手を社会人だけで揃えるのは難しい。計画が「優れたアイディア・技術を持つ若い人材の発掘・育成」を先頭に置いているのは、この算段の帰結である。学生向けの大会や起業家教育は、その発掘の仕組みとして位置づけられた。
小中高生の起業家教育にKPIが置かれた
計画が目標値を持つと、現場の予算配分が変わる。文部科学省が示したスタートアップ育成5か年計画等における進捗状況は、若い世代に関わる指標を数字で示している。
| 指標 | 2021年度の状況 | 目標 |
|---|---|---|
| 支援プログラムを通じた小中高生の起業家教育の受講者数 | 一部の大学や自治体において限定的に実施 | 2027年度までに年間10,000件 |
| 大学からのスタートアップ事業化の支援件数 | 100〜200件 | 2027年度までに累計5,000件(中間目標は2026年度に4,000件) |
注目したいのは左の列だ。2021年度の小中高生向けの起業家教育は、一部の地域で限定的に行われている状態だったと記録されている。つまり今の高校生が見ている環境は、数年前には全国的には存在しなかった。親や教員の世代が自分の経験から助言しにくいのは、知識不足ではなく時期の違いによる。
高等専門学校の側も動いている。同じ資料は、国立高等専門学校機構が起業家教育強化の拠点校として3校を選定したこと、高等専門学校スタートアップ教育環境整備事業により全国の国公私立高専56校で起業家工房などの教育環境を整備中であることを記している。設備が校内に置かれれば、参加のハードルは確実に下がる。
初等中等教育でも土台づくりが先行していた。文部科学省の小・中・高等学校等における起業体験推進事業は、起業家精神や起業家的資質・能力を持つ人材の育成を掲げ、対象を令和4年度から高等学校にまで広げている。
大会の側も対象年齢を下げてきた
政策が裾野を広げる一方で、大会の設計も若い参加者に合わせて変わった。わかりやすいのが年齢の線の引き直しだ。
東京都の大会は、応募資格を2026年4月1日現在で15歳以上40歳未満としたうえで、15歳以上18歳未満を対象とするU18表彰部門を新設した。常識や前例にとらわれない発想を表彰するためと説明されており、賞金の交付はなく表彰のみという設計になっている。賞金を外した代わりに、高校生が同じ土俵で評価される枠を作った形だ。
公庫の大会は対象を高等学校と高等専門学校に限り、高専については1〜3年生のみとしている。年齢で言えば15歳から18歳が中心で、高専の後半学年はキャンパスベンチャーグランプリなど大学生向けの大会へ回る構造になる。学年ごとに受け皿が用意されている状態だと見ればよい。
手間を削る工夫も効いている。東京都の大会の一次応募は400字のアイデアを書くだけで完結する。事業計画書を一式求められると高校生や大学1年生には重いが、400字なら放課後に書ける。参加者が増えた大会は、審査を甘くしたのではなく入口の分量を落としている。若い世代の活動参加は入口の重さに左右されやすく、若者のボランティア参加率はなぜ下がったのかで見える構造とも通じる。
若者が受け取るものは賞金の外側にある
では参加する側にとって何が残るのか。賞金で測ると大半の参加者は何も得ていないことになるが、実際の見返りは別のところにある。
1つは、審査項目に沿って考えを言語化する経験だ。顧客は誰か、必要な資源は何か、収支は合うのかという問いに答えた記録は、その後の進路選択でそのまま素材になる。選考のある場で自分の行動を説明する機会という点では、インターンと若者キャリアで扱われている論点と重なる。
2つめは、学校の外の大人から評価を受ける経験である。公庫の大会は職員による一次評価のあとに外部審査員を立て、キャンパスベンチャーグランプリは全国大会で経済産業大臣賞と文部科学大臣賞を出す。産業界と行政の目に触れる場は、高校生や大学生が自分で用意できるものではない。
3つめは、やらないという判断の材料だ。収支計画まで書いてみて事業として成り立たないと分かるなら、それも収穫になる。起業の是非を考えないまま社会に出るより、一度数字に落として確かめた経験のほうが後で効く。
注意しておきたいのは、政策の目標値と個人の利益が自動的に一致するわけではない点だ。年間10,000件という受講者数は国の側の指標であって、参加した本人に何が残るかは別に考える必要がある。発表の場で何を持ち帰るかという観点ではプレゼンとビジコンの整理が役に立つ。地域の現場に関わりながら事業の種を探したい人にはFLASPOのような入口もある。
学生・若者が参加できるアイデアコンテストは、FLASPOのTRYで探せます。自治体や企業が出したお題にオンラインで応募でき、受賞すると賞金を受け取れます。
よくある質問
起業するつもりがなくても出てよいのか。多くの大会は起業を条件にしていない。ただし東京都の大会は2028年度末までに都内で起業を目指す人を対象としており、起業の意思を資格に含める大会も存在する。募集要項の対象欄を読んで切り分けてほしい。
中学生でも参加できる大会はあるか。小中高生を対象とした起業家教育のプログラムは国の指標に含まれているが、全国規模のビジネスプランコンテストは高校生以上を対象とするものが中心だ。中学生の場合は自治体や大学が開く地域のプログラムを探すほうが見つかりやすい。
学校が参加していないと出られないのか。公庫の大会は団体と個人のどちらでも応募登録ができる。学校を通さない応募も想定された設計になっているので、担当する教員が校内にいない場合でも道は残っている。
高専の4年生以上はどうすればよいか。公庫の大会は高専の1〜3年生のみを対象としているため、学年が上がると対象から外れる。キャンパスベンチャーグランプリは高専を含む現役学生を5名以内のチームで受け入れており、こちらへ移るのが素直な進み方になる。
参加経験は就職活動で評価されるのか。評価の対象になるかどうかは企業によるが、選考で問われるのは結果より行動の中身だ。受賞したかどうかではなく、何を調べて誰に話を聞いて何を変えたかを説明できるほうが効く。
こうした大会は今後も増えるのか。計画の目標年度は2027年度に置かれており、受講者数や支援件数の指標はまだ達成途上にある。その間は学生向けの機会が縮小しにくいと見てよいが、2027年度以降の扱いは現時点の公表資料からは読み取れない。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
