移住の相談窓口でよく交わされるのは「いくら貯めておけばいいですか」というやり取りである。答えようとすると、引っ越し代の話と毎月の生活費の話が混ざり、結局どちらも曖昧なまま終わる。この二つは性質がまったく違う。総務省の家計調査から都市の規模ごとの支出を取り出すと、下がる費目と上がる費目がはっきり分かれて見えてくる。
一度だけ出る金と、毎月出続ける金を分けて数える
移住費用という言葉は、中身の違う二種類の支出をまとめて指してしまう。一つは転居のときに一度だけ出る金で、荷物の運搬、住まいの契約や取得、車の購入、家具と家電の買い足しがここに入る。もう一つは移った先で毎月出続ける金、つまり生活費である。
この二つを分けないと判断を誤る。一度だけの支出は貯金と補助金で吸収できるが、毎月の支出は移った後の家計を何十年も縛るからだ。逆に毎月の支出が下がる見込みでも、最初の持ち出しが用意できなければ移れない。資金計画としては別々に積み上げ、最後に合流させるのが実務的である。
毎月のほうは公的統計で輪郭がつかめる。一度だけのほうは住まいをどうするかで桁が変わるため、統計から出るのは目安にとどまる。順に見ていく。
暮らしの支出は、町村のほうが年47万円少ない
総務省統計局の家計調査(2024年)は、全国の世帯の支出を都市の規模ごとに集計している。二人以上の世帯の1世帯当たり年間支出を、都市階級別に並べたのが次の表である。
| 費目(年額) | 大都市 | 中都市 | 小都市A | 小都市B・町村 |
|---|---|---|---|---|
| 消費支出 | 3,832,046円 | 3,655,579円 | 3,415,007円 | 3,355,520円 |
| 食料 | 1,158,803円 | 1,088,111円 | 1,040,631円 | 972,250円 |
| 住居 | 276,489円 | 222,787円 | 158,514円 | 183,839円 |
| うち家賃地代 | 151,693円 | 104,900円 | 57,238円 | 37,590円 |
| 光熱・水道 | 264,864円 | 277,503円 | 281,712円 | 293,473円 |
| 交通・通信 | 474,039円 | 514,570円 | 499,023円 | 524,543円 |
| うち自動車等関係費 | 254,676円 | 304,721円 | 306,847円 | 334,774円 |
消費支出の合計は、大都市の3,832,046円に対して小都市B・町村が3,355,520円。差は年476,526円、月に直すと約39,700円である。世帯人員は大都市2.89人、小都市B・町村2.92人とほぼ同じで、世帯主の年齢も60.0歳と60.9歳でそろっているから、人数構成の違いで生じた差ではない。
ただし合計だけを見て安心するのは早い。内訳に入ると、増える費目と減る費目が打ち消し合った後の数字だと分かる。
下がるのは住まいと食費、上がるのは車と灯油
最も大きく下がるのが食料で、大都市1,158,803円に対し小都市B・町村は972,250円、年186,553円少ない。次が家賃地代で151,693円から37,590円へ、年114,103円の減である。ここは注意が要る。家計調査の家賃地代は持ち家の世帯も含めた平均なので、この差の大半は家賃水準ではなく持ち家率の違いを映している。賃貸を続ける前提なら、この縮み方は期待できない。
反対に増える費目が三つある。筆頭が交通・通信で、大都市474,039円に対し小都市B・町村は524,543円、年50,504円多い。中身を割ると構図が見える。鉄道やバスなど公共交通の支出は85,785円から33,658円へ減るのに、自動車等関係費が254,676円から334,774円へ80,098円も増える。ガソリンだけで44,701円から100,908円へ、購入量は272.9リットルから608.2リットルへ跳ね上がる。任意の自動車保険料も26,117円から49,575円へ倍近い。
二つめが光熱・水道で、264,864円から293,473円へ年28,609円増える。電気代が132,102円から159,352円へ上がり、都市ガスが57,739円から4,306円へ消える代わりにプロパンガスが7,944円から36,452円へ、灯油が7,868円から29,238円へ膨らむ。灯油の購入量は69.4リットルから260.4リットルで3.75倍である。
三つめは住居の内訳にある。家賃地代が縮む一方、設備修繕・維持は124,795円から146,249円へ年21,454円増える。持ち家が多ければ、屋根も外壁も給排水も自分の負担になるからだ。移住の収支は「家賃が浮いた分を、車とストーブと家の手入れに回す」と要約できる。
一度だけの費用は、住まいの決め方で桁が変わる
転居時の持ち出しは統計になじみにくい。借りるのか、買うのか、空き家を直して住むのかで総額が一桁動くからである。それでも見積もりの骨格は共通していて、荷物の運搬費、住まいの契約金または取得費、車の購入費、家具家電と通信回線の初期費用に分けられる。
このうち見落とされやすいのが車である。先ほどの統計では、小都市B・町村の自動車購入が年82,270円計上されていた。これは全世帯をならした数字なので一台の価格ではないが、公共交通の支出が年33,658円しかない地域で車を持たずに暮らす難しさは読み取れる。移住を機に二台目が要る世帯なら、初期費用の見積もりに丸ごと一台分を足しておく必要がある。
住まいを買う場合は、取得費のほかに毎年の固定資産税と修繕の積立が乗る。先に見た設備修繕・維持が町村で最も高いという事実は、古い家を安く買ったつもりが毎年の持ち出しになる構図を示している。見学の段階で屋根と水回りの状態を確かめ、修繕の見積もりを取得費に合算して比べるのが安全である。
制度で戻る分を、最後に差し引く
積み上げた費用から公的な支援を引くのが最後の工程になる。全国共通の枠組みが地方創生移住支援事業である。東京23区に在住、または東京圏から23区へ通勤していた人が東京圏外などへ移り、就業・テレワーク・起業などの要件を満たすと、都道府県と市町村が共同で移住支援金を交付する。
額は世帯の場合100万円以内、単身の場合60万円以内で、都道府県が設定する。18歳未満の世帯員を帯同するときは、1人につき最大100万円が加算される。子ども2人を連れた世帯なら上限は300万円に届く計算で、先に見た初期費用の相当部分を覆える規模である。
条件は厳格である。移住直前の10年間で通算5年以上、直近1年以上は23区に在住または通勤していたこと。申請は転入後1年以内で、5年以上継続して居住する意思が求められる。申請から5年以内に転出すると返還の対象になるため、腰を据えられるかどうかを先に決めておきたい。自治体ごとの上乗せについては地方移住の補助金はいくら?国・自治体の支援制度を完全まとめに整理がある。地域とのつながりづくりを手がけるFLASPOの現場でも、制度を知らないまま先に引っ越してしまう相談は少なくない。
よくある質問
結局、移住すると生活費は安くなるのか。統計上は年47万円ほど下がる。ただし下がるのは食費と住居費で、車を使い灯油を焚く暮らしに変われば、その分を押し返される。通勤距離が長く燃費の悪い車を使う世帯では、差がほとんど消えることもありうる。
車を持たない選択はできるか。公共交通への支出が年33,658円という水準は、路線とダイヤがその程度しかないことの裏返しでもある。通院や買い物の頻度を確認し、家族のうち何人が運転するかまで決めてから判断したい。
貯金はいくら必要か。初期費用は住まいの決め方しだいなので一律の額は出せないが、移住支援金が申請から交付まで時間を要することを踏まえると、支援金を当てにせず動かせる資金を別に用意しておくのが現実的である。
完全に移らず試す方法はないか。住まいを二つ持つ形の費用構造は二地域居住の費用を積み上げる|家賃・税金・移動の実額で考えるでまとめている。金銭以外の負担も含めて先に知りたい場合は移住のデメリットを先に知る|仕事・車・買い物と地域の付き合いが参考になる。
統計の数字をそのまま自分に当てはめてよいか。ここで引いたのは二人以上の世帯の全国平均であり、単身世帯や特定の県の水準とは異なる。移住先の候補が絞れた段階で、その自治体の水道料金、プロパンガスの単価、ごみ袋の価格といった個別の条件を確かめ直してほしい。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
