キャリアセンターで名簿を渡され、先輩に会っておいたほうがいいと言われる。ところが何を話す場なのかは誰も定義してくれない。説明会ほど公式ではなく、面接ほど構えなくてよい。その曖昧さが長所でもあったのだが、二〇二六年十月一日を境に前提が変わった。先輩訪問は、企業が管理しなければならない場になった。
日程ルールのどこにも名前が出てこない場だった
新卒の採用活動には政府が示す日程がある。2027年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方では、広報活動の開始が卒業・修了年度に入る直前の三月一日以降、採用選考活動の開始が卒業・修了年度の六月一日以降、正式な内定日が同年度の十月一日以降とされ、二〇二七年度の卒業・修了予定者についても従来どおりと結論づけられている。
この三区分のどこにも先輩訪問という言葉はない。広報活動なのか選考活動なのか決まっていないから、企業の側も学生の側も、公式な採用プロセスの外側にある私的なやり取りとして扱ってきた。相手を探すのも日程を決めるのも学生の自力で、うまくいくかどうかは運と人脈に左右された。
そのあいだに、ルールと実態の距離は開いた。同じ資料は、文部科学省の企業アンケートで広報活動を二月以前に開始した企業が約六割、採用選考活動を五月以前に開始した企業が約七割、五月以前に内々定を出した企業が約六割だったと記している。学生側のアンケートでも、エントリーシートを最初に提出した時期は卒業・修了前年度の九月以前が約四割で、広報活動開始の三月の約一割を上回っていた。
早期化は長期化を連れてくる。就職・採用活動に九か月間程度以上を要している学生の割合は、令和二年度の約三割から令和六年度の約五割に増えた。活動が長引けば、公式な選考の外側にある接触の回数も増える。制度に名前のない場が、実際には何度も使われる状態が続いていた。日程と実態のずれは新卒就活の早期化|説明会9月以前33.7%と選考1月以前24.3%の実態でも数字で追える。
二〇二六年十月一日から法令の対象になった
転換点は厚生労働省の令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されますにある。改正男女雇用機会均等法と指針により、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が、令和八年十月一日から事業主の義務になった。対象となる求職者等には、求人に応募する者だけでなく、事業主の実施する労働者の採用に資する活動に参加する者や、教育実習や看護実習などの実習を受ける者が含まれる。
注目すべきは、保護される行為として示された例である。求職活動等とされるものに「企業の採用面接への参加」「企業の就職説明会への参加」と並んで「企業の雇用する労働者への訪問」が明記された。先輩訪問がここに該当する。さらにオンラインを介したものやオンライン上で行われるものも含まれると書かれており、画面越しの面談も同じ扱いになる。
指針は具体的な場面も挙げている。求職者等が労働者への訪問を行った際に性的な関係を求められ、苦痛を感じて求職活動の意欲が低下しているケースが、防止すべき例として並んでいる。男性も女性も加害者にも被害者にもなり得る問題であり、異性に対するものだけでなく同性に対するものも該当すると明記されている。
事業主が必ず講じなければならない措置は十一項目ある。そのうち学生の動き方に直接響くのが三つ目で、求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者だけでなく求職者等にも周知・啓発することが求められている。ルールの例として挙げられているのは、面談時間および場所の指定、実施体制、やり取りに用いるSNSの種類の指定などである。四つ目では相談窓口をあらかじめ定めて求職者に周知することが義務づけられた。
依頼のルートは個人の人脈から会社の窓口へ
面談の時間と場所、連絡に使う手段を企業が決めて公表するということは、学生から見れば探し方が変わるという意味になる。まず確かめるのは、志望先が訪問の受付ルートを用意しているかどうかである。採用マイページ、大学のキャリアセンター経由の名簿、企業が公開する訪問申込のフォームのいずれかに入口があるなら、そこを通すのが最短で最も安全になる。
逆に、個人のアカウントに直接連絡を取り、企業が指定していない時間や場所に呼ばれる形は、企業の管理が及ばない領域に残る。何かあったときに事実確認をする相手が社内にいないため、相談しても対応の根拠が立ちにくい。ルートの違いは安全性の違いであり、同時に話の深さの違いにもなる。会社が把握している面談は、先輩も会社の人間として応じやすい。
| 場面 | 日程ルール上の位置 | 求職者等セクハラの防止措置 | 依頼のルート |
|---|---|---|---|
| 企業説明会 | 広報活動(3月1日以降) | 対象 | 企業が募集 |
| インターンシップ | 広報活動の枠外として扱われる | 対象 | 企業が募集 |
| OB・OG訪問 | 明示されていない | 対象(労働者への訪問) | 企業の窓口または学生が依頼 |
| 採用面接 | 採用選考活動(6月1日以降) | 対象 | 企業が案内 |
| 正式な内定 | 10月1日以降 | 対象外(採用後は別の規定) | 企業が通知 |
社外の相談先も用意されている。日程ルールの資料には、都道府県労働局とハローワークが学生からの相談を受け付け、相談者の意向も踏まえて事実確認のうえ適切に対処することが注記されている。これらの窓口と大学のキャリアセンターは事例の共有などで連携するとも書かれており、困ったときに大学にだけ抱え込まれる構造ではなくなっている。
聞く価値のある問いと、答えなくてよい問い
準備で効くのは質問の選別である。事業内容や売上、企業理念は公開資料で足りるため、貴重な一時間を使う理由がない。資料で埋まらないのは、一日の時間がどの作業にどれだけ割かれているか、決定が誰を通って降りてくるか、異動の希望がどの程度通るか、同期で辞めた人は何を理由にしていたか、といった個人の観測に属する部分である。
数字を聞くなら、公表値との差を聞く。平均残業時間の公表値を示したうえで、自分の部署の実感を尋ねると、答えが抽象に逃げにくい。一社で聞いた内容を次の会社でも同じ形で尋ねれば、比較できる材料がたまっていく。
逆向きの注意も要る。訪問が選考と地続きになっている企業では、先輩側から雑談の形で立ち入った質問が出ることがある。公正な採用選考の基本(厚生労働省)は、採用選考の基本を応募者の基本的人権を尊重することと、応募者の適性・能力に基づいた基準で行うことの二点に置き、把握を避けるべき事項を分類している。
本人に責任のない事項とされるのは、本籍や出生地に関すること、家族の職業や続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産に関すること、住宅の間取りや部屋数、種類、近隣の施設に関すること、生活環境や家庭環境に関することである。本来自由であるべき事項には、宗教、支持政党、人生観や生活信条、尊敬する人物、思想、労働組合や社会運動に関すること、購読している新聞や雑誌、愛読書が挙げられている。方法の面では、身元調査や合理的な必要性のない健康診断も避けるべきものに含まれる。
これらを尋ねられて答えないことは、落とされる理由にならない。先輩個人の悪意ではなく知識の不足で出てくる質問も多いため、話題を仕事の話に戻す一言を用意しておけば足りる。場の作法そのものは面接と重なるので、面接のマナー|入室から退室までの基本と服装の判断基準と合わせて押さえておくと迷いが減る。
訪問を志望理由に変える手順
聞いた話を使えるかどうかは、記録の取り方でほとんど決まる。その場で要約すると自分の解釈に戻ってしまうため、印象に残った言い回しはそのまま書き写す。固有名詞と数字と、相手が言葉を選んだ箇所を残しておくと、後から意味を取り出せる。
エントリーシートに書けるのは、誰がどう言ったかではない。それを聞いて自分が何を確かめ、どの前提を捨てたかである。三社に同じ質問をして答えが分かれたなら、その分岐自体が自分の判断材料になる。訪問の件数を誇る文章より、一つの問いを三社にぶつけた経過のほうが読み手に届く。
時期の設計も合わせて考えたい。活動が九か月以上に及ぶ学生が半数という状況では、回数を増やすほど学業との衝突が増える。志望先の見当がついてから集中的に回すほうが、同じ時間で得られるものが多い。全体の段取りは新卒就活の流れ|自己分析から内定承諾までの7段階と判断の順番に整理されている。
それでも訪問だけで埋まらない部分が残る。先輩の話は、その人が通った道の記録であって、仕事そのものの手触りではない。学生のうちに企業や自治体の課題に実際に関わる機会として、FLASPOのようなプログラムを挟んでおくと、聞いた話と自分の経験を突き合わせられるようになる。
よくある疑問
先輩訪問は選考に影響するのか。日程ルールの上では広報活動とも採用選考活動とも位置づけられていない。ただし企業が面談の記録を残し、その後の案内に反映させることはある。二〇二六年十月以降は採用に資する活動に参加する者も求職者等に含まれるため、企業側の管理対象になったという点で以前とは違う。
何社くらい回るのが正解なのか。政府の資料に推奨される件数は示されていない。就職活動が長期化している実態を踏まえると、件数を目標にするより、一社ごとに確かめたい問いを決めて臨むほうが効率がよい。
個人のSNSで依頼してよいのか。企業がやり取りに用いるSNSの種類を指定している場合があるため、まず公式の受付ルートがあるかを確かめる。指定の外で始めたやり取りは企業の把握が及ばず、面談時間や場所のルールも適用されない状態になりうる。
嫌な思いをしたらどこに言えばよいのか。事業主は相談窓口をあらかじめ定めて求職者に周知することが義務づけられている。社外では都道府県労働局やハローワークが学生からの相談を受け付け、事実確認のうえで対処する。相談したことを理由に不利益な取扱いをしない旨を定めて周知することも、事業主が講じる措置に含まれている。
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