フリーランスの法人化|一人社長3.4%という数字から判断の順番を組む

フリーランスの法人化|一人社長3.4%という数字から判断の順番を組む

同じ仕事のまま、器だけを取り替えるという話

取引先から「御社」と呼ばれる機会が増え、請求書の宛名に会社名が並ぶようになると、自分も登記をすべきかという問いが浮かぶ。法人化は、手がけている仕事そのものを変える作業ではない。売上と費用を受け止める器を、個人から法人へ入れ替える手続きである。

内閣官房・公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁が実施した令和4年度フリーランス実態調査は、集計数2,119名の回答を就業形態ごとに並べている。本業について「一人社長(法人化し、一人で働いている場合)」を選んだのは73名で3.4%。いっぽう「自営業主(雇っている人がいない場合)」は1,724名で81.4%を占めた。

三十人に一人という比率は、法人という器がまだ少数派であることを示している。だとすれば先に考えるべきは「いつ登記するか」ではなく「器を替えると何がどう入れ替わるか」のほうだ。税率、消費税、固定費、社会保険、損失の持ち越し。入れ替わる項目は五つに整理できる。

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税率の線は、どのあたりで交差するのか

個人事業の所得には所得税がかかる。国税庁の速算表は課税所得を七つに区切り、194万9千円までを5%、330万円から694万9千円までを20%、1,800万円から3,999万9千円までを40%、4,000万円以上を45%としている。稼ぎが伸びるほど、次の一円にかかる率が階段状に上がる構造だ。

法人の側は階段が二段しかない。資本金1億円以下の普通法人は、年800万円以下の所得に15%、それを超える部分に23.2%が適用される。所得が大きくなっても率は23.2%で止まる。

さらに、法人から自分へ支払う役員報酬は給与として扱われるため、受け取る側で給与所得控除が差し引ける。控除額の表では、収入660万1円から850万円までが収入金額の10%+110万円、850万1円以上は195万円が上限となっている。会社に残す利益と自分に出す給与へ所得を分ければ、同じ稼ぎでも適用される率の組み合わせが変わる。

逆に言えば、課税所得が所得税の低い段にとどまっているうちは、個人のままのほうが手元に残る。交差点の位置は業種や家族構成で動くので、率の表を二枚並べて自分の数字を当てるところから始めたい。

消費税の1,000万円は、法人にしても消えない

「法人を作れば消費税が二年間かからない」という言い方が広まっている。元になっているのは納税義務の免除の仕組みだが、条件を読むと聞こえほど単純ではない。

国税庁の説明によれば、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば納税義務が免除される。基準期間とは、個人事業者ならその年の前々年、事業年度が一年の法人ならその事業年度の前々事業年度を指す。新しく作った法人には前々事業年度が存在しないため、ここが「二年間」の出どころになる。

ただし関門はもう二つある。ひとつは特定期間の判定で、個人は前年1月1日から6月30日まで、法人は原則として前事業年度の開始から6か月間の課税売上高が1,000万円を超えると、基準期間の数字にかかわらず免除されない。課税売上高の代わりに給与等支払額で判定することも認められている。

もうひとつは適格請求書発行事業者の登録だ。登録を受けている事業者は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも納税義務を免除されない。すでにインボイスを発行して取引を続けている人にとって、免税期間を狙った法人化はほとんど意味を持たないことになる。

赤字の年にも出ていくお金が、二つ増える

器を替える費用は登記の段階で発生する。登録免許税の税額表では、株式会社の設立登記は資本金の額の0.7%で最低15万円、合同会社の設立登記は同じ0.7%で最低6万円と定められている。

一度きりの出費よりも効いてくるのは、毎年の均等割である。千葉県の説明は「均等割は、法人の所得の有無にかかわらず、資本金等の額によって一律に課されます」と明記し、資本金等1,000万円以下の法人を年2万円としている。市町村の側も同じ性格の税を課す。船橋市の税率表では、資本金等1,000万円以下で従業者50人以下の法人が年5万円。この組み合わせなら、売上がゼロの年でも合わせて年7万円が動く。

社会保険の扱いも切り替わる。日本年金機構は、法人の事業所は従業員数に関係なく厚生年金保険と健康保険の強制適用となり、事業主のみの場合も含まれると説明している。個人の事業所で強制適用になるのは常時5人以上を使用する場合で、適用対象の業種も限られる。ひとりで登記した時点から、保険料の労使両方を自分の事業が負うことになる。

項目 個人事業主 株式会社 合同会社
設立時の登録免許税 なし(開業届の提出) 資本金の0.7%・最低15万円 資本金の0.7%・最低6万円
所得にかかる本税 所得税5%〜45%の7段階 年800万円以下15%・超過分23.2% 年800万円以下15%・超過分23.2%
住民税の均等割 所得割・均等割は個人の住民税 所得がなくても課税(千葉県2万円+船橋市5万円) 同じ区分なら同額
厚生年金・健康保険 常時5人以上の使用で強制適用 従業員数に関係なく強制適用 従業員数に関係なく強制適用
損失の持ち越し 純損失を翌年以後3年 欠損金を10年 欠損金を10年
青色申告特別控除 65万円・55万円・10万円 適用なし 適用なし

損失の持ち越しと、控除の形が入れ替わる

売上の波が大きい仕事では、赤字の年をどう扱えるかが実入りを左右する。個人事業の場合、青色申告の特典として純損失を翌年以後3年間にわたって繰り越せる。法人の場合は欠損金の繰越控除が10年間に及ぶ。立ち上がりに時間のかかる事業ほど、この差は無視できない。

一方で手放すものもある。青色申告特別控除の65万円、55万円、10万円という枠は個人事業者の制度で、法人には存在しない。複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告し、さらに電子申告まで満たして65万円を引けていた人は、登記と同時にその枠を失う。

以上を踏まえると、判断は四つの問いを順に通すかたちになる。いまの課税所得は所得税のどの段に乗っているか。適格請求書発行事業者の登録はすでに済んでいるか。年7万円の均等割と社会保険料を払った後でも手元が増えるか。そして赤字が数年続く見込みはあるか。四つめだけが当てはまる場合は、税率の比較よりも繰越期間のほうが効く。

地域で事業を起こす人の相談先や制度情報はFLASPOにも集まっている。器を替える前に、同じ規模で先に進んだ人の実例を聞いておくと、固定費の見積もりが現実に近づく。関連する手続きはフリーランスのなり方と会社設立と若者でも扱っている。

よくある質問

株式会社と合同会社では、どちらが安く作れますか。登録免許税の最低額で比べると、株式会社が15万円、合同会社が6万円で、9万円の差があります。ただし均等割や社会保険の扱いは同じ区分なら変わらないため、毎年の負担で差は出ません。

法人を作れば消費税が二年間免除になる、という理解は正しいですか。新設法人に前々事業年度がないことが根拠ですが、前事業年度の開始から6か月の課税売上高が1,000万円を超えれば免除されず、適格請求書発行事業者の登録を受けている場合も免除されません。すでに登録済みなら効果は見込めません。

社員が自分ひとりでも厚生年金に入る必要がありますか。日本年金機構は、法人の事業所は従業員数に関係なく強制適用で、事業主のみの場合も含まれると説明しています。登記した時点から加入の対象になります。

65万円の青色申告特別控除は、法人になっても使えますか。この控除は不動産所得や事業所得のある個人向けの制度で、法人には適用されません。かわりに役員報酬が給与として扱われ、受け取る側で給与所得控除を引くかたちになります。

売上がいくらを超えたら登記すべきだと言えますか。売上ではなく課税所得で見ます。所得税の税率表と法人税の15%・23.2%を並べたうえで、均等割の年7万円と社会保険料を差し引いて比べるのが順序です。業種による経費率の違いが大きいので、一律の基準は置けません。

働き方の種類ごとの違いを先に整理したい場合は、フリーランスの種類を先に読むと、契約の形と税の扱いの対応がつかみやすくなります。


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