やりがいはあるが大変だ、という説明では何も決められない。活動に入るかどうかを迷っている段階で知りたいのは、どこにどれだけの負担がかかるのかという具体である。幸いにもNPO法人の場合、不利な点の多くは感想ではなく条文と統計の側に書いてある。報酬の上限、毎年の提出物、名簿の扱い、そして放置したときの帰結。順に開いていけば、見通しはかなり立つ。
不利な点は制度の条文に先に書いてある
特定非営利活動促進法は、法人格を与えるかわりに団体の形に条件をつけている。条件は裏返すと制約であり、活動する側から見れば不便として現れる。たとえば社員の資格の得喪に不当な条件を付さないこと、宗教の教義を広めることを主たる目的としないこと、特定の公職の候補者や政党を推薦し支持しまたは反対することを目的としないこと。いずれも第2条第2項に並ぶ要件で、条文はe-Gov法令検索の特定非営利活動促進法で読める。
この構造を理解しておくと、後から「思っていたのと違う」が起きにくい。法人格は手段であって、取得した瞬間に団体の自由度は一段下がる。下がった自由度に見合う利益があるかどうかが判断の軸になる。法人化そのものの手順はNPO法人の作り方|10人の社員と2週間の縦覧から逆算するに詳しい。
報酬を受け取れる役員は三分の一までと決まっている
金銭面でまず効いてくるのが、第2条第2項第1号ロの規定である。営利を目的としない団体の要件として、役員のうち報酬を受ける者の数が役員総数の三分の一以下であることが求められている。役員が六人いれば、報酬を受けられるのは二人までという計算になる。
ここで混同されやすいのが、役員としての報酬と、職員としての給与の区別である。理事が職員を兼ねて労働の対価を受け取る場合は、この三分の一の枠とは別に扱われるのが一般的な理解だが、名目の整理を誤ると要件を満たさなくなる。運営の中心にいる人ほど無報酬になりやすい構造があり、それが後継者の確保を難しくしている。報酬と無償の線引きをどう考えるかという論点はボランティアと有給活動はどこが違うのか|労働者性と税の線引きで整理されている。
手元に残るお金はほとんどない
では法人全体の資金繰りはどうなっているのか。内閣府が全国のNPO法人6,591法人を対象に行い、2,937法人から回答を得た2023年度(令和5年度)特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書(令和6年3月・内閣府)は、行政記録情報から特定非営利活動に係る事業の規模を集計している。
| 項目(中央値) | 認証法人 | 認定・特例認定法人 |
|---|---|---|
| 経常収益 | 600.4万円 | 2,674.5万円 |
| 経常費用 | 604.2万円 | 2,667.8万円 |
| 収支差額 | 1.1万円 | 33.2万円 |
| 収益1,000万円超の法人の割合 | 41.7% | 69.4% |
注目したいのは収支差額の行である。認証法人の中央値は1.1万円で、収益と費用がほぼ同じ額で動いている。経常費用の中央値が経常収益の中央値をわずかに上回っている点も見落とせない。つまり標準的な法人には、人を雇う余力も、失敗を吸収する余力もほとんど残らない。収益が1,000万円を超える法人が認証法人で41.7%を占める一方、残りの多くはそれ以下の規模で回していることになる。
この水準は、活動に加わる側の処遇に直結する。同じ調査はボランティアへの還元の状況も尋ねており、その他を除いて何らかの形で還元を行っている法人は認証法人で52.5%、認定・特例認定法人で60.8%だった。半数を超えてはいるが、裏を返せば認証法人の四割以上は何も還元していない。内訳を見ると、食費、交通費、滞在費のいずれかを現金で支給している認証法人は26.1%、謝礼として現金を支給している法人は19.2%にとどまる。交通費の実費すら出ない場面があるのは、意思の問題ではなく分母の問題である。
資金が足りないときの借入も、規模の制約を受ける。借入を行っている認証法人565法人について、法人全体の借入合計額の中央値は800.0万円、平均値は2,633.5万円であった。中央値と平均値がこれだけ離れているのは、一部の大きな法人が平均を押し上げているためで、多くの法人にとって借入は事業を大きく動かす手段になっていない。
毎年の報告と五年間の備置きが続く
法人格には事務が付いてくる。第28条第1項は、毎事業年度初めの三月以内に、前事業年度の事業報告書、計算書類、財産目録、年間役員名簿、そして前事業年度末日における社員のうち十人以上の氏名と住所または居所を記載した書面を作成することを求めている。これらをまとめて事業報告書等と呼び、作成の日から起算して五年が経過した日を含む事業年度の末日までの間、事務所に備え置かなければならない。
作って置いておくだけでは終わらない。第29条は、毎事業年度一回、事業報告書等を所轄庁に提出することを義務づけている。年間役員名簿には、前事業年度に役員であったことがある者全員の氏名と住所または居所に加えて、報酬の有無まで記載する必要がある。小さな団体ほど、この一連の作業が特定の一人に集中する。
学生が中心の団体では、この負担が世代交代と噛み合わない。任期が一年や二年で切れるのに、備置きの義務は五年単位で続く。引き継ぎの設計を先に決めておかないと、数年後に書類の所在が分からなくなる。
名簿は閲覧の対象になり、放置すれば認証が消える
情報の開示についても覚悟がいる。第28条第3項は、社員その他の利害関係人から事業報告書等、役員名簿、定款等の閲覧の請求があった場合、正当な理由がある場合を除いてこれを閲覧させなければならないと定めている。役員として名前を出すということは、住所または居所を含む情報が閲覧の対象になりうるということでもある。学生が代表に就くときに、この点を説明されないまま登記されてしまう例がある。
事務を止めた場合の帰結も条文にある。第43条第1項は、所轄庁が監督上の命令に違反した場合のほか、三年以上にわたって第29条の規定による事業報告書等の提出を行わないときに、設立の認証を取り消すことができると定めている。活動が実質的に止まっても法人は自動的に消えず、提出を怠った状態が続いた先に取消しが来る。
さらに第20条は役員の欠格事由を列挙しており、その第5号には、第43条により設立の認証を取り消された法人の解散当時の役員で、取り消された日から二年を経過しない者が挙げられている。畳み方を誤ると、次の団体での役員就任にまで影響が及ぶ。こうした負担と引き換えに何が得られるのかはNPOで活動するメリット|人材不足65.6%という需要側から数えると並べて読むと判断しやすい。学生の活動を社会につなぐ取り組みはFLASPOでも紹介されている。
よくある質問
無給で続ける前提なら法人化しないほうがよいですか。活動に法人名義の契約や助成金の受け皿が必要かどうかで判断するのが現実的です。必要がないうちは任意団体のままのほうが、事務の負担は明らかに軽くなります。
役員報酬の三分の一という制限は人数の話ですか、金額の話ですか。条文は報酬を受ける者の数が役員総数の三分の一以下であることを求めており、人数で判定します。金額の上限が定められているわけではありません。
学生が理事になると住所まで公開されますか。年間役員名簿には氏名と住所または居所を記載し、利害関係人からの閲覧請求には正当な理由がある場合を除いて応じる必要があります。就任前に扱いを確認してください。
活動を休止したいときはどうしますか。休止という状態は制度上用意されていないため、提出義務は残り続けます。再開の見込みがないのであれば、解散の手続きを検討するほうが安全です。
交通費は出してもらえますか。調査では食費、交通費、滞在費のいずれかを現金で支給している認証法人は26.1%でした。出ない前提で参加可否を考え、必要なら事前に確認するほうが現実的です。
活動できる分野に制限はありますか。第2条第1項は、特定非営利活動を別表に掲げる活動に該当し、不特定かつ多数のものの利益の増進に寄与することを目的とするものと定義しています。別表に載らない活動を主たる目的にはできません。
事務負担はどれくらい軽くできますか。会計ソフトの導入や、所轄庁が公開している記載例の活用で作業時間は圧縮できます。ただし提出の頻度と備置きの年数そのものは変えられないため、担当を一人に固定しない体制づくりのほうが効果は大きくなります。
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