例文を写す前に、どの欄に当てる文章かを決める
例文を十本集めたのに手が止まる、という状態はよく起きる。足りないのは題材ではなく、その文章が何を証明するために置かれているのかという前提である。厚生労働省の令和5年若年者雇用実態調査は、若年正社員の採用選考をした事業所に、新規学卒者の選考で重視した点を複数回答で尋ねている。高い順に「職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神」79.3%、「コミュニケーション能力」74.8%、「マナー・社会常識」58.6%、「組織への適応性」53.2%。いっぽう「学歴・経歴」は22.4%、「業務に役立つ職業経験・訓練経験」は14.7%にとどまる。
つまり読み手が目を落としている欄は、経験の珍しさや肩書きではなく、取り組む姿勢と人との関わり方の側に寄っている。例文を選ぶ基準も、そこに合わせるのが筋になる。平成30年調査との差を並べると、動いた項目がさらにはっきりする。
| 重視した点(新規学卒者) | 令和5年 | 平成30年 |
|---|---|---|
| 職業意識・勤労意欲・チャレンジ精神 | 79.3% | 77.9% |
| コミュニケーション能力 | 74.8% | 71.1% |
| マナー・社会常識 | 58.6% | 61.0% |
| 組織への適応性 | 53.2% | 51.4% |
| 体力・ストレス耐性 | 36.2% | 34.9% |
| 業務に役立つ専門知識や技能 | 30.4% | 31.5% |
| 柔軟な発想 | 29.3% | 27.5% |
| 学歴・経歴 | 22.4% | 25.4% |
| 業務に役立つ職業経験・訓練経験 | 14.7% | 10.7% |
五年で伸びたのはコミュニケーション能力と職業経験、下がったのはマナーと学歴である。語の意味を先に押さえたい場合はガクチカとは何を聞かれている設問なのかに戻ると、以下の例文の狙いが取りやすい。題材ごとの文例をまとめて見比べたいならテーマ別・文字数別の例文集のほうが早い。ここで扱うのは、手元の原稿をその欄に当たるよう書き換える手順である。
学業や研究を題材にした例文と、読み手が追う線
ゼミや研究室の話は地味だと敬遠されがちだが、組織への適応性と柔軟な発想の二欄に同時に当たる題材である。次の二百字弱を読んでみてほしい。
「所属ゼミの共同発表で、資料づくりの負荷が三人に偏り、締切の二週間前に進行が止まりました。原因をたどると、担当が章ごとに切られていて、参考文献の重複を誰も把握していないことが分かりました。そこで文献を一枚の表に集め、週二回、十五分だけ進捗を読み上げる時間を設けました。発表当日は全員が自分の章を提出し、質疑で裏づけを問われた箇所に出典を示して答えられました。」
読み手がここで追えるのは、止まった状況、原因の特定、打った手、変わった結果という四つの区切りである。文献表と十五分という具体が入っているため、同じ手を職場でも繰り返せそうかが判断できる。逆に「全員で協力して乗り越えました」で終わると、どの欄にも印が付かない。
研究室の話を書くときに迷いやすいのは、専門内容の説明にどれだけ割くかである。調査で「業務に役立つ専門知識や技能」は30.4%、「組織への適応性」は53.2%だった。手法の名前を正確に書くより、人の手が足りない場面で何を決めたかに字数を回したほうが、当たる欄の数が増える。専門用語は一語だけ残し、残りは判断の記述に替えるのが現実的な配分になる。
アルバイトを題材にした例文と、言い換えの勘所
接客の仕事は、コミュニケーション能力74.8%という最も重い欄に正面から当たる。ただし「笑顔で接客した」では能力の中身が見えない。
「カフェのホールで、昼の混雑時に注文の聞き直しが一時間で五、六件起きていました。先輩に確認すると、キッチンへの口頭伝達が重なったときに抜け落ちていました。そこで卓番と品名を先に言い切る順番に揃え、注文票の控えをキッチン側にも置くよう店長に提案しました。導入後は聞き直しが一時間一件前後に減り、同じ手順を新人二名の研修にも使いました。」
この型は、相手の状況を聞き取り、言葉の順番を変えて齟齬を減らし、他人に引き継いだという三段で組まれている。コミュニケーション能力を主張する代わりに、伝達の設計を変えた事実を置くのが勘所である。題材別の構成をさらに詰めたいときはガクチカのアルバイト編が近い。
なお、研修に使われたという最後の一文が効いているのは、自分の工夫が他人に渡った証拠になるからである。一人で頑張った話は本人の努力までしか示さないが、他人が使った手順は職場に持ち込める形に整っていたことを示す。引き継いだ相手が一人でもいるなら、その事実は削らずに残したい。
団体やイベント運営を題材にした例文と、数字の置き方
サークルや学生団体の話では、参加者数や売上をそのまま書いて終わる原稿が多い。数字は成果の大きさを誇るためではなく、判断の根拠として置くと働く。
「学生団体で地域の物産イベントを担当し、前年は出店者十二組のうち四組が当日の人手不足を理由に撤収していました。聞き取りで、搬入時間と駐車場の案内が前日まで届いていないことが共通点だと分かりました。案内を一枚にまとめて二週間前に送り、搬入の立ち会いを二名体制に変えました。結果として当日の撤収は起きず、翌年の出店継続は十二組のうち十組になりました。」
十二組のうち四組という内訳があるため、読み手は問題の重さを自分で測れる。職業意識・勤労意欲の欄に印を付けるのは、継続した年数ではなく、こうした測れる記述である。字数の都合で削る場面では、形容詞から先に落とし、内訳の数字は最後まで残したい。
例文を自分の経験に移すときに差し替える四か所
構成が良い例文を見つけても、題材をすり替えただけでは読み手に届かない。上の三本はいずれも同じ四か所に具体が入っている。
一つ目は主語で、「チームで」ではなく自分が何をしたかに揃える。二つ目は原因で、困った事実ではなく、調べて分かった理由を一文で置く。三つ目は手で、誰に何をどの順で働きかけたかを動詞で書く。四つ目は結果で、変化の方向と幅を、測れる形にする。この四か所が埋まっていれば、残りの文は削っても評価は落ちない。
手順としては、手元の原稿を一度この四行だけに縮めてから書き足すのが速い。先に文章を整えると、空いている箇所が文体に隠れて見えなくなる。四行のうち埋まらない行が出たら、書く力の問題ではなく、その経験について思い出せていない事実があるという合図である。
地域での活動を題材にしたい学生には、FLASPOのような地域体験の場で自分が引き受けた役割を記録しておく方法もある。経験の最中に、相手の反応と自分の判断を一行ずつ残しておくと、書く段で原因と手を取り違えにくい。字数の配分で迷う場合はガクチカの文字数の目安を先に決めてから本文に入ると手戻りが減る。
よくある質問
例文をそのまま提出してもよいか。構成は借りてよいが、原因と結果の記述は自分の経験のものに置き換える必要がある。面接では同じ場面を別の角度から聞き直されるため、借り物の事実は追加の質問で止まる。
成果が出なかった経験でも書けるか。書ける。調査で重く見られているのは職業意識や組織への適応性であり、達成そのものではない。うまくいかなかった原因をどこまで特定できたかを書けば、同じ欄に印が付く。
複数の経験を一本にまとめてよいか。避けたい。四か所の具体がそれぞれ薄まり、どの場面の判断なのか追えなくなる。企業ごとに題材を選び直すほうが、同じ字数で濃くなる。
アルバイト経験が短い場合はどうするか。期間の長さは重視した点の項目に入っていない。三か月でも、聞き取りと手当てと変化が書ければ成立する。
既存の例文集と、この記事の使い分けはどうなるか。文例を数多く見比べて題材を決める段では例文集が向く。題材が決まり、原稿が一本できたあとで当たる欄を増やす段では、ここで示した四か所の差し替えのほうが効く。
同じ構成を志望動機にも流用できるか。原因と手の記述はそのまま使えるが、結果の欄は企業側の事情に置き換える必要がある。学生時代の変化をそのまま入社後の話にすると、根拠のない接続になる。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。


