空き家は買われて生まれるのではなく、受け継がれて生まれる
親の家をどうするかという話は、たいてい葬儀のあとに唐突に始まる。国土交通省の令和6年空き家所有者実態調査(令和7年8月29日公表)を開くと、その唐突さが統計にも表れている。所有者が空き家をどう手に入れたかを尋ねた結果は、相続が57.9パーセントで突出していた。
調査は昭和55年から概ね5年ごとに行われてきたもので、令和6年調査が10回目にあたる。令和5年住宅・土地統計調査で空き家を所有していると答えた世帯から無作為に抽出し、12,402世帯へ調査票を配って6,294世帯から回答を得た。回収率は約51パーセントである。
| 取得方法 | 割合 |
|---|---|
| 相続 | 57.9% |
| 新築・建て替え | 17.1% |
| 既存住宅を購入 | 14.2% |
| 新築住宅を購入 | 4.6% |
| 贈与 | 2.3% |
| その他 | 3.8% |
空き家になったきっかけを見ると、同じ構図がもう一度出てくる。相続した空き家の発生原因は死亡が58.3パーセントで最も多く、転居が26.9パーセント、老人ホームなどの施設への入居が11.3パーセントと続く。住んでいた人がいなくなった瞬間に空き家が生まれ、そのまま相続人の手に渡る。全国の戸数や空き家率そのものは空き家の現状と統計|900万戸・空き家率13.8%が示す日本の住宅に整理した。
受け継いだ家は、たいてい古くて傷んでいる
相続で手に入るのは、新しい家ではない。同じ調査によると、相続された空き家の建築時期は1951年から1970年が26.4パーセント、1971年から1980年も26.4パーセント、1950年以前が20.4パーセントで、1980年以前に建てられたものが7割を超える。1981年から2000年は17.5パーセント、2001年以降はわずか4.5パーセントにとどまる。
建物の状態も厳しい。腐朽や破損がまったくないものは28.2パーセントしかなく、室内外に部分的な腐朽・破損があるものが47.1パーセント、構造上の不具合があるものが21.2パーセント、室内外に全体的な腐朽・破損があるものが3.5パーセントだった。合わせて7割超が何らかの傷みを抱えている。
この二つの数字は、後で出てくる制度の条件に直結する。1981年5月末以前の建物は旧耐震基準で建てられており、売るにも貸すにも耐震の確認が先に来る。買う側から見た確認の順番は空き家を買う前に通る四つの確認|旧耐震7割超という前提で扱った。受け継ぐ側も、同じ前提から出発することになる。
期限は二つあり、片方は登記の3年である
相続した家をめぐって動く時計は二つある。混ざりやすいので分けて押さえたい。一つめは登記の期限で、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務になった。法務省の相続登記の申請義務化に関するQ&Aによると、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しなければならない。遺産分割で取得した場合は、分割の日から3年以内に、その結果に基づく登記が必要になる。
正当な理由なく怠った場合は10万円以下の過料の対象となる。額は裁判所が1万円から10万円の範囲で決める仕組みで、登記官が催告し、期限内に登記がなければ裁判所へ通知が回る。正当な理由として法務省が挙げるのは、相続人が非常に多く戸籍の収集に時間を要する場合、遺言の有効性や遺産の範囲が争われている場合、申請する人が重病である場合、避難を余儀なくされている場合、登記費用を負担できないほど困窮している場合などである。
見落とされやすいのは、施行前に起きた相続も対象になることだ。令和6年4月1日より前に相続を知っていて未登記のままの不動産は、令和9年3月31日が期限になる。遺産分割がまとまらないときのために、相続人申告登記という簡易な方法も同じ日から始まった。登記所に対して、登記簿上の所有者に相続が開始したことと、自分が相続人であることを申し出れば、義務を果たしたとみなされる。単独で申し出ることができ、申し出た人だけが義務を免れる。ただし所有権を公示するものではないため、売却や抵当権の設定には改めて相続登記が要る。
もう一つの3年は、税の側で動いている
二つめの時計は譲渡所得税である。国税庁の被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、一定の要件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できるという内容で、租税特別措置法35条3項に基づく。令和6年1月1日以後の譲渡で、家屋と敷地を相続または遺贈により取得した相続人が3人以上いる場合は、控除額が2,000万円に下がる。
要件は細かい。家屋は昭和56年5月31日以前に建築されたもので、区分所有建物の登記がされていないこと、相続開始の直前に被相続人以外が住んでいなかったことが求められる。売るのは相続または遺贈で取得した相続人であること、譲渡対価が1億円以下であること、譲渡のときまでに耐震性能を満たすか、家屋を取り壊して土地だけを譲渡することも条件になる。被相続人が老人ホーム等に入所していた場合にも、一定の要件を満たせば対象になる。
そして期限である。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡し、かつ令和9年12月31日までの譲渡でなければならない。登記の3年とは起算点も終点も違う。登記は取得を知った日から、税は相続開始から数える。前の節で見た建築時期の分布を思い出すと、相続空き家の7割超が1980年以前の建築だった。つまり多くの物件は、昭和56年5月末以前という家屋要件のほうは満たしやすく、むしろ耐震か取り壊しかという判断と期限のほうが壁になる。解体の相場は空き家の解体費用はいくら?構造別の目安と補助金・届出の流れにまとめている。
手放す最後の窓口と、その手前でできること
売れず貸せない土地には、国に引き取ってもらう道がある。令和5年4月に始まった相続土地国庫帰属制度である。法務省が公表する相続土地国庫帰属制度の統計によれば、令和8年9月30日現在の速報値で申請は累計6,125件、うち田・畑が2,372件、宅地が2,135件、山林が928件、その他が690件だった。実際に国庫に帰属したのは3,231件で、宅地1,208件、農用地1,013件、森林229件、その他781件である。
ここに大きな注意点がある。この制度が引き受けるのは土地であって、建物ではない。建物が建ったままでは申請できないため、相続した家を手放したい場合は先に取り壊すことになる。却下86件、不承認103件という数字に加えて、取下げが1,162件にのぼっている点も見ておきたい。取下げの理由は、有効活用の見込みが生じたが595件、却下や不承認に当たると判明したが415件、その他が152件だった。申請してみて初めて要件に合わないと分かる例が4割近くある。
では手前で何ができるのか。調査は、相続が起きる前に何か手を打っていた世帯が23.0パーセントしかないことを示している。内容は被相続人との話し合いが16.7パーセントで最も多く、遺言の作成支援は1.8パーセント、後見制度や家族信託の活用は1.3パーセントにとどまる。そして、打った手の有無でその後がはっきり分かれる。
| 相続前の対策 | 空き家のまま所有 | 買い手を募集していた | 別荘等として利用 | その他 |
|---|---|---|---|---|
| 対策あり(23.0%) | 29.4% | 13.1% | 26.9% | 30.6% |
| 対策なし(77.0%) | 45.1% | 7.5% | 20.0% | 27.4% |
| 相続空き家の全体 | 41.3% | 8.8% | 21.8% | 28.1% |
何もせずそのまま持ち続けている割合は、対策なしの45.1パーセントに対して対策ありは29.4パーセントで、およそ1.5倍の開きがある。生前の話し合いひとつでここまで変わるという読み方もできるし、動ける家族はもともと動く、という読み方もできる。いずれにせよ、相続が起きてから考え始めると、登記の3年と税の3年が同時に走り出す。地域の家や土地との関わり方を探している人はFLASPOの事例も参考になる。
よくある質問
相続登記をしないまま放置するとどうなりますか。正当な理由がなければ10万円以下の過料の対象になる。登記官が催告し、期限までに登記がなければ裁判所へ通知され、裁判所が1万円から10万円の範囲で額を決める。令和6年4月1日より前に相続を知っていた未登記の不動産は、令和9年3月31日が期限になる。
遺産分割がまとまらないときはどうすればよいですか。相続人申告登記という簡易な方法がある。登記所に相続の開始と自分が相続人であることを申し出れば、申請義務を果たしたとみなされる。単独で申し出ることができる一方、所有権の公示にはならず、売却や抵当権の設定には改めて相続登記が必要になる。
3,000万円の控除はいつまで使えますか。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ令和9年12月31日までの譲渡が対象になる。相続人が3人以上の場合、令和6年1月1日以後の譲渡では控除額が2,000万円になる。
古い家が建ったままでも国に引き取ってもらえますか。引き取りの対象は土地であり、建物が建ったままでは申請できない。取下げ1,162件のうち415件は、却下や不承認に当たると途中で判明したものだった。申請の前に要件を確認しておきたい。
空き家のまま持ち続けると費用はどう変わりますか。管理が行き届かず特定空家等に指定されると、住宅用地の特例から外れて土地の固定資産税の負担が変わる。仕組みは空き家の固定資産税|住宅用地特例が外れる条件と6倍になる仕組みで詳しく扱っている。
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