農業に新しい会社が入っていく話は、たいてい「若者が就農した」という形で紹介される。ただ統計の側から見ると、動いているのは個人ではなく法人の数である。5年で経営体が24万減ったのに、法人だけは3千増えた。農地を持てる法人と借りるだけの法人では要件がまったく違い、入口の選び方で必要な条件も変わる。農業ベンチャーという言い方で何が指されているのか、制度と数字の両方から確かめておきたい。
5年で経営体は22.3%減り、法人だけが10.1%増えた
2025年農林業センサスの確定値は令和8年3月31日に公表された。調査期日は令和7年2月1日である。農業経営体の数は83万6千経営体で、5年前に比べて24万経営体、22.3パーセント減った。
同じ調査で、法人経営体は3万4千経営体だった。こちらは5年前から3千経営体、10.1パーセント増えている。母数が2割以上縮むなかで、法人の数だけが逆向きに動いた。1経営体当たりの経営耕地面積は3.6ヘクタールで、5年前より0.5ヘクタール広い。経営耕地面積の約半分は、20ヘクタール以上を持つ経営体が握っている。
この数字には改定の経緯がある。令和7年11月28日に出た概数値の段階では、農業経営体82万8千(23.0パーセント減)、法人経営体3万3千(7.9パーセント増)、1経営体当たり3.7ヘクタール(0.6ヘクタール増)だった。確定値で経営体が8千増え、法人も1千増え、平均面積は0.1ヘクタール下がった。概数値を引いて書かれた記事と確定値が食い違うことがあるので、数字を使うときは公表日を見ておきたい。
農地を持てる法人には、四つの要件が課されている
法人の形で農業をやろうとすると、最初に当たるのが農地である。農地を所有できるのは「農地所有適格法人」に限られ、農林水産省の資料は要件を四つに整理している。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 法人形態 | 株式会社(公開会社でないもの)、農事組合法人、合名会社、合資会社、合同会社 |
| 事業 | 主たる事業が農業。加工・販売などの関連事業を含め、売上高が過半であること |
| 議決権 | 農業関係者が総議決権の過半を占める。農業関係者以外は2分の1未満 |
| 役員 | 役員の過半が農業に常時従事(原則年150日以上)。役員または重要な使用人の1人以上が農作業に従事(原則年60日以上) |
議決権要件でいう農業関係者には、常時従事する個人や農地を提供した個人のほか、地方公共団体、農地中間管理機構、農業協同組合などが含まれる。外部の資本を入れる場合、総議決権の2分の1未満という線が上限になる。資金を多く集めたい会社にとって、ここが最初の制約として効いてくる。
役員要件の「年150日以上」と「年60日以上」も見落とされやすい。経営だけを見る役員ばかりでは要件を満たさず、誰かが現場に立ち続ける前提で組まれている。関連事業として認められる範囲には農産物の加工・貯蔵・運搬・販売、資材の製造、農家民宿のような滞在型施設の運営までが入る。
借りるだけなら、全国どこでも入れる
所有を諦めれば、話はかなり軽くなる。貸借であれば農地所有適格法人の要件を満たす必要はなく、全国どこでも参入できる。平成21年12月に施行された改正農地法が開いた道である。
代わりに三つの条件が付く。一つ目は貸借契約に解除条件が付いていること。農地を適切に利用しない場合は契約を解除する、という条件である。二つ目は地域での適切な役割分担のもとに農業を行うこと。集落の話し合いへの参加や、農道や水路の維持活動への参画が例として挙げられている。三つ目は業務執行役員または重要な使用人の1人以上が耕作の事業に常時従事することで、この「耕作の事業」は農作業に限られず、マーケティングなど経営や企画に関するものでも認められる。
三つ目の幅の広さは、外から入る会社にとって実務上大きい。畑に出る人を役員に据えなくても、経営や販路づくりに専念する人がいれば条件を満たせる。一方で二つ目の役割分担は、地域の寄り合いに顔を出すことを制度として求めている。農地を借りる行為が、地域との付き合いとひとまとめに設計されているということだ。
借りて入った企業は5,037法人、県ごとに濃淡がある
リース方式で農業に入った一般法人は、令和7年1月1日現在で全国5,037法人である。平成29年12月末の3,030法人、令和2年12月末の3,867法人から順に増えてきた。8年ほどで1.6倍を超えた計算になる。
分布には偏りがある。中国四国農政局が公表している地域内の内訳では、中国・四国で756法人(中国530法人、四国226法人)が参入している。県別では広島県156、岡山県147、愛媛県96、鳥取県82、山口県74、島根県71、高知県58、香川県45、徳島県27の順だ。同じ四国でも愛媛県と徳島県で3.5倍の差がある。
この差は農地の広さだけでは説明がつかない。借りられる農地が出てくるかどうかは、農業委員会や農地中間管理機構の動き方、集落側の受け入れ方に左右される。参入したい地域を選ぶ段階で、県単位の参入実績を先に見ておくと、話が通りやすい地域かどうかの手がかりになる。実家の農地を使う場合の順番は実家に戻って就農するまでの順番|認定新規就農者10,954経営体の地域差で扱った。
技術側の法律が、2024年に別の入口を作った
農地の制度とは別に、技術の側から入る枠が2024年にできた。スマート農業技術活用促進法である。令和6年6月14日に成立、6月21日に公布、10月1日に施行された。
この法律は二種類の計画を認定する。一つは「生産方式革新実施計画」で、スマート農業技術と新しい生産方式を組み合わせて導入する農業者側の計画である。もう一つは「開発供給実施計画」で、技術を開発して普及させる事業者側の計画だ。認定を受けると金融などの支援措置が使え、補助事業の審査で加点されたり優先的に採択されたりする扱いになる。
認定の件数は、生産方式革新実施計画が235計画(令和8年10月22日時点)、開発供給実施計画が69計画(令和8年9月4日時点)である。施行から2年で合計300件を超えた。農林水産省の一覧では、各計画に北海道・東北・関東・東海・近畿・中国四国・九州・北陸・沖縄といった地域と、自動操舵・情報活用・情報取得・無人飛行・自動作業・ロボットといった技術の区分が付されている。農地を持たないまま機械やソフトの側から農業に関わる会社には、こちらの計画が入口になる。技術導入の前提が2024年に変わった経緯はスマート農業とは|データ活用4割の到達点と2024年に変わった前提にまとめてある。地域の事業に学生として関わる入口はFLASPOでも紹介している。
よくある質問
農業ベンチャーという区分は統計にありますか。
農林業センサスには「農業ベンチャー」という区分はない。近いのは法人経営体の3万4千経営体で、ここには集落営農を法人化したものや既存の農家が法人になったものも含まれる。新しく起こした会社だけを数えた統計は公表されていない。
農地を買うのと借りるのでは、どちらが現実的ですか。
外部の資本を入れたい場合は借りる方になる。所有するには議決権の過半を農業関係者が占める必要があり、農業関係者以外は2分の1未満に抑えられる。借りる場合はこの要件が外れ、解除条件付きの契約と地域での役割分担が条件になる。
役員が農作業をしなくても法人は作れますか。
農地を所有する法人では難しい。役員の過半が原則年150日以上農業に常時従事し、役員または重要な使用人の1人以上が原則年60日以上農作業に従事する必要がある。借りる場合は、業務執行役員または重要な使用人の1人以上が耕作の事業に常時従事すればよく、この事業には経営や企画も含まれる。
法人が増えているなら、農地も集まっているのですか。
1経営体当たりの経営耕地面積は3.6ヘクタールで5年前より0.5ヘクタール広がり、20ヘクタール以上の経営体が全体の約半分の面積を持つ。経営体の数が22.3パーセント減るなかで面積が残る側に寄っている、という読み方になる。
出典はどこで確かめられますか。
センサスの確定値は農林水産省「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」、概数値は同(概数値)にある。法人の要件は農林水産省「法人が農業に参入する場合の要件」、参入法人数は中国四国農政局「リース法人の農業への参入状況」、計画の認定件数は農林水産省「生産方式革新実施計画の認定状況」で確認できる。
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