実家の田畑を継ぐつもりで地元に戻る。あるいは、戻ってから農業法人を探す。どちらの道でも、就職活動の履歴書を書く前に通る手続きがひとつある。住む市町村に青年等就農計画を出して、認定を受けることだ。認定を受けた人は認定新規就農者と呼ばれ、令和7年3月末時点で全国に10,954経営体いる。この数は募集の枠ではなく、計画の認定が有効なあいだ積み上がっている在庫のような数字で、どの県に戻るかで一桁違う。戻る先を決める前に見ておきたい数字を、農林水産省の公表資料から拾っておく。
認定するのは県でも国でもなく、住む市町村
青年等就農計画は農業経営基盤強化促進法に基づく仕組みで、計画を作って市町村から認定を受けると認定新規就農者になる。有効期間は5年である。都道府県の相談窓口や国の情報サイトは入口の案内をしてくれるが、認定の判子を押すのは戻る先の市町村だ。だから同じ県の中でも、隣町と手続きの進み方が違うことがある。
この構造は、Uターンで戻る人にとっては有利に働く場合がある。市町村の農政担当は地域の農地と担い手を把握しているので、実家がどこの集落にあるかという話が通じやすい。一方で不利に働く場合もある。認定の実績が少ない市町村では、計画書の作り方を一から相談することになり、そのぶん時間がかかる。認定の件数が公表されているのは都道府県単位までだが、県の数字が小さければ市町村単位ではさらに薄い、と考えるのが妥当だ。
10,954という数は年の新規就農者数とは意味が違う
令和7年3月末時点の認定新規就農者数は10,954経営体で、前年同期と比べて52経営体増えた。増加が52というと動きが止まっているように見えるが、これは認定が5年で切れる仕組みだからで、同じ資料には直近1年間、つまり令和6年4月から令和7年3月までに新たに認定を受けた数が2,229経営体と書かれている。毎年2千台が入り、同じくらいが期間満了で抜けている、という形だ。
内訳を見ると、原則45歳未満の青年が8,667経営体で、前年から169増えた。残りのうち知識や技能を持つ中高年が970、法人が350、夫婦などの共同申請が967である。女性は1,374で、全体の12.5パーセントにあたる。共同申請が967あるというのは、戻った実家で親や配偶者と組んで出すという形が千件近く成立していることを意味する。ひとりで計画を立てる前提で考えなくてよい。
同じ農林水産省が別に出している新規就農者調査では、自分で土地と資金を調達して経営を始めた新規参入者が令和7年で年3,360人だった。認定の在庫が1万を超えるのは、年の流入が数千でも認定が5年続くからで、二つの数字は足し引きできない。年の人数で考えるなら2,229のほうが近い。
戻る県で分母が7倍変わる
都道府県別に並べると幅が大きい。多いほうは鹿児島県の520、北海道の519、長野県の488、熊本県の452、福島県の427、福岡県の407が続く。少ないほうは山口県の66、福井県の68、鳥取県の79、東京都の80、奈良県の85である。鹿児島県と山口県では約7.9倍の差があり、どちらも農業が主要産業である県同士でこの開きだ。ブロックでまとめると傾向がはっきりする。
| 地域 | 認定新規就農者数 | うち青年(原則45歳未満) |
|---|---|---|
| 北海道 | 519 | 313 |
| 東北 | 1,693 | 1,410 |
| 関東 | 2,399 | 1,866 |
| 北陸 | 393 | 295 |
| 東海 | 609 | 468 |
| 近畿 | 1,034 | 858 |
| 中国・四国 | 1,581 | 1,274 |
| 九州 | 2,412 | 1,916 |
| 沖縄 | 314 | 267 |
| 全国 | 10,954 | 8,667 |
九州と関東が2千台で並ぶのは意外に映るかもしれない。関東には千葉県の374、栃木県の326、神奈川県の210が入っていて、都市圏に近い産地が数を押し上げている。北陸は393しかなく、全国の3.6パーセントにとどまる。前年からの増減を見ると九州が71減、中国・四国が29減、沖縄が28減で、増えているのは関東の51、近畿の48、東海の35である。既存の産地が減って都市近郊が増える、という向きだ。
この数字の読み方には注意がいる。数が多い県は認定の経験が蓄積されていて相談しやすいとも言えるが、同時に農地や販路の取り合いが起きているとも言える。数が少ない県は手続きに時間がかかるかわりに、受け入れ側が一人ひとりを覚えてくれる。どちらが良いかは作目と規模で変わる。
認定が開けるのは無利子で3,700万円の枠
認定を取る実益がどこにあるかというと、ひとつは青年等就農資金である。対象は市町村から青年等就農計画の認定を受けた者で、貸付利率は無利子、借入限度額は3,700万円、特別に認められる場合の限度額は1億円とされている。償還期限は17年以内で、うち5年以内は据置ができる。担保と保証人は実質的に不要で、取扱金融機関は日本政策金融公庫、沖縄県の場合は沖縄振興開発金融公庫になる。
使える先は、農地や牧野の改良と造成、農地の賃借、果樹の植栽と育成、家畜の購入と育成、農機具や運搬用機具の賃借権の取得、創立費や開業費、農薬費や肥料費、それに農舎や畜舎や加工販売の施設などだ。ここで見落としやすいのは、農地そのものの取得には使えないという点である。農地を買う場合は経営体育成強化資金という別の有利子の資金を使う。実家の農地を借りて始めるなら前者で足り、親族から買い取る形にするなら後者が必要になる。どちらを選ぶかで資金計画の立て方が変わるので、計画書を書く段階で決めておきたい。
45歳の線は、思っているより柔らかい
青年等就農資金の対象者の定義には、青年を原則18歳以上45歳未満とする一方で、知識や技能を有する者については65歳未満までが入ると書かれている。認定新規就農者の統計のほうも、原則45歳未満の青年が8,667で、それとは別に効率的かつ安定的な農業経営を営む者となるために活用できる知識と技能を有する中高年が970数えられている。45歳を一日過ぎたら終わり、という線ではない。
もうひとつ柔らかいのが、始めたあとでも間に合うという点だ。資金の対象には、農業経営を開始してから5年以内の者が含まれると明記されている。戻ってすぐ認定を取れなかった人にも、最初の数年のうちに取り直す道が残っている。ただし認定農業者はこの枠から除かれるので、規模が大きくなって別の認定に移ったあとでは使えない。
戻る前にどこを確かめるかという順番については、Uターンで戻る前に確かめる移住の順番に整理がある。体験から就農へ進む経路の全体像は農業体験は就農につながるのか、移住先の選び方は農業で移住する人の移住先選びが詳しい。FLASPOでは地域で働く入口の情報も扱っている。
よくある質問
認定を受けないと農業を始められないのか。始められる。認定は農業をする許可ではなく、支援の対象になるための手続きだ。ただし無利子資金のように認定を条件にしているものがあるので、使う予定があるなら先に取る順番になる。
計画の認定はどれくらいで下りるのか。公表資料に標準の処理期間は書かれていない。市町村ごとに相談から認定までの進め方が違うため、戻る先の農政担当に直接聞くのが確実だ。都道府県別の認定数が少ない地域では、前例が薄いぶん余裕を見ておきたい。
親の経営を継ぐ場合も認定を取れるのか。統計には夫婦などの共同申請が967あり、法人も350入っている。親元で始める形が排除されているわけではない。ただし既に認定農業者になっている経営に入る場合は、青年等就農資金の対象から外れる。
女性の割合はどれくらいか。令和7年3月末時点で1,374で、全体の12.5パーセントである。地域別では福島県の86、千葉県の65、鹿児島県の62、栃木県の55、山形県の54が多い。
元になった資料はどこにあるか。認定の状況は農林水産省の認定新規就農者の認定状況(令和8年3月31日公表)に都道府県別の表まで載っている。無利子資金の条件は青年等就農資金の資料、年ごとの就農者数は令和7年新規就農者調査結果にある。
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