地方の採用を動かすのは銀行だった|113コンソーシアムの人材マッチング

地方企業の求人は、誰の手を経て出てくるのか

地方の会社で働いてみたいと考えたとき、求人の出どころを気にする人は少ない。ところが地方の中小企業が専門人材を迎えるとき、その引き合わせを担っているのは人材会社ではなく、取引先の銀行や信用金庫であることが珍しくない。内閣府の先導的人材マッチング事業が、その形をつくっている。

制度の説明は単純である。地域企業の生産性向上を進めるため、地域金融機関などが民間の人材紹介事業者と連携して行う人材マッチングに、国が補助金を出す。補助事業者がまず国から補助金を受け、そこから各地の金融機関へ間接補助金として流れる。金融機関は自前で紹介の免許を持たない場合、人材紹介事業者と組んで対価を払う。

この経路を使う意味は、求人を探す側から見ると分かりやすい。銀行や信用金庫は融資の過程で取引先の人手不足を先に知っている。経営者が求人票を書く前の段階、つまり「何に困っているか」の時点で話が始まるため、公募に出ていない仕事がここに集まる。内閣官房と内閣府が令和8年6月にまとめた資料は、この事業を地域企業における外部人材の活用を後押しするものと位置づけている。

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補助金の条件が、入れる会社を決めている

どの会社が対象になるかは、補助金の要件が先に決めている。支援を受けられる企業は、従業員2,000人超の大企業に該当しないこと、本店所在地が東京都以外の地域または条件不利地域であることが条件になる。条件不利地域は、過疎地域自立促進特別措置法・山村振興法・離島振興法・半島振興法・小笠原諸島振興開発特別措置法が定める地域を有する市町村のうち、政令指定都市を除くものを指す。

対象になる業務も限定されている。支援企業に対して行う「ハイレベル人材」のマッチングであって、一般的な欠員補充ではない。交付額はマッチングした人材の年収に応じ、所定の補助率を乗じた金額となる設計で、実施主体ごとの交付上限額は50百万円に置かれている。年収が高い採用を成立させたほうが補助金も大きくなるため、紹介の照準は自然と経営幹部や専門職の側へ向く。

期間も区切られている。令和7年度の事業期間は2026年3月から2027年1月31日までで、年度をまたぐ1年弱の枠である。年に一度の公募で動く仕組みなので、同じ金融機関が翌年も参加しているとは限らない。地方での仕事を探す人が押さえておくべきなのは、この枠が通年の求人サイトではなく、期限付きの事業として回っているという点だ。

113の束の内訳と、前年度からの減り方

令和7年度に採択されたのは113コンソーシアム、機関数では117である。第一地銀等が53、第二地銀が22、信金信組が40、ベンチャーキャピタルなどその他が2という構成で、信用金庫と信用組合が3割を超える。採択先には北海道銀行や千葉銀行のような地銀だけでなく、豊橋信用金庫や三条信用金庫といった地域に密着した組織が並ぶ。

区分 令和6年度 令和7年度
第一地銀等 58 53
第二地銀 26 22
信金信組 40 40
その他(ベンチャーキャピタル等) 2 2
機関数の合計 126 117
コンソーシアム数 119 113
内閣官房地域未来戦略本部事務局・内閣府地方創生推進事務局「先導的人材マッチング事業の概要について」(令和8年6月)から作成

数字を並べると減っている。令和6年度は第1次公募で116、第2次公募で3を採択して合計119コンソーシアム・126機関だったので、1年で6コンソーシアム・9機関が外れた計算になる。減ったのは地銀側で、信金信組は40のまま動いていない。小さな金融機関のほうが、この枠を継続して使っているという読み方ができる。

地域の偏りも見ておきたい。愛知県や静岡県では複数の信用金庫が並んで名を連ねる一方、同じ県で1機関しか入っていない地域もある。自分が関心のある県でどの機関が動いているかは、採択結果の一覧を見れば確かめられる。参加機関がない県では、この経路は使えないことになる。

副業で入る場合に、勤め先の側で起きること

この経路は転職だけに使われるわけではない。本業を続けながら地方の会社に関わる形も含まれるため、いま勤めている会社の扱いが問題になる。厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインは、平成30年1月の策定から令和2年9月、令和4年7月と二度の改定を経ており、企業と働く側が何に気をつけるべきかを整理している。

勤務時間外にどう過ごすかは基本的に働く人の自由であり、会社が制限できるのは限られた場合だけだとガイドラインは書いている。挙げられているのは、労務提供上の支障がある場合、業務上の秘密が漏洩する場合、競業により自社の利益が害される場合、自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合の4つである。厚生労働省のモデル就業規則も、勤務時間外に他の会社等の業務に従事できる旨を定めている。

会社選びの材料も用意されている。ガイドラインは、副業・兼業を許容しているか否か、条件付きで認める場合はその条件について、自社のホームページ等で公表することが望ましいと企業に求めている。就職や転職の前に、その会社が副業について何を公表しているかを見ておけば、入社後に地域の仕事を引き受けられるかどうかの見通しが立つ。

二つの勤め先をまたぐと保険の数え方が変わる

勤め先が二つになると、保険の計算が一社だけのときとは違う形になる。労災保険の給付額は、従来は災害が発生した就業先の賃金分だけで算定されていた。令和2年法律第14号による改正で、災害が発生していない事業場の賃金額も合算して給付を算定し、複数の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定を行うことになった。

移動中の扱いも決まっている。自社と副業先の両方で雇われている場合、一方の就業先から他方へ移動する途中で起きた災害は通勤災害として労災保険給付の対象になる。保険関係の処理は移動の終点となる事業場の保険で行うと、平成18年3月31日付けの労働基準局長通達が整理している。地方の会社へ出向く日の移動も、この枠の中に入る。

厚生年金保険と健康保険は適用要件を事業所ごとに判断するため、どちらの事業所でも要件を満たさない場合、労働時間を合算して要件に届いても適用されない。逆に両方で被保険者要件を満たす人は、どちらかの事業所を管轄する年金事務所と医療保険者を選び、各事業所の報酬月額を合算して標準報酬月額を決める。保険料は各事業主が報酬額で按分して納める形になる。

よくある質問

学生がこの事業に直接関わることはできますか。補助の対象はハイレベル人材のマッチングで、実務経験を前提にした枠である。在学中に当事者になる場面は想定されていない。ただし、どの金融機関が地域の人手不足を把握しているかという地図は就職活動でも使える。地元の信用金庫が参加しているなら、その取引先の中小企業が外部人材を探しているということでもある。

先導的人材マッチング事業とプロフェッショナル人材戦略拠点は何が違うのですか。後者は45道府県に置かれた公的な拠点が相談と紹介を担う仕組みで、前者は地域金融機関に補助金を出して紹介を促す仕組みである。入口が公的機関か金融機関かという違いで、どちらも地方企業の専門人材採用を後押しする。詳しくは副業のマッチングはどこで起きているかで整理している。

求人はどこで見られますか。事業そのものに全国共通の求人サイトはない。採択された金融機関が連携する人材紹介事業者のサービスに掲載される形が基本なので、関心のある地域の金融機関の発表を見るのが近道になる。取引先でない人がいきなり窓口へ行っても紹介にはつながりにくい。

報酬の水準はどのくらいですか。この事業の資料に個人の報酬額は示されていない。年収に応じて補助額が決まる設計であることから、紹介される仕事は相応の水準に寄ると読める。地域の副業全般の金額感については地方副業の謝礼は平均3.4万円のほうが実態に近い。

金融機関が自前で紹介までやるのですか。事業の図では、地域金融機関等が必要に応じて人材紹介事業者等と連携し、対価を払う流れが示されている。連携を前提に設計された枠なので、窓口が金融機関でも実務は紹介事業者が担う場合がある。地域の金融機関が融資以外で地域の経営に関わる動きは、信用金庫で創業資金を借りるで扱った創業支援とも地続きである。FLASPOに寄せられる相談でも、地域の金融機関を入口にした話は増えている。

出典:内閣官房地域未来戦略本部事務局・内閣府地方創生推進事務局「先導的人材マッチング事業の概要について」令和8年6月(PDF)、事業ページは内閣府。厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」令和4年7月8日改定版(PDF)、関連ページは副業・兼業。


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