「SNS担当」という肩書きは制度のどこにもない
町のインスタグラムを更新している人、観光協会のかわりに動画を撮っている人。そういう隊員の話は各地で聞くのに、総務省の統計を開いても該当する欄が見つからない。令和6年度の地域おこし協力隊は7,910人、取組自治体は1,176団体という数字は公表されているが、何人がSNSを担当しているかという集計は存在しない。
制度の説明文にあるのは「地域ブランドや地場産品の開発・販売・PR等」という言い方である。PRという語に発信の仕事が含まれているが、SNSという媒体名で切り出した分類はない。総務省が自治体向けの資料で使っている活動分野の区分でも、該当するのは【情報発信】という大きめの箱になる。
つまり自治体がSNS運用を任せたい場合、募集要項のミッション欄に書くことはできても、国の集計では情報発信や観光の一部として数えられる。応募する側がこの構造を知らないまま「SNS担当の協力隊は何人か」を調べると、答えのない問いを追いかけることになる。
国の示す受入れ事例では、8人のうち3人が発信側
手がかりは総務省が自治体向けに配っている受入れ事例にある。人口3万人程度のA市は隊員5名を会計年度任用職員として任用し、その1人目の活動を「市場の魅力向上、特産品の情報発信」として【観光・情報発信】に分類している。
人口20万人程度のB市は8名の体制で、伝統工芸をいかした町おこしと魅力発信、特産品のプロモーション、まちの魅力発信とプロモーションの3件が【情報発信】に入っている。8人のうち3人が発信に関わる配置である。人口5万人程度のC町は21名を業務委託で受け入れているが、こちらで【観光・情報発信】に分類されたのは地域観光資源のプロモーションの1件だけで、残りは農業や集落の機能維持に向いている。
同じ制度でも、都市部に近く産品を売りたい自治体は発信の枠を厚くし、集落の維持が課題の自治体は現場の手を増やす。発信の仕事がどれだけあるかは、国の方針ではなく受入自治体の事情で決まっている。募集を探すときに人口規模と任用形態を見ておくと、発信中心の枠かどうかの見当がつく。
発信を任されても、お金の出方は他の隊員と同じ
待遇の話に移ると、媒体による差はない。令和7年度の特別交付税措置では、隊員1人あたりの活動に要する経費が上限550万円で、うち報償費等が350万円、その他活動経費が200万円という内訳になっている。撮影機材や編集ソフトの費用は、この200万円の側から出す設計である。
自治体の側にも枠がある。募集等に要する経費は1団体350万円まで、隊員の日々のサポートに要する経費は1団体200万円まで。任期2年目から任期終了の翌年までに起業する隊員には、1人100万円を上限とする起業の経費が用意されている。活動期間はおおむね1年以上3年以下で、ここも発信担当だから延びるということはない。
注意したいのは、報償費の350万円が上限であって支給額ではない点だ。実際の金額は自治体が決めるので、同じSNS運用の仕事でも町によって差が出る。任期の区切りと期間の特例を踏まえると、3年で何を作り切るかを最初に決めておく必要がある。
行政のアカウントには運用ポリシーという枷がある
個人の発信と役所の発信は、同じ画面に見えて作法が違う。総務省は令和5年5月16日付で自前のSNS運用ポリシーを定めており、地域力創造グループ地域自立応援課がフェイスブック、ユーチューブ、インスタグラムの3つを運用すると明記している。
そのポリシーには、アカウントは専ら情報発信を行うものとし、コメントなどへの返信は行わないと書かれている。意見や問い合わせは総務省ホームページの受付窓口へ回す建て付けだ。フォローやシェアの相手も、国や地方公共団体、公共性の高い機関、災害時に有用性が高いと思われるアカウントに限る方針が示されている。
国が自分のアカウントにこれだけの制約を置いているのだから、自治体のアカウントも似た運用規程を持っている。コメント欄で住民とやりとりして関係を作る、という進め方は役所のアカウントでは取りにくい。隊員がSNSを任されるときは、どこまでが自分の裁量でどこからが決裁事項なのかを、着任前に確かめておきたいところである。
発信に近い仕事で独立した隊員は297人いる
任期の後に何が残るのかは、総務省が令和8年4月24日に公表した定住状況の調査から読める。令和2年度から令和6年度までに任期を終えた隊員は8,762人で、そのうち70.3%にあたる6,163人が同じ地域に定住した。活動地と同じ市町村内に残った5,038人を見ると、45.6%の2,296人が起業している。
起業の分野別の内訳に、発信の経験が生きた形が出てくる。美術家、デザイナー、写真家、映像撮影者が217人、出版・広告業が80人。資料ではこの出版・広告業の例としてライターや広報作成が挙げられている。作り手と書き手を合わせると297人で、飲食サービス業の308人に迫る規模である。
| 任期後に起業した分野 | 人数 |
|---|---|
| 飲食サービス業(古民家カフェ、農家レストラン等) | 308人 |
| 美術家(工芸含む)、デザイナー、写真家、映像撮影者 | 217人 |
| 宿泊業(ゲストハウス、農家民泊等) | 181人 |
| 小売業(パン屋、移動販売、農作物の通信販売等) | 174人 |
| 観光業(ツアー案内、日本文化体験等) | 130人 |
| 6次産業(猪や鹿の食肉加工・販売等) | 101人 |
| 出版・広告業(ライター、広報作成等) | 80人 |
| まちづくり支援業(集落支援、地域ブランドづくりの支援等) | 80人 |
就業の側にも近い職種がある。地域づくり・まちづくり支援業に99人、教育業に78人が進んでいる。最も多いのは自治体職員や集落支援員を含む行政関係の480人で、発信の担当がそのまま役所の広報に入る道もあることになる。卒業後の進路の全体像と重ねると、発信の技能は任期後に食える形へ変えやすい部類だと言える。
地域と関わる仕事の選び方を考えている人には、この任期後の分布が判断材料になる。FLASPOでも地域の仕事を扱っているが、3年で何を身につけるかを逆算して応募先を選ぶほうが、肩書きの格好よさで選ぶより確実である。
よくある質問
募集を探している人から届く質問のうち、資料で答えられるものをまとめた。
SNS運用だけを担当する枠はあるのかという問いには、自治体によってはあると答えられる。ただし国の分類では情報発信や観光の一部として扱われるため、募集サイトでSNSという語を検索しても取りこぼしが出る。魅力発信、プロモーション、広報、関係人口といった語でも探しておくと見つかりやすい。
フォロワー数が成果として評価されるのかという点は、自治体の設定次第である。総務省の資料に評価指標の統一ルールはなく、任用形態も会計年度任用職員と業務委託に分かれている。委託の場合は仕様書に成果物が書かれるので、着任前に数値目標の有無を確認しておきたい。
未経験でも応募できるのかという質問も多い。制度上の資格要件は住民票の異動と居住地の条件で、発信の実務経験を求める規定はない。採用のハードルは自治体ごとの選考基準に委ねられており、過去の投稿やポートフォリオの提示を求める募集もある。
任期中に自分名義のアカウントを育ててよいかは、確認が必要な領域である。役所のアカウントは運用規程に縛られる一方、個人の発信は副業や兼業の扱いと結びつく。任用形態によって副業の可否が変わるため、募集要項と担当課への問い合わせで詰めることになる。
出典
活動分野の区分と受入れ事例、財政措置の金額は総務省「地域おこし協力隊について」、任期終了後の定住と生業の内訳は総務省「地域おこし協力隊の定住状況等に係る調査結果」、運用ポリシーの記述は総務省「地域おこし協力隊SNS運用ポリシー」から取った。隊員数は総務省「令和6年度 地域おこし協力隊の隊員数等について」による。
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