同じ看板で、中身がそろわない
大学のサイトで「地域共創」と名のついたページを三つ開くと、書いてあることが重ならない。一つ目は億単位の研究費の話、二つ目は県や市と結んだ協定の報告、三つ目は一年生から履修できる科目の案内である。看板が同じでも、お金の出どころと、関われる人の範囲が違う。
この言葉が国の文書に出てくるときは、たいてい研究の枠組みを指している。一方で学部や学科の名前として使われるときは、授業の枠組みを指している。両方を同じものだと思って窓口を探すと、研究費の公募要領に学生の応募方法が書かれていないことに戸惑うことになる。
そこで、国の予算書・国の通知・大学の教育課程という三つの層に分けて、どの層にどんな数字が置かれているかを確かめていく。層が分かれば、自分が入れる扉はどれかも決まる。
予算書に載っている「地域共創」は研究拠点の名前である
科学技術振興機構が運営する「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」には、分野の区分として共創分野・政策重点分野・地域共創分野が置かれている。文部科学省の令和7年度予算の資料は、このうち地域共創分野を「地域大学等を中心とし、地方自治体、企業等とのパートナーシップによる、地域の社会課題解決や地域経済の発展を目的とした拠点」と定義している。事業全体の予算額は案の段階で134億円、前年度も同額である。
同じ資料には支援の形が二段で書かれている。入口にあたる育成型は支援期間が2年度程度で、支援件数は6拠点程度。ただし注記は「新規採択なし」で、地域共創分野の継続のみが対象とされている。その先の本格型は支援規模が年あたり4億円程度まで、支援期間は最長10年度、支援件数は35拠点程度で、こちらも育成型からの昇格のみである。
新しく枠が開いたのは別の名前のほうだった。令和7年度に新設された未来共創分野は、支援規模が年あたり37百万円程度、支援期間は2年度で令和8年度末まで、支援件数は3拠点程度とされている。独創的で挑戦的な若手研究者が拠点の責任者になる想定で、二十代から四十代前半という年齢の幅まで書き込まれている。
この事業がどこから降りてきたのかも、同じ資料に書かれている。令和6年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」は、地域の中核・特色ある研究大学の機能強化を着実に進めるとしている。令和6年6月4日の「統合イノベーション戦略2024」は、大学等を中核としたイノベーション創出と、地域のニーズに応えて社会変革を行う人材育成に資する共創の場の形成を推進するとした。拠点の数や金額は、この二つの決定の下にぶら下がっている。
大学と自治体が話す「場」をつくる通知もある
研究費とは別に、話し合いの体制そのものを整えようという文書がある。文部科学省の「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン」は令和2年10月30日に通知された。もとをたどると平成30年11月の中央教育審議会の答申で、複数の大学等と地方公共団体、産業界等が恒常的に対話し連携するための体制として提言されたものである。
この通知の宛先を見ると、どれだけの関係者を同じ机に座らせようとしているかがわかる。都道府県知事、指定都市と中核市の市長、全国知事会と全国市長会、経済同友会、日本経済団体連合会、日本商工会議所、日本労働組合総連合会、そして国公私立の大学長・短期大学長・高等専門学校長が並んでいる。文部科学省はこれにあわせて大学等連携推進法人の制度も用意した。
ここで注意したいのは、この層に学生の応募窓口は想定されていないことである。地域の高等教育の設計を話し合う場であって、参加者を公募する事業ではない。ただし、ここで決まった方向がやがて授業の形になって降りてくるため、自分の大学が加わっているかどうかは知っておく価値がある。
三つの層を並べて見る
| 層 | 代表的な枠組み | お金と期間 | 学生の入り方 |
|---|---|---|---|
| 研究拠点 | COI-NEXT 地域共創分野 | 本格型は年4億円程度まで・最長10年度 | 研究室に所属して参加 |
| 研究拠点(新設枠) | COI-NEXT 未来共創分野 | 年37百万円程度・2年度 | 若手研究者が主体、学生は研究室経由 |
| 連携体制 | 地域連携プラットフォーム | 予算事業ではなく通知 | 直接の公募はない |
| 教育課程 | 学部・学科や科目としての地域共創 | 授業料の範囲 | 履修登録で入れる |
表にすると、入りやすさと規模がきれいに反対を向いていることが見える。金額が大きい層ほど学生が直接触れる余地は小さく、履修で入れる層にはまとまった研究費がついていない。どちらが得かではなく、自分が今年なにを残したいかで選ぶ話になる。
窓口を探すときに先に確かめる三点
研究拠点の枠に関わりたいなら、まず自分の大学が拠点を持っているかを拠点名で検索する。持っていれば、担当する研究室の指導教員に、学部生が入れる研究テーマがあるかを聞くのが最短である。公募が「昇格のみ」「新規採択なし」と書かれている年度は、新しい拠点が増えないので、既にある拠点を探すほうが早い。
教育課程の枠なら、科目名ではなくシラバスの到達目標を読む。地域に出る回数、単位数、現地での宿泊の有無まで書かれているものは、運営が固まっている科目である。逆に、地域名が出てこないシラバスは教室で完結する可能性が高い。
そして、大学の外にも入口はある。自治体や企業が学生から企画を募る場は大学の枠組みとは別に動いていて、FLASPOのように学生と地域をつなぐ事業者が間に入る形もある。大学の制度が合わなかったときの逃げ道として持っておくと、一年を無駄にしにくい。関連して、地方創生で大学と組む事業の仕組みや自治体と大学の共同研究の件数も、同じ地図の別の面として読める。
三点目は、その枠組みが続く年数である。拠点の支援期間が最長10年度と書かれていれば、三年生で関わっても卒業後まで動きが残る。逆に2年度で終わる枠は、入った翌年に形が変わることを前提に考えたほうがよい。募集要領の「支援期間」という欄は、自分の在学期間と重ねて読む数字である。
よくある質問
地域共創分野の拠点に学部生でも入れますか。拠点は大学等を中核とする研究の枠組みなので、募集の単位は学生ではなく研究機関である。参加する道は、拠点に加わっている研究室で卒業研究のテーマを取るか、拠点が開くシンポジウムや公開イベントに出るかのどちらかになる。
育成型が「新規採択なし」なら、もう新しい拠点はできないのでしょうか。令和7年度の予算資料ではその年度の新規採択がないという記載であって、制度が終わったという意味ではない。ただし未来共創分野のように名前と条件を変えた枠が新設されているため、年度ごとに最新の資料を見直す必要がある。
「地域共創」と「地域連携」はどう違いますか。国の文書では、連携は主体どうしが手を組むことを指し、共創は新しい価値を一緒につくり出すところまで含めて使われている。ただ大学ごとの用語の使い方はそろっていないので、言葉で区別せず、お金の出どころと期間で読むほうが確実である。
関係人口の入口として考えるのはどうでしょうか。大学が関係人口の入口になるかという問いは、この三層のどこに乗るかで答えが変わる。履修で入る科目は訪問の回数が決まっているため見通しが立ちやすく、研究拠点は在学中に関わりが終わらない代わりに、入るまでの手数が多い。
地元の大学に拠点がない場合はどうすればよいですか。拠点を持つ大学の公開行事は学外にも開かれていることが多く、まずは聞き手として出てみるのが現実的である。それと並行して、自治体が単独で出している連携事業や、企業が学生に向けて開く企画に手を挙げるほうが、在学中に残る成果は早く手に入る。
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