メンタルとストレス|7割が感じ、点数に出るのは1割という差

メンタルとストレス|7割が感じ、点数に出るのは1割という差

7割という数字と、1割という数字が同時に存在している

ストレスを抱えている人はどれくらいいるのか、と聞かれたときに出てくる数字は、聞き方によって桁がひとつ違う。厚生労働省の令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の個人調査では、現在の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は68.3%だった。およそ7割である。

一方、2025年国民生活基礎調査の統計表では、過去1か月間のこころの状態を6つの質問で点数化したとき、20歳以上で10点以上だった人は10.3%にとどまる。内訳は10〜14点が7.2%、15点以上が3.1%である。0〜4点が72.6%を占める。

この2つは矛盾していない。前者は仕事の場面で負荷を感じる事柄があるかを本人に尋ねたもので、後者は気分や神経の状態を尺度で測ったものである。対象も、前者が働いている人、後者が12歳以上の国民という違いがある。ストレスを感じている状態と、心の状態が点数として崩れている状態は、別の階層にある。混ぜて語ると、7割が不調という話にも、1割しかいないという話にもなってしまう。

順番としては、負荷の側から見るのが先になる。仕事の場で負荷を感じる事柄がある人が7割いて、そのうち心の状態として点数に表れる人が一部にいる、という重なり方である。どこで片方から片方へ移るのかを示す統計は国の公表物にはないが、両方を並べて見ておけば、対策をどの層に当てる話なのかは分けて考えられる。

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8割から7割に下がったのは、楽になったからではない

令和6年の68.3%には、もうひとつ注意がいる。令和5年の同じ調査では82.7%だった。1年で14ポイントも下がったように見えるが、改善の記録ではない。

調査の概要の「調査結果利用上の注意」には、この設問が趣旨明確化の観点から令和5年から形式変更されたため、数値の比較には留意が必要だと明記されている。変更点は2つで、設問文のなかの「強い」を太字下線にして「強いストレス」という表記に改め、該当するものがない場合は該当なしの選択肢を選ぶよう文言を追記したこと。もうひとつは、選択肢そのものを「強いストレスを感じる事柄がある・ない」という表現に変えたことである。

つまり、拾う範囲が「ストレス」から「強いストレス」に絞られた。数字が動いた原因は回答者の状態ではなく設問の側にある。経年の折れ線グラフを作って下降トレンドだと説明すると、事実と逆のことを言ってしまう。調査票の変更は注記の奥に置かれがちなので、年をまたいで比較するときは必ず利用上の注意まで開くことになる。メンタルヘルスの基本で扱った制度の数字も、同じ作法で読む必要がある。

年齢で割ると、別々の調査の山が同じ場所に来る

性質の違う2つの統計を、同じ年齢階級で並べてみると形が見えてくる。労働安全衛生調査で強いストレスを感じる事柄があると答えた割合は、30歳代が73.3%、40歳代が73.0%で山になり、20歳未満は28.7%、60歳以上は53.2%まで落ちる。国民生活基礎調査のこころの状態でも、10点以上の割合は30歳代が最も厚い。

年齢 強いストレスを感じる事柄がある(労働者) こころの状態が10点以上(12歳以上)
10歳代 28.7%(20歳未満) 7.3%(12〜19歳)
20歳代 64.9% 14.0%
30歳代 73.3% 16.2%
40歳代 73.0% 13.1%
50歳代 69.4% 11.2%
60歳代以上 53.2%(60歳以上) 6.3%(60〜69歳)

左右の列は調査も対象も違うため、同じ母集団の比率として足したり引いたりはできない。右の列は2025年国民生活基礎調査の健康の状況に載る点数階級から、10〜14点と15点以上を合算したものである。それでも、2つの山が30歳代で重なっていることは読み取れる。負荷が最も集まる年齢と、心の状態が点数に出やすい年齢が、別の調査で同じ場所を指している。

若い側の読み方には注意がいる。12〜19歳は0〜4点が80.7%で全年齢のなかで最も良い分布だが、労働者としての20歳未満は28.7%しか強いストレスを挙げていない。学校にいる人と働いている人が混ざった層なので、低い数字を「若いから平気」と解釈すると外れる。人間関係とメンタルの側で見た分布も、年齢で山が動くという同じ形をしていた。

中身の1位は人でも将来でもなく、量である

強いストレスを感じる事柄があると答えた人に、その内容を主なもの3つ以内で挙げてもらった結果は、仕事の量が43.2%で最も多い。次が仕事の失敗、責任の発生等の36.2%、仕事の質が26.4%、対人関係が26.1%、役割・地位の変化等が19.8%と続く。

令和5年の並びと比べると、順位の入れ替わりがある。仕事の量は39.4%から上がり、仕事の失敗、責任の発生等は39.7%から下がって2位になった。対人関係は29.6%から26.1%へ、役割・地位の変化等は15.8%から19.8%へ動いている。設問形式が変わっているので幅そのものの比較には慎重さが要るが、絞った聞き方をしても量が首位に残った点は見ておきたい。

量が1位だということは、対処の入口が配分にあるということでもある。相性や性格の問題として扱われやすい領域だが、最も多く挙げられている事柄は分量である。人間関係とストレスの側から見た内訳と合わせて読むと、人の問題として現れるものの一部が、実は量の問題として先に存在していることが見えてくる。

同じ職場でも、立場と性別で出口が変わる

就業形態で割ると差が大きい。強いストレスを感じる事柄がある割合は、正社員が74.6%、契約社員が73.0%、派遣労働者が54.1%、パートタイム労働者が43.5%である。30ポイント以上の開きがある。責任の量と労働時間の長さが、そのまま数字の高低に出ている形に見える。

性別では男性69.8%、女性66.6%で、差は3ポイント程度にとどまる。ところが、こころの状態の点数では向きが変わる。2025年の統計表では、30歳代で10点以上に入るのは男性が15.2%、女性が17.4%だった。負荷を感じていると答える割合では男性が上なのに、点数として出てくる割合では女性が上になる。

この食い違いは、どちらかの数字が間違っているという話ではない。自己申告で負荷を認めるかどうかと、尺度に反応が出るかどうかは、別の行動である。職場の対策を考えるときは、手が挙がった人数だけを根拠にすると取りこぼしが生じる。地域活動の場でも同じで、言葉にして出せる人と出せない人の比率が違う前提で窓口を用意しておくほうが実際的である。地域の居場所づくりを進めるFLASPOのような取組でも、この差は設計の前提になる。

よくある質問

この調査は誰を対象にしているのか。令和6年労働安全衛生調査(実態調査)の個人調査は、常用労働者10人以上を雇用する民営事業所から産業と規模で層化して約14,000事業所を抽出し、そこで雇用されている常用労働者と受け入れた派遣労働者のうちから無作為に抽出する形で行われている。10人未満の事業所で働く人は入っていない。

こころの状態の点数は何を測っているのか。過去1か月間について6つの質問に答え、それぞれ0点から4点の5段階で点数化して合計する方式である。合計は0点から24点の範囲に収まる。2025年の調査では総数で0〜4点が71.1%、5〜9点が16.2%、10〜14点が6.9%、15点以上が2.9%、不詳が2.9%だった。

10点以上だと受診が必要なのか。この点数は診断ではなく、集団の状態を把握するための尺度である。個人の判断材料としては、点数そのものより生活に支障が出ているかどうかが先に来る。眠れているか、食べられているか、仕事や学校に行けているかという具体的な項目を見るほうが判断しやすい。

年をまたいだ比較をしたいときはどうすればよいか。労働安全衛生調査については、令和5年と令和6年のストレスの有無の数値をそのまま並べないことが第一である。年齢階級別や就業形態別の順位、内容の構成比の並び方といった、設問変更の影響を受けにくい部分を見ると傾向をつかみやすい。国民生活基礎調査のこころの状態は3年ごとの大規模調査で測られているため、比較の間隔自体が長いことも前提になる。


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