「この年齢でも登記は通るのか」で止まってしまう
在学中に会社を持とうとする人が最初につまずくのは、事業の中身ではなく手続きの入口である。この年齢で登記が受け付けられるのか、親の承諾書を用意しなければならないのか、そこが見えないまま計画づくりの手が止まる。
答えは二層になっている。会社をつくること自体に年齢の下限はない。ただし年齢によって、踏まなければならない手続きの数が変わる。境目に置かれているのは18歳で、2022年4月1日を境にその意味が大きく動いた。
調べて出てくる説明は「未成年でも起業できます」で終わっているものが多い。できるかどうかだけでなく、誰の同意が要るのか、どの登記が増えるのか、その手間はいつ消えるのかまで押さえておくと、入口で費やす時間が短くなる。
以下では、法令のどこに年齢が書かれていてどこには書かれていないのかを条文で確かめ、そのうえで実際に開業している人の年齢分布のなかで学生がどの位置にいるのかを見ていく。年齢を理由に諦める場面なのか、手続きを一つ足せば済む場面なのかは、ここで分かれる。
会社法の資格要件に、年齢という言葉は出てこない
株式会社の取締役になれない人は、会社法第331条に列挙されている。条文を開くと挙がっているのは、法人であること、会社法や金融商品取引法などの規定に違反して刑に処せられ執行の終了から2年を経過していないこと、それ以外の法令に違反して拘禁刑以上の刑に処せられ執行が終わっていないことである。
この列挙に年齢は含まれていない。何歳以上でなければ取締役になれないという条文は、どこにも置かれていない。設立の場面でも、発起人の資格を年齢で絞る規定は会社法にない。合同会社の業務執行社員についても同じで、下限は定められていない。
つまり「高校生だから法人は無理」という話は、法令上の禁止ではなく実務上の手間を指している。手間は確かに増えるが、入口が閉じているわけではない。登記の場面で年齢が顔を出すのは資格要件としてではなく、次に見る同意の確認としてである。
条文を自分で確かめたい場合は、e-Gov法令検索の会社法で第331条を開けばよい。欠格事由の列挙は短く、読み通すのに数分もかからない。人から聞いた話ではなく原文で確認しておくと、取引先や金融機関に説明するときの足場になる。
2022年4月1日に動いた18歳という線
民法が定める成年年齢は、1896年に民法が制定されて以来20歳とされてきた。これを18歳に引き下げる改正法が2018年6月13日に成立し、2022年4月1日から施行された。法務省はこの見直しを、1876年の太政官布告以来およそ140年ぶりの変更だと説明している。
成年年齢には二つの意味がある。単独で契約を締結することができる年齢であり、親権に服することがなくなる年齢でもある。18歳で成年に達するとは、事務所の賃貸借契約も、法人口座の開設に伴う本人確認も、自分の判断だけで完結できるようになることを指す。
大学1年生の多くが18歳か19歳である以上、この改正は在学中の起業の実務をそのまま書き換えた。2022年3月までは1年生のほぼ全員が未成年者で、法定代理人の同意を欠いた契約は取り消せる状態に置かれていた。いまは入学時点で成年に達している人が多数になっている。
同じ改正では、女性の婚姻開始年齢が16歳から18歳に引き上げられ、男女で統一された。年齢要件を定める他の法令についても、必要に応じて18歳に引き下げる改正が行われている。経緯と資料は法務省「民法の一部を改正する法律(成年年齢関係)について」にまとめられている。
18歳に届いていないと、手続きが二段増える
高校在学中など18歳未満で事業を始める場合は、二つの条文が関わってくる。民法第5条は、未成年者が法律行為をするには法定代理人の同意を得なければならないと定めている。同意を欠いた行為は取り消すことができるため、取引の相手から見ると契約が安定しない。
これを一括で片づける仕組みが、民法第6条の「営業の許可」である。一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては成年者と同一の行為能力を有する。契約ごとに同意をもらうのではなく、許された営業の範囲でまとめて成年と同じ扱いになる。
許可を受けたら、商法第5条により未成年者登記をしなければならない。登記すべき事項は商業登記法第35条に定められていて、未成年者の氏名・出生の年月日・住所、営業の種類、営業所の三つである。申請は本人が行い、申請書には法定代理人の許可を得たことを証する書面を添付する。ただし申請書に法定代理人の記名押印があるときは添付が省ける。
| 年齢と許可の状況 | 契約の扱い | 追加で必要になること |
|---|---|---|
| 18歳以上 | 単独で契約を締結できる | 年齢を理由とする手続きはない |
| 18歳未満・営業の許可なし | 法定代理人の同意が個別に必要で、欠けると取り消しうる | 取引ごとの同意(民法第5条) |
| 18歳未満・営業の許可あり | 許された営業の範囲では成年と同一の行為能力 | 未成年者登記(商法第5条、商業登記法第35条) |
| 登記後に成年に達した | 成年としての扱いに移る | 消滅の登記は登記官が職権でできる |
表の最後の行が見落とされやすい。未成年者登記は一度入れたら残り続けるものではなく、本人が成年に達したことによる消滅の登記は登記官の職権で処理できると商業登記法第36条が定めている。手続きの重さは一時的なものだと分かれば、18歳の誕生日まで待つか先に動くかの判断もしやすくなる。条文は民法と商法で確かめられる。
開業する人の年齢分布のなかで、学生はどこにいるか
手続きの話を離れて、実際に事業を始めている人の年齢を見ておく。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業時の年齢は40歳代が36.9%で最も高く、30歳代が28.0%で続いた。29歳以下は7.0%、60歳以上は6.4%で、ほかの層より低い。
| 開業時の年齢 | 2025年度調査の割合 |
|---|---|
| 29歳以下 | 7.0% |
| 30歳代 | 28.0% |
| 40歳代 | 36.9% |
| 50歳代 | 21.8% |
| 60歳以上 | 6.4% |
平均年齢は43.9歳で、調査開始以来もっとも高くなった。1991年度の調査では29歳以下が14.5%を占めていたので、若年層の比率は30年あまりで半分近くまで下がっている。学生のうちに事業を始めるのは、分布の端に位置する選択だということになる。数字は同調査の結果概要に載っている。
端にいることは不利と同義ではない。同年代に同じことをしている人が少ないため、取り組み自体が覚えられやすく、大学や自治体が用意している若年向けの支援枠とも噛み合う。他方で、取引先が想定している経営者像から外れるため、信用の説明に時間を取られる場面は確実に増える。
年齢の若さが効く場面と効かない場面を切り分けておくと、相談先の選び方も変わる。実績の積み上げで評価する枠ではなく、将来性や計画で見てもらえる枠を先に探すことになる。在学中だから得られる強みの整理は学生起業のメリットを扱った記事に、資金や学業との両立で生じる負荷はデメリットを扱った記事にまとめている。学生の挑戦を地域の仕事とつなぐ取り組みはFLASPOでも進めている。
よくある質問
高校生でも株式会社をつくれますか
会社法に年齢の下限はないため、制度としては可能である。ただし18歳未満であれば民法第5条の同意か民法第6条の営業の許可が必要になり、許可を受けた場合は未成年者登記が加わる。印鑑登録の年齢要件は自治体の条例で定められているので、居住する市区町村の窓口で先に確認しておくと手戻りがない。
18歳になったら未成年者登記はどうなりますか
本人が成年に達したことによる消滅の登記は、商業登記法第36条により登記官が職権で行える。自分で申請を出し直す前提で予定を組む必要はない。もっとも、登記簿の記載がいつ変わったかは取引先への説明に関わるので、登記事項証明書を取って状態を確かめておくほうが安全である。
在学中に起業する人は何年生が多いのですか
学年別の内訳を示した公的な統計は見つからない。経済産業省の大学発ベンチャー実態等調査は学生ベンチャーを類型の一つとして数えているが、集計の単位は企業であって学年ではない。学年ごとの傾向を語る数字を見かけたときは、出どころが調査なのか個別の体験談なのかを確かめたほうがよい。
法定代理人の同意は書面でないといけませんか
未成年者登記の申請では、法定代理人の許可を得たことを証する書面の添付が商業登記法第37条で求められる。ただし申請書そのものに法定代理人の記名押印があるときは添付が不要になる。未成年後見人が許可した場合は、未成年後見監督人の有無に応じた書面がさらに必要になるため、事前に法務局へ確認するのが早い。
年齢が若いと融資は受けにくいのですか
年齢だけで判断されるという公的なデータは確認できなかった。はっきりしているのは、開業者の平均年齢が43.9歳という分布のなかで学生が少数派だという事実である。前例が少ない相手に説明する前提で、計画書と自己資金の根拠を厚くしておくほうが現実的な備えになる。
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