学生起業の事例はどこに集まっているのか|大学別と分野別の分布

学生起業の事例はどこに集まっているのか|大学別と分野別の分布

有名な10社を並べた一覧では、自分の参考にならない

学生起業の事例を探すと、だいたい同じ顔ぶれの会社が並ぶ。どれも立派な会社だが、すでに上場しているか大型の資金調達を終えている段階の話で、いまゼミの友人と登記を考えている人が明日動くための材料にはなりにくい。

事例の役割は二つある。ひとつは目標として憧れを持つこと、もうひとつは自分と条件が近い先例を見つけて手順を借りることである。後者を満たすには、有名企業の列挙ではなく、どの大学にどれだけ集まっていて、どんな分野が選ばれているのかという分布が要る。

分布を毎年数えている調査がある。経済産業省の大学発ベンチャー実態等調査で、学生が関わる企業は独立した類型として集計されている。大学名まで出た一覧も公表されているため、自分の在籍校や近隣校の実数を確かめられる。

以下では、調査が学生ベンチャーをどう定義して数えているかを確かめ、大学別の分布と分野別の内訳を見たうえで、個別の事例を自分で掘り当てる手順をたどる。並べられた成功談を読むのではなく、自分で名簿を引く側に回るための道筋である。

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調査は「学生ベンチャー」を類型のひとつとして数えている

この調査は、六つの条件のうち一つ以上に当てはまる企業を大学発ベンチャーと定義している。研究成果ベンチャー、共同研究ベンチャー、技術移転ベンチャー、学生ベンチャー、教職員等ベンチャー、関連ベンチャーの六つである。

学生ベンチャーの定義は「大学と深い関連のある学生ベンチャー」で、現役の学生が関係する、または関係したもののみが対象とされている。卒業後1年以内の設立などは関連ベンチャーに振り分けられるため、在学中という条件がはっきり効いている類型だといえる。

2025年度調査では、定義別の割合は研究成果ベンチャーが39%で最も多く、学生ベンチャーが28%で続いた。2023年度に追加された教職員等ベンチャーは8%である。2023年度から複数回答で集計されているので、合計は100%にならない。

割合として28%というのは小さくない。大学と関わりのあるベンチャーを4社集めれば、1社は学生が関わった会社だという勘定になる。探す側からすると、事例は希少なものではなく、見つけ方を知らないだけという状態に近い。

学生ベンチャーが多い大学は、総数の順位と並びが違う

大学発ベンチャーの総数では東京大学が595社で首位に立ち、京都大学503社、慶應義塾大学473社が続く。ところが学生ベンチャーだけを抜き出すと、順位は入れ替わる。首位は慶應義塾大学の205社で、東京大学は196社で2位になる。

順位 大学名 学生ベンチャー数(2025年度)
1 慶應義塾大学 205
2 東京大学 196
3 近畿大学 110
4 京都大学 107
5 早稲田大学 88
5 デジタルハリウッド大学 88
7 立命館大学 86
8 筑波大学 73
9 情報経営イノベーション専門職大学 61
10 東京理科大学 43

注目したいのは5位と9位である。デジタルハリウッド大学が88社、情報経営イノベーション専門職大学が61社と、総数の上位10校には顔を出さない規模の大学が学生ベンチャーでは上位に並ぶ。研究室発の技術シーズを持たない大学でも、学生の起業は積み上がるということである。

近畿大学が110社で3位に入っている点も、首都圏だけの現象ではないことを示している。自分の在籍校がこの表にあれば、学内に先例が二桁から三桁あるという前提で相談先を探せる。表にない大学でも報告書には下位まで一覧が載っているので、自校の数字は確かめられる。

選ばれている分野と、売り方の偏り

次に、どんな事業が営まれているのかを見る。回答企業527社について主力製品やサービスの関連技術分野を集計すると、バイオ・ヘルスケアが25%で最も多く、その他を除くとソフトウェア・アプリが12%、AI・IoTが10%で続く。

主力製品・サービスの関連技術分野 割合(n=527)
バイオ・ヘルスケア 25%
その他 23%
ソフトウェア・アプリ 12%
AI・IoT 10%
環境・エネルギー 9%
医療機器 6%
素材 6%
エレクトロニクス 5%
ロボティクス 2%
航空宇宙 2%

この集計は大学発ベンチャー全体のものなので、バイオ・ヘルスケアの厚みには研究成果ベンチャーが大きく寄与していると読むのが妥当である。学生が関わる企業を探すなら、ソフトウェア・アプリとAI・IoTを合わせた2割強のあたりが、設備投資の軽さという意味でも近い。

売り方にも偏りがある。供給形態ではサービスやコンサルティング(受託研究開発を含む)が41%で最も多く、企業向けの最終財が39%、一般消費者向けの最終財は12%にとどまる。学生起業の話題では消費者向けアプリが目立つが、母集団としては企業を相手にする事業のほうが多い。

事例を参考にするときは、技術分野と売り先の両方を自分の構想と突き合わせたい。同じ「AIを使った会社」でも、企業に受託で納めるのか消費者に直接届けるのかで、必要な資金も人の集め方も変わる。基礎的な進め方は学生起業の全体像をまとめた記事が参考になる。

事例を自分で掘り当てる四つの入口

第一の入口は報告書そのものである。大学等別の一覧は定義別に分かれて掲載されているため、自校の学生ベンチャー数と、近隣校の数を同じ尺度で比べられる。数が多い大学は支援の窓口も整っていることが多く、見学や相談の申し込み先を探す手がかりになる。

第二は地域である。地域別では関東地方が3,260社、近畿地方が1,221社、北海道・東北が520社、中部が391社となっている。増減率では近畿が対前年度比128.7%、中部が128.6%と高い。地元の大学や自治体が近年どれだけ力を入れているかは、この伸びに表れる。

第三は大学の公表資料である。調査の数字は各大学からの回答に基づいているので、同じ企業が大学の広報ページや産学連携部門の一覧に実名で載っていることが多い。数字で当たりをつけてから大学のサイトで名前を拾うと、連絡の取れる先例に行き着きやすい。

第四は人に会うことである。ピッチイベントやビジネスコンテストの登壇者一覧は、現在進行形の事例が集まる場所になる。話し方や資料の作り方まで見られる点が、記事を読むのとは違う。学生の挑戦と地域の仕事をつなぐ場づくりはFLASPOでも手がけている。数字の全体像は学生起業の現状を整理した記事と合わせて読むと見通しがよくなる。

よくある質問

学生ベンチャーの実数は何社ですか

調査は社数ではなく割合で公表している。2025年度調査では大学発ベンチャー6,220社に対して学生ベンチャーが28%である。複数回答で集計されているため、単純に掛け算した数を実数として扱うのは適切でない。大学別の実数を知りたい場合は、定義別の一覧に載っている社数を見るのが正確である。

どこで報告書を読めますか

経済産業省のサイトで、調査結果の報告書が公開されている。大学等別の一覧も分野別の集計も、令和7年度の調査結果報告書に図表のまま載っている。ページ数はあるが、大学別の表と定義別の割合だけ見るなら数分で済む。

自分の大学が一覧に載っていない場合は

載っていないのは、調査の定義に当てはまる企業が確認されなかったか、回答が得られなかったことを意味する。学内に先例がないと決まったわけではない。キャリアセンターや産学連携の窓口に直接尋ねると、調査には上がっていない個別の事例が出てくることがある。

有名企業の創業エピソードは参考になりますか

目標設定の材料としては有効だが、手順の参考にするには時期が離れすぎていることが多い。創業当時と現在では、資金調達の環境も大学側の支援体制も違う。同じ大学の直近数年の事例を一件見つけるほうが、使える情報は多く得られる。

分野は流行を追ったほうがいいのですか

分布は結果であって推奨ではない。バイオ・ヘルスケアが25%を占めるのは研究成果の事業化が多いからで、同じ構えを学生が真似できるとは限らない。自分が手を動かせる領域を選んだうえで、その分野にどれだけ先例があるかを確かめる順序が現実的である。


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