「推しは誰」と聞かれて詰まるとき、足りていないもの
会話の途中で誰を応援しているのかを尋ねられ、答えが出てこないことがある。嫌いな相手がいるわけではない。好きな曲も見ている番組もある。それでも一人を挙げるところまで行かない。このとき足りていないのは熱意ではなく、出会い方の設計である。
応援する相手は、ある日いきなり現れて心を掴むわけではない。多くの場合は、何度も目に入る場所に相手がいて、三度目か四度目で名前を覚え、その後で予定に入り始める。つまり経路と回数の問題だ。経路を決めず、回数も偶然に任せていれば、候補が通り過ぎたことにも気づかない。
この記事では、出会う経路を四つに絞り、好きを習慣に変える段階を三つに分けて見ていく。数字の裏づけには総務省の令和7年版情報通信白書と文化庁の文化に関する世論調査を使う。前者は情報通信メディアの利用実態、後者は18歳以上2万4,996人への文化芸術に関する調査である。
作品そのものへの入り方を知りたい場合はアニメの楽しみ方に別の軸の整理がある。ここでは応援する相手を決めるまでの手前を扱う。
入口は四つに絞れる
候補が流れてくる場所は、思っているほど多くない。動く映像が届く場所、短い映像が流れてくる場所、画像と文字が並ぶ場所、そして体ごと行く場所。この四つで大半が説明できる。それぞれ届く情報の質が違うので、どれを主にするかで出会う相手の種類も変わる。
| 入口 | 届き方 | 2024年の利用率(全体) | 最初の一歩 |
|---|---|---|---|
| 動画共有サービス | 長めの映像。人柄や話し方まで伝わる | オンデマンド型の動画共有は92.3% | 関連表示に任せず、一つの出演を通して見る |
| 短い動画の場 | 切り取られた数十秒。数で当たりを引く | TikTokは38.0% | 気になった相手の名前をその場で控える |
| 画像と文字の交流サイト | 日常の断片。更新の頻度が分かる | Instagramは60.9%、X(旧Twitter)は50.3% | 公式の発信元を先に見つけて追う |
| 定額の動画配信 | 作品単位。制作の質が揃っている | 動画配信サービスは61.2% | 作品から入り、関わった人を調べる |
| 現地 | その場の空気ごと。記憶に残りやすい | 外出を伴う文化芸術の鑑賞は45.3% | 誰かの誘いに一度乗ってみる |
利用率の数字は、その場に人が集まっているかどうかの目安にすぎない。だが集まっていない場所では、候補の数も、後から話せる相手の数も減る。最初は人が多い入口から始めたほうが、出会う確率は上がる。
四つのうち、人柄まで届くのは動く映像のある場所である。短い動画は候補の数を増やすのに向き、交流サイトは追い続ける段階で効く。入口と、その後の段階で使う場所は、同じでなくてよい。
年代によって、人のいる場所が入れ替わる
自分の年代でよく使われている場所から始めると、話せる相手が見つかりやすい。白書が公表している交流サイトの利用率の推移と動画サービスの集計を年代別に並べると、場所ごとの偏りがはっきりする。
| 年代 | YouTube | TikTok | X(旧Twitter) | |
|---|---|---|---|---|
| 10代 | 95.7% | 65.7% | 75.0% | 62.1% |
| 20代 | 97.2% | 58.7% | 78.0% | 78.0% |
| 30代 | 97.9% | 39.7% | 70.5% | 61.6% |
| 40代 | 91.8% | 39.9% | 67.0% | 48.7% |
| 50代 | 83.0% | 25.5% | 52.7% | 43.6% |
| 60代 | 71.2% | 18.8% | 34.7% | 22.1% |
読み取れることは二つある。一つは、動画共有だけがどの年代でも7割を超えていて、年代差が小さいこと。相手を探す入口としては最も外れが少ない。もう一つは、短い動画の場が10代で65.7%に達する一方、50代では25.5%と40ポイント離れていることだ。同じ話題が別の年代にはほとんど届いていない。
X(旧Twitter)は20代の78.0%が最も高く、60代では22.1%まで落ちる。Instagramは20代の78.0%から60代の34.7%まで、年代が上がるにつれてなだらかに下がる。追いかける段階でどこを使うかは、自分の年代と、応援する相手の発信先の重なりで決めるのが現実的だ。
経年の動きも見ておきたい。TikTokの全体の利用率は2018年の10.3%から2024年の38.0%へ上がり、同じ期間に30代は7.8%から39.7%、40代は6.5%から39.9%に伸びている。若い層の場所という見方は、すでに実態と合わなくなっている。交流サイトとの距離感そのものについてはメンタルとSNSで利用時間の面から触れている。
好きを推しに変えるのは、接する回数の階段
候補が見つかった後に必要なのは、意志ではなく回数である。文化庁の調査にある頻度の分布は、その階段の形を示している。書籍やテレビ、インターネット配信などによる鑑賞をした人の頻度は、「年に1回程度」が23.5%、「年に数回程度」が26.4%、「月に1〜3回程度」が19.9%、「週に1回」が11.5%、「週に複数回」が18.6%だった。
外出を伴う鑑賞では分布がまったく違う。「年に1回程度」が49.2%、「年に数回程度」が40.3%を占め、「月に1〜3回程度」は7.7%、「週に1回」は1.7%、「週に複数回」は1.1%にとどまる。現地に通う形だけで回数を積もうとすると、年に数回で止まる。
二つを並べると段の作り方が見える。最初の段は配信や放送で、週単位の接触を作る。次の段で物や記録を加えて、見た日付が残る形にする。最後の段として現地を年に数回入れる。順番を逆にして現地から始めると、間が空きすぎて名前を覚える前に熱が下がる。
回数を増やすときの障害は時間の側にある。何かを足すには、同じだけ別の何かを減らさなければならない。自分の時間の使い方を測ってから枠を動かす手順は若者の時間管理が効きやすい理由にまとめてある。推し活に充てる枠を先に決めてしまえば、他の予定と取り合いにならない。
どの段でも共通して効くのは、名前と日付を残すことだ。見た日と相手の名前だけでよい。三回書き留めた相手は、四回目から自分で思い出すようになる。
作り始めた時期に、避けたいことが二つある
探し始めた時期は、どこから情報を取っているかの区別が曖昧になりやすい。正規の経路で見ているつもりが、そうでない場所を経由していることがある。文化庁の調査では、文化芸術活動の中で著作権を意識していると答えた人が39.8%いた。内容としては「違法コンテンツについては、鑑賞しないように心がけている」が20.1%、「フリー素材を使うときは利用規約などを確認して利用するようにしている」が14.2%、「好きなクリエーターを応援するために、著作権を大切にするようにしている」が12.9%である。
この三つ目の言い方が、作り始めの段階では一番役に立つ。応援する相手の収入は、どの経路で見られたかによって変わる。正規の場所で見ることは、気持ちの表明ではなく実際の支えである。無料で見られる場所を探す前に、公式がどこに出しているかを確かめたい。
もう一つは、人を介した取引である。国民生活センターの転売チケットに関する注意喚起には、交流サイトで知り合った個人に代金を振り込んだ後、連絡が取れなくなった相談が挙がっている。同センターは、個人間の取引には危険が伴うとして、入場券は公式の販売サイトで買うこと、困ったときは消費者ホットラインの188番に相談することを助言している。
探し始めの時期は、同好の相手から「これを買えば仲間」と勧められることもある。急かされている場面では判断が鈍る。公式の発信元を先に確かめるという一手順を挟むだけで、ほとんどの失敗は避けられる。
応援する相手が人ではなく、町や催しであってもよい。FLASPOが集めている若者の活動事例は、地域を応援の対象として選ぶ形がどう成り立つかを見るのに向いている。
よくある質問
推しが決まらないのは向いていないからか。違う。候補に触れる回数が足りないだけである。四つの入口のうち一つを選び、同じ相手の出演を三回続けて見るところまでやってから判断したい。
年齢が上がってから始めても遅くないか。遅くない。YouTubeの利用率は60代でも71.2%あり、Instagramも34.7%に届いている。場所は用意されている。
周りと同じ相手を推したほうが話しやすいか。話しやすさは確かに上がる。ただ文化庁の調査では、外出を伴う鑑賞のジャンルは映画が19.0%、歴史的な建物や遺跡が15.1%、美術が13.9%と分かれており、関心は本来ばらけるものだ。合わせに行くと、続かない。
複数の相手を同時に応援してよいか。よい。配信などによる鑑賞で「週に複数回」と答えた人が18.6%いることを踏まえると、接する回数の多い形では自然に対象が増える。数を絞るより、使う時間の総量を決めるほうが管理しやすい。
最初にお金をかける必要はあるか。ない。動画共有サービスは無料の経路が広く、92.3%という利用率もその上に乗っている。費用をかけるのは、相手が決まって回数が安定してからでよい。
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