学生起業の現状を数字で読む|大学発ベンチャー6220社の内訳から

学生起業の現状を数字で読む|大学発ベンチャー6220社の内訳から

増えている実感と、数えられた事実を突き合わせる

大学のキャンパスでピッチコンテストの掲示を見かける頻度は、たしかに以前より上がっている。学内にインキュベーション施設ができ、起業を扱う授業が時間割に入り、在学中に法人を持つ同級生の話も届くようになった。

ただし体感は母数に左右される。情報系の学部にいれば周囲に起業した知人が何人もいる一方、同じ大学の別の学部ではひとりも見当たらないことがある。全体の規模を知るには、全国を定点観測している調査に当たるしかない。

その役割を担っているのが経済産業省の大学発ベンチャー実態等調査である。各大学と企業からの回答をもとに毎年集計されており、学生が関係する企業も独立した類型として数えられている。以下では総数、類型の内訳、大学別の分布、立地の変化、そして裾野の広さという順で現在地を押さえる。

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6,220社、1年で1,146社増えて過去最高

経済産業省が2026年6月12日に公表した令和7年度大学発ベンチャー実態等調査の速報によると、2025年10月末日時点で設立されている大学発ベンチャーは6,220社だった。前年度に確認された5,074社から1,146社増えており、企業数と増加数のどちらも過去最高を更新している。

注意したいのは、この増加分が新しく設立された企業の数とそのまま一致しないことである。調査は各年度の時点で把握できた数を積み上げているため、前年度との差には、以前からあったものが今回新たに確認された分も混ざる。調査自体もその点に留意を促している。

それでも1年で2割以上の伸びは小さくない。大学発ベンチャーという枠組み自体が政策の重点に据えられ、各大学が把握と支援に力を入れた結果が数字に出ていると読める。学生が関わる企業も、この伸びの中に含まれている。

「学生ベンチャー」は類型のひとつとして数えられている

大学発ベンチャーという言葉は幅が広い。調査では六つの定義が置かれ、そのうち一つ以上に当てはまる企業が対象になる。研究成果ベンチャー、共同研究ベンチャー、技術移転ベンチャー、学生ベンチャー、教職員等ベンチャー、関連ベンチャーの六つである。

このうち学生ベンチャーは「大学と深い関連のある学生ベンチャー」と定義され、現役の学生が関係する、または関係したものだけが対象になる。卒業後1年以内の学生が設立に深く関与した場合などは、別枠の関連ベンチャーで拾われる仕組みになっている。

割合は決して小さくない。令和6年度調査の結果概要では、定義別で最も多いのが研究成果ベンチャーの44パーセント、次が学生ベンチャーの28パーセントだった。2023年度に追加された教職員等ベンチャーは6パーセントである。2023年度からは単一回答ではなく複数回答で集計されているため、合計は100パーセントを超える。

定義別の割合(令和6年度調査・複数回答) 割合
研究成果ベンチャー 44%
学生ベンチャー 28%
教職員等ベンチャー 6%

研究室の技術を事業化する形が主流である一方、学生が関わる企業が2番目に多い類型を占めている。大学発ベンチャーは教員が作るものという印象が先行しがちだが、数の上では学生の存在感がはっきり出ている。

大学別に見ると東京大学が595社で突出

分布には強い偏りがある。大学別の社数では東京大学が引き続き最多で、2025年度は595社だった。京都大学503社、慶應義塾大学473社と続く。私立大学でも創出に力を入れている様子がうかがえる結果になっている。

大学名 2024年度 2025年度 差
東京大学 468 595 +127
京都大学 422 503 +81
慶應義塾大学 377 473 +96
大阪大学 298 342 +44
筑波大学 264 301 +37
名古屋大学 153 267 +114
東北大学 222 260 +38
東京理科大学 226 257 +31
東京科学大学 187 209 +22
近畿大学 118 196 +78

伸び率で並べ替えると顔ぶれが変わる。前年度比が最も高かったのは岩手大学で、2社から17社へと850.0パーセントの伸びを示した。金沢大学が7社から34社、関西大学が47社から148社、名古屋大学が153社から267社と続く。東北、中部、近畿など各地の大学が創出に動いていることが読み取れる。

総数で上位の大学に進学していなくても、在籍先が急に支援を強める局面に当たる可能性がある。自分の大学の産学連携窓口が何を用意しているかは、入学年度の情報のままにせず確認し直す価値がある。

増加分の約6割が東京都以外で創業している

立地の面でも変化が出ている。前年度から増えた1,146社のうち、海外に所在する大学発ベンチャー等を除いた1,093社を見ると、その約60パーセントにあたる656社が東京都以外で創業していた。前々年度から前年度にかけての増加分では約54パーセントだったので、地方の割合が上がったことになる。

この偏りの緩和は、学生にとって実務的な意味を持つ。地方の大学に通いながら事業を始める場合、資金と人材の集まる場所から遠いという不利が長く語られてきた。創業地の分散が続けば、支援機関や投資家の側も地方に目を向ける理由が増える。

地域金融機関の動きもこれに連動している。仕組みの具体例は地方銀行とJ-STARTとは何か?スタートアップ支援の形を丁寧に解説で扱った。地域の人や活動から接点を探す入口としてはFLASPOのような場もある。なお開業者全体で見ると29歳以下は7.0パーセントにとどまるという日本政策金融公庫の調査もあり、若年層の薄さ自体は変わっていない。

裾野はまだ広がりきっていない

総数が伸びる一方で、起業に触れる学生の割合は別の話になる。文部科学省が科学技術・学術審議会の部会に出したアントレプレナーシップ教育の現状についての資料では、大学の学部と修士における受講者が約3万人、対象となる約300万人に対して1パーセントにとどまると指摘されていた。集計の対象期間は2019年4月から2020年3月である。

数年前の数字なので現在はこれより改善しているはずだが、桁が一気に変わるものでもない。大学発ベンチャーが6,220社まで増えても、起業という選択肢に授業の形で出会う学生は限られている。増えているのは企業の数であって、接点の広さとは分けて考える必要がある。

出口の側も厳しい。令和6年度の調査によると、2024年に新規上場した大学発ベンチャーは0社だった。同年の東京証券取引所全市場の新規上場件数が136件であることと比べると、上場という到達点がいかに遠いかが分かる。上場に至る道筋そのものはベンチャーとIPOの関係とは?就活生向けに丁寧に詳しく解説するで整理している。

現状をまとめると、企業数は過去最高を更新し、創業地は分散し、学生が関わる類型も全体の3割近くを占めている。他方で起業教育の受講率は低いままで、上場という出口は年によっては一件も開かない。期待を持ちつつ、時間軸は長めに見積もるのが妥当な読み方になる。進め方の基本は学生起業とは?メリット・始め方5ステップ・成功事例10選を解説にまとめてある。

よくある質問

学生ベンチャーの正確な社数は公表されていますか。速報の資料では定義別の内訳が割合で示されており、学生ベンチャーだけを抜き出した社数は明示されていない。令和6年度調査の28パーセントという割合が、規模をつかむうえでの手がかりになる。

大学発ベンチャーに認定されるにはどうすればよいですか。調査上の分類と、各大学が独自に設けている認定制度は別のものである。学内の制度は産学連携部門や研究推進部門が窓口になっていることが多いので、在籍する大学の規程を直接確認するのが確実である。

この調査はどのくらいの頻度で更新されますか。経済産業省が毎年度実施しており、速報は年の半ばに公表されている。令和7年度の速報は2026年6月12日に出た。数字を引用するときは、どの年度の調査でいつ時点の集計かを添えておくと誤解が生じにくい。

経営者はやはり研究者が多いのですか。令和7年度の速報では、経営人材がその役職に就く前の最終経歴として「大学・公的研究機関の教職員・研究者」が多く、アカデミア出身者が代表を務める例が依然として多いとされている。学生が創業した企業でも、事業の拡大段階で経営経験者を迎える形は珍しくない。


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