聞くことが思いつかないのは、範囲を自分で考えているから
面談の前夜に質問の一覧を作ろうとして、五つか六つで手が止まる。やりがいや社風といった大きな問いは並ぶが、それを聞いたあとに何が分かるのかが見えない。原因は発想力ではなく、出発点にある。何を聞くかを白紙から考えているうちは、思いつきの集まりにしかならない。
ところが、新卒で入る会社について尋ねてよい項目は、すでに法律の側で範囲が決められている。若者雇用促進法にもとづく仕組みでは、就労実態に関する職場情報の項目が省令で並べられており、応募者等から求めがあったとき、企業は三つの類型それぞれについて一つ以上を提供しなければならない。厚生労働省の職場情報の提供制度のページと、学生向けの就労実態等に関する職場情報を企業に求めることができますというリーフレットに、その一覧が載っている。
この一覧を質問の下敷きにすると、手が止まらなくなる。会社に答える責任がある項目が先に確定し、そこから先輩にしか聞けない部分が浮かび上がるという順番になる。会う目的そのものの立て方はOB・OG訪問の目的|3年以内離職率33.8%と重視項目から考える確かめ方で整理した。
範囲を決めている12の項目
リーフレットに並ぶ項目は、三つの類型に分かれて全部で12ある。下の表は、その項目と、同じ話題を先輩に重ねて聞くときの問いを対にしたものである。
| 類型 | 情報提供項目 | 先輩に重ねて聞くこと |
|---|---|---|
| 募集・採用 | 直近3事業年度の新卒採用者数・離職者数 | 辞めた人はどの時期に辞めたか |
| 募集・採用 | 直近3事業年度の新卒採用者数の男女別人数 | 配属先に偏りがあるか |
| 募集・採用 | 平均勤続年数 | 長く残る人と早く出る人の違いはどこか |
| 能力開発 | 研修の有無及び内容 | 入社1年目に実際に受けた研修は何か |
| 能力開発 | 自己啓発支援の有無及び内容 | その制度を使った同僚はいるか |
| 能力開発 | メンター制度の有無 | 相談相手は制度か、現場の先輩か |
| 能力開発 | キャリアコンサルティング制度の有無及び内容 | 希望を出す場が年に何回あるか |
| 能力開発 | 社内検定等の制度の有無及び内容 | その資格が評価に結びつくか |
| 定着の促進 | 前事業年度の月平均所定外労働時間の実績 | 繁忙期と閑散期の差はどのくらいか |
| 定着の促進 | 前事業年度の有給休暇の平均取得日数 | 連続して取れる日数の実感はどうか |
| 定着の促進 | 前事業年度の育児休業取得対象者数・取得者数 | 復帰後の働き方に選択肢はあるか |
| 定着の促進 | 役員と管理的地位にある者に占める女性の割合 | その比率は現場の景色と合っているか |
補足も押さえておくと読み違いが減る。平均年齢は法令で定める項目ではないが、参考値として可能であれば提供するよう企業に推奨されている。能力開発の類型は、就業規則に明記されていなくても継続して実施され従業員に周知されていれば「有」として扱われる。社内検定は、業界団体などが実施する検定を使っている場合も「有」になる。
提供される情報の範囲にも決まりがある。募集・求人を行う雇用形態の区分に応じて、企業全体の雇用形態別の情報が示される。いわゆる正社員の求人であれば正社員に関する数字が返る。海外支店等に勤務している人は除外した数字になる。
数字は会社に聞き、意味は先輩に聞く
12項目をそのまま面談で読み上げると、相手は答えに詰まる。所定外労働時間の月平均や有給の平均取得日数は、人事が集計して初めて出る数字で、現場の社員が暗記しているものではない。会社に求めれば義務として返ってくる数字を、わざわざ人に当てるのは時間の使い方として損である。
順序を逆にする。先に会社の窓口へ求めを出し、返ってきた数字を手に持って面談に臨む。そのうえで、数字が何を指しているのかを先輩に確かめる。たとえば有給の平均取得日数が12日と返ってきたとして、それが全員が同じように取っている結果なのか、長期で取る人と取らない人が混ざった平均なのかは、集計表からは読めない。そこが人に聞く価値のある部分になる。
この順序には、相手の負担を減らす効果もある。答えを用意できる問いが来れば、先輩は自分の経験から話せる。逆に、調べれば分かることを面談で尋ねると、相手は確認を取りに社内へ戻るしかなくなる。義務化後の訪問で何が変わったかはOB・OG訪問とは|2026年10月の義務化で変わった依頼と当日の作法で確かめられる。
60分の配分を先に決めておく
面談の時間は多くの場合30分から60分に収まる。この枠に12項目をすべて持ち込むことはできないので、配分を先に決めてしまう。はじめの10分は相手の経歴と現在の仕事の説明に充て、こちらからは口を挟まない。次の25分で、自分が選んだ三つから四つの話題を掘る。残りの時間を、相手が話したそうにしていた部分の追いかけに残しておく。
掘る話題の選び方には基準がある。会社に求めて返ってきた数字のうち、自分の予想と離れていたものを優先する。予想どおりだった数字は確認の価値が低い。離職者数が思ったより多かった、あるいは所定外労働が思ったより少なかった、という引っかかりが、そのまま良い問いになる。
学業との兼ね合いも配分に関わる。面談を詰め込むと授業と重なり、結局どちらも中途半端になる。学生の負担がどこに集まっているかは新卒就活と若者|オワハラ8.3%と学業の両立から見る負担の所在の数字で見える。地方の企業を複数回るなら、一日に寄せる組み立て方も必要で、FLASPOのような地域側の窓口を通すと現地での日程をまとめやすい。
返ってこなかったこと自体が材料になる
求めた項目が返ってこない場合もある。義務は三つの類型それぞれ一つ以上なので、12項目すべてに答える義務はない。ただし青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主等が適切に対処するための指針は、新卒者等が具体的な項目の情報提供を求めた場合には、特段の事情がない限りその項目を提供することが望ましいとしている。求めに備えてあらかじめ情報を整備しておくことや、求めがあったときに速やかな提供に努めることも、同じ指針に書かれている。
だから、頼んだ項目が返らなかったという事実は、そのまま判断材料になる。集計していないのか、出したくないのか、窓口が機能していないのか。どれであっても、入ったあとに自分が置かれる環境と無関係ではない。面談でその一点を先輩に当ててみると、社内でその数字がどう扱われているかが見えることがある。
情報が提供されない、頼んだ項目とは違う情報が届いた、内容が不正確に見える、といった場合はハローワークが相談を受け付ける。項目を指定して求めたという記録を残しておくと、相談の場で話が早い。
よくある質問
質問はいくつ用意すればよいか。面談で使うのは三つから四つで足りる。12項目のうち自分の予想と離れていたものを選び、それぞれに追いの問いを一つずつ添えておく。一覧を20個作っても、使えるのは最初の数個である。
聞いてはいけない話題はあるか。相手の給与の実額や、社内でしか共有されていない数字を本人に当てるのは避ける。答えれば立場を危うくする問いは、答えさせないほうがよい。制度として公表されている範囲と、個人の経験の範囲を分けて尋ねる。
情報提供を求めたことで選考に響かないか。求めを行ったことを理由とする不利益な取扱いは禁じられている。リーフレットは、情報提供を求めた者に対してのみ説明会等の採用選考に関する情報を提供しないことを典型例として挙げ、面接でその事実に触れることも紛らわしい例として示している。
配属や勤務地を尋ねてよいか。12項目には含まれないが、尋ねること自体に問題はない。ただし確定した答えが返る話題ではないため、過去の配属例と本人の異動の経緯を聞く形にしたほうが、使える情報が残る。
求めはいつ出せるのか。対象は応募者または応募しようとする者であり、正式な応募の前に採用情報を請求するプレエントリーの段階でも求めることができる。ただし自分がその募集や求人の対象から外れている場合は、求めを行うことはできない。訪問の依頼と同じ時期に出しておけば、面談までに数字がそろう。
窓口が見つからない会社にはどうするか。ハローワークや学校を含む職業紹介事業者が扱っている求人であれば、そちらから企業に求めてもらう経路がある。この場合、照会した学生が誰であるかを企業に明示する必要はないとされている。自分で直接求めることもでき、その場合は四つの事項をメールか書面で伝える形になる。
受け取った数字を就職活動の記録に残してよいか。自分の判断材料として使うのは当然に想定されている。一方でリーフレットは、提供された情報をSNSへ投稿するような転用をしないよう求めている。年度と出所を併記して手元に置き、外へ出すときは慎重に扱う。
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