祭りの動画に、三つの権利が同時に写る
地域の発信を任されると、素材はたいてい現場で拾うことになる。夏祭りの会場を撮れば、舞台のうしろに貼られたポスター、スピーカーから流れる曲、参加者が掲げる手作りの看板が同じ画面に入る。町の資料館で見つけた昭和の写真を投稿に添えることもある。どれも誰かが作ったもので、使うには原則として著作権者の許諾が必要になる。
とはいえ、祭りの現場で一枚ごとに許諾を取るのは現実的でない。著作権法には、許諾を得ずに利用できる場合がいくつも並んでいる。文化庁が令和8年5月21日に公開した令和8年度著作権テキストは、この例外を条文ごとに整理している。発信の前に確かめる順番は、保護期間、引用、写り込み、そして権利者が分からない場合の手続という並びになる。
順番が大事なのは、後ろに行くほど手間が増えるからである。保護期間が切れていれば誰の許諾もいらない。切れていなければ引用の形に収まるかを見る。収まらないなら写り込みの条文に当たるかを見る。そこまで外れて、しかも権利者に連絡がつかないときに、ようやく裁定制度の話になる。
昭和の写真は、誰の名前で出たかで年数が変わる
最初に見るのは年数である。著作権(財産権)の保護期間は、著作物を創作したときに始まり、原則として著作者の生存している期間と死後70年間である(第51条)。ただし無名・変名の著作物、団体名義の著作物、映画の著作物は、公表の時から起算して70年とされている(第53条、第54条)。周知の変名は無名・変名の扱いから除かれる。
起算点は命日や公表日そのものではない。死亡した日、公表された日、創作された日の属する年の翌年1月1日から数える(第57条)。テキストは手塚治虫さんの例を挙げており、平成元年に亡くなられたので平成2年1月1日から起算して70年後の令和41年12月31日まで保護されると説明している。死亡年に70年を足した年の12月31日までと考えればよいという補足も付いている。
地域の古い写真でつまずくのはここである。撮影者の個人名が分かっていれば死後70年を数えるが、観光協会や役場の名義で出た写真なら公表後70年になる。同じ時期の一枚でも、名義の違いで結論が逆になる。撮影者が不明で団体名義でもない場合は、無名・変名の著作物として公表後70年を見ることになり、死後70年が経過したことが明らかであればその時点までとなる。
引用として通すには、四つの条件が揃っている必要がある
新聞記事の一節や他人の投稿を自分の記事に取り込む場合、使える条文は第32条第1項である。報道、批評、研究等の目的で他人の著作物を引用して利用する場合の例外で、テキストは条件を四つ挙げている。
| 条件 | 具体的に求められること |
|---|---|
| すでに公表されている著作物であること | 未公表のものは引用できない |
| 公正な慣行に合致すること | 引用を行う必然性があること、言語の著作物ではかぎ括弧などで引用部分が明確になっていること |
| 引用の目的上、正当な範囲内であること | 引用部分とそれ以外の部分の主従関係が明確で、分量が必要最小限度の範囲内であり、本文が引用文より高い存在価値を持つこと |
| 出所の明示が必要 | 複製以外はその慣行があるとき |
注記も合わせて読みたい。美術作品や写真、俳句のような短い文芸作品では、その全部を引用して利用することも考えられるとされている。いっぽう、自分の著作物に登場する必然性のない他人の著作物の利用や、美術の著作物を実質的に鑑賞するために利用する場合は引用に当たらない。写真を一枚そのまま貼って「きれいです」と書く投稿は、鑑賞のための利用に寄るので引用では説明できない。
翻訳して引用することは可能だと明記されている点も実務では使える。海外の記事を根拠に地域の話を書くとき、原文を訳して引いても引用の枠からは外れない。ただし主従関係は変わらないので、訳文が本文より長くなれば通らなくなる。
背景に入ってしまったものは、別の条文で拾われる
引用は意図して引く行為なので、意図せず入ったものには合わない。そこで働くのが付随対象著作物の利用(第30条の2第1項、第2項)である。写真撮影、録音・録画、放送等を行う際に、本来意図した対象以外の著作物が写り込む場合の例外で、背景に小さく絵画が入る写真が例に挙がっている。
条件は四つある。写真撮影、録音・録画、放送等の方法によって著作物を利用するにあたっての複製または複製を伴わない伝達行為であること。メインの著作物に占める割合や再製の精度等に照らし、軽微な構成部分であること。利益を得る目的の有無や分離の困難性等の程度、付随対象著作物が果たす役割等に照らし、正当な範囲内の利用であること。そして付随対象著作物の種類や用途などから判断して、著作権者の利益を不当に害しないこと。
テキストは、絵画が背景に小さく写り込んだ写真や楽曲の一部が入り込んだ映像を、ブログに掲載したりインターネット配信したりするなど、さまざまな方法で利用することも可能だと書いている。撮影のときだけでなく、その後の発信まで含めて許されるという整理である。逆に、スピーカーの前にカメラを置いて曲をまるごと録れば軽微な構成部分とは言えなくなる。舞台の演目を正面から通して撮るのも同じで、写り込みの枠からは出る。
権利者に連絡がつかないときは、14日待ってから申請する
地域の素材でいちばん多いのは、権利者が誰か分からない、あるいは連絡しても返事が来ないという状態である。著作権法にはこれに対応する二つの裁定制度がある。一つは著作権者不明等の場合の裁定制度(第67条、第67条の2、第103条)で、法令に定める措置をとっても連絡できない場合に、文化庁長官の裁定を受けて通常の使用料額に相当する補償金を支払うことで利用できる。求められる措置は、権利者情報を掲載する資料の閲覧、著作権等管理事業者や著作者団体への照会、日刊新聞紙または著作権情報センターへの広告掲載の三つである。
もう一つは令和5年の改正で創設された未管理著作物裁定制度(第67条の3、第103条)である。対象は未管理公表著作物等で、公表著作物であること、著作権等管理事業者による管理が行われていないこと、利用の可否に係る権利者の意思を円滑に確認するために必要な情報が表示されていないことの三つに当たるものを指す。利用ルールと利用申込の連絡先がいずれも示されていないことを、著作物の周辺(書籍の奥付やCDのパッケージ等)、検索サービスを用いた権利者のウェブサイトやSNS・ブログの閲覧、分野横断権利情報検索システムでの検索という手順で確認する必要がある。
確認を終えたら、二つ以上の連絡先(一つしか持っていない場合はその連絡先)に利用を希望する旨を明示して連絡し、到達した日から14日を経過するまで応答がないことを確認する。そこまで進んで、申請受付を行う登録確認機関に申請することになる。前者の制度では、担保金を支払えば裁定の処分を受けるまでの間に利用できる仕組みもあり、国等が申請者の場合は担保金の支払が不要とされている。自治体と組んだ発信なら、この差は小さくない。
よくある質問
自治体の広報誌の文章をそのまま投稿に使ってよいか。第32条第2項は、国・地方公共団体の行政機関や独立行政法人の広報資料、調査統計資料、報告書などを転載する例外を置いているが、対象として挙げられているのは新聞や雑誌などの刊行物への転載である。一般に周知させることを目的とした資料で、行政機関等の名義で公表され、説明の材料として転載し、転載を禁止する旨の表示がなく、出所を明示することが条件になる。SNSへの投稿がこの刊行物に当たるとは示されていないので、第32条第1項の引用の形に収めるほうが確実である。
出所の明示はどこまで書けばよいか。テキストは複製以外ではその慣行があるときに必要だとしているが、投稿では媒体名と著者名、該当箇所が分かる形を添えておくのが無難である。リンクだけを置いて本文に出所を書かない形は、あとから引用部分の範囲を示せなくなる。
写っている人の権利はどう扱えばよいか。著作権法が扱うのは著作物の権利なので、写っている人の肖像の問題はこの法律の外にある。祭りの観客が写った写真を広報に使う場面では、撮影時の掲示や同意の取り方を主催者側の運用として別に決めておく必要がある。著作権の条文を満たしても、そこは解決しない。
BGMに市販の曲を使いたい場合はどうなるか。意図して曲を選んで載せるなら写り込みの条文は使えず、著作権と著作隣接権の両方について許諾が要る。管理されている曲であれば著作権等管理事業者が窓口になるため、未管理著作物裁定制度の対象からは外れる。地域の発信とメディアの関係は地域メディアはSNSに置き換わったかで扱っている。
学生が主催するイベントでも同じ考え方でよいか。基本の条文は同じである。催しの現場で音楽を流す場合の整理は学園祭のステージを組む前にに、発信を担う人の役割は協力隊のSNS担当は統計に出てこないにまとめている。地域の側と条件を詰める段では、FLASPOのような中間に立つ組織を通すと、素材の出どころを確かめる相手が見つけやすい。
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