2,714人が1,472人になるまでに起きたこと
岡山県の北東端、鳥取県と兵庫県の境に接する谷あいに西粟倉村はある。村が自ら作った過疎地域持続的発展市町村計画は、この地形を「峡谷型(V型)」と書く。東西9.0キロメートル、南北13.5キロメートル、総面積57.97平方キロメートル。細長い谷に集落が点のように散っている村だ。
国勢調査でたどると、村の人口は昭和35年に2,714人だった。それが昭和55年には1,923人まで落ちる。20年で3割が消えた計算になる。村の計画書は、この時期に高度経済成長期(昭和30年~昭和48年)に若者を中心に人口流出が急激に進んだと振り返っている。
ただ、数字はそのまま下がり続けたわけではない。昭和60年と平成2年には、わずかながら増加に転じている。観光施設の整備が若者定住と雇用に効いた時期があり、村はそれを「昭和50年代後半から平成5年頃まで過疎化に歯止めをかけることができた」と記録している。再び減り始めるのは、バブル経済の崩壊後だ。
| 年(国勢調査) | 人口 | 動き |
|---|---|---|
| 昭和35年 | 2,714人 | この記録の起点 |
| 昭和50年 | 2,009人 | 昭和35年比で26.0%減 |
| 昭和55年 | 1,923人 | 20年で約3割減 |
| 昭和60年 | 1,928人 | わずかに増加へ |
| 平成2年 | 1,939人 | この記録での最後の増加 |
| 平成7年 | 1,902人 | 再び減少へ |
| 平成27年 | 1,472人 | 村が過疎計画に載せた直近値 |
高齢化も進んだ。65歳以上の割合は平成27年3月31日時点で34.6パーセント、令和2年3月31日時点で37.01パーセントになっている。人数の減りと年齢の上がりが同時に来る、という条件のもとで村は打ち手を選ぶことになった。
林野率95%を負債から資産に置き換えた
村の面積の95パーセントは林野である。しかも人工林率が84パーセントと高い。戦後に植えた木がそのまま育っているという意味で、これは本来なら資産のはずだった。ところが長いあいだ、村にとっては持ち出しの方が大きい土地だった。
理由は所有の細かさにある。村の計画書によれば、1ヘクタールから3ヘクタールの林家が4割以上を占める。小さく分かれた山をそれぞれの所有者が手入れするとなると、機械も道も入らない。林業従事者は昭和60年に70名いたが、平成17年には28名まで減った。木材価格の低迷と担い手不足が重なり、計画書は当時の林業経営を「極めて難しい状況」と書いている。
平成20年度から始まった「百年の森林事業」は、この所有の細かさに正面から手を入れた取り組みだ。村が所有者から森林を預かり、まとめて間伐や作業道の整備を行う。事業開始から10年で、村内の対象山林約3,000ヘクタールのうち約半数の集約化が進んだ。林業従事者も平成27年には50名へと戻っている。民有林の林齢を見ると9齢級と10齢級で86パーセント、7齢級と8齢級以上で98パーセントを占め、多くが伐期を迎えていた。木を切って売る条件は、実はそろっていた。
村の外に住む山林所有者という関わり方
森林を預かる仕組みを進めるうちに、村は避けて通れない相手に突き当たる。山を持っているのに村に住んでいない人たちだ。相続で名義だけが残り、本人は都市部で暮らしている。連絡先が分からないことも珍しくない。
村はここで、民間金融機関と連携して村外に住む山林所有者にアプローチする森林信託事業を始めた。所有者は村に移り住まないし、頻繁に訪ねてくるわけでもない。それでも自分の山の管理を村側に託すことで、地域の仕事と収入に継続的につながる。村が推進してきた森林管理事業を民営化するために、創業支援で株式会社百森を立ち上げたのも同じ流れの中にある。
この「住んでいないのに関わっている」状態は、国の整理でいう関係人口そのものだ。国土交通省は、移住した定住人口でもなく観光に来た交流人口でもなく、特定の地域に継続的に多様な形で関わる人を関係人口と定義している。山林所有者との関係は、そのうち地域を訪問せずに関わり続ける型に近い。関係人口の定義や国による違いは関係人口とは?総務省・国交省の定義の違いの記事で整理されている。
国の推計にあてはめると、どの型に入るのか
規模の感覚をつかむには、全国の数字を横に置くとよい。国土交通省は令和5年9月から10月にかけて全国の18歳以上の男女約12万人にアンケートを行い、有効回答11万8,963人をもとに拡大推計した。その結果、2023年時点の関係人口は約2,263万人、18歳以上の居住者約1億275万人の約22パーセントにあたる。
内訳は、地域を訪問する訪問系が約1,884万人で約18パーセント、訪問しない非訪問系が約379万人で約4パーセントである。訪問系をさらに型で分けると、次のようになる。
| 型(訪問系・複数回答) | 推計人数 | 訪問系に占める割合 | 西粟倉村での当てはまり |
|---|---|---|---|
| 趣味・消費型 | 約711万人 | 約38% | 若杉天然林などへの来訪 |
| 参加・交流型 | 約485万人 | 約26% | 視察・体験プログラム |
| 直接寄与型 | 約437万人 | 約23% | ローカルベンチャーの立ち上げ |
| 就労型(テレワーク) | 約145万人 | 約8% | 村に滞在しつつ本業を続ける層 |
| 就労型(現地就労) | 約105万人 | 約6% | 林業・木材加工での就業 |
西粟倉村の名前が知られているのは、このうち直接寄与型と現地就労型が目立つからだ。全国で見れば直接寄与型は訪問系の4分の1に満たない層で、どこの地域でも自然に集まるものではない。村が森林という具体的な仕事を用意したことが、この偏りを作ったと読める。他の地域がどの型を増やしているかは関係人口の地域事例の記事で型ごとに並べてある。
学生が西粟倉村と関わるなら、どこから入るか
「おもしろそうな村だから行ってみたい」で動くと、たいてい一度の滞在で終わる。続く関わりにしたいなら、村の側にすでにある受け皿に乗るのが早い。西粟倉村は公式サイトに視察申込の窓口を置いている。これは団体や研究目的の受け入れを前提にした入口で、ゼミや研究室の単位で動くときに使える。
個人で関わるなら、森林から川下の木材加工まで事業の幅があることが効いてくる。村は環境モデル都市の指定も受けており、脱炭素やバイオマスの文脈で調べたいテーマがあれば、現地に当事者がいる。起業に関心があるなら、創業支援でどんな支援が出るのかを先に押さえておくと話が早い。公費の出方はローカルベンチャーを支える公費の記事で整理されている。
順番としては、まず村の計画書を読んで村が何を課題だと書いているかを掴み、次に自分の関心がどの型に当たるかを決め、そのうえで窓口に連絡する。この順で動くと、受け入れ側も何を頼めるか判断しやすい。学生が地域のプロジェクトに入るときの一般的な段取りは学生が地域プロジェクトを始める順番にまとめてある。FLASPOでも、地域と学生をつなぐ取り組みを扱っている。
よくある質問
村の現在の人口はいくらか。本記事で挙げた1,472人は、村の過疎地域持続的発展市町村計画に載っている平成27年国勢調査の値である。これより新しい住民基本台帳の数字は民間サイトにも出ているが、時点と集計方法が資料ごとに違うため、年次を確かめてから引くのが安全だ。
百年の森林事業はいつ始まったのか。村の計画書は平成20年度からと記している。構想としての打ち出しと事業としての着手を別に数える資料もあるため、年を書くときはどちらの話かを添えた方がよい。
森林率は95パーセントと93パーセントのどちらが正しいのか。村の計画書は林野率95パーセントと村土の95パーセントという表現を使っている。93パーセントとする資料もあり、林野率と森林率で対象の取り方が違う可能性がある。公的な文書を引くなら、その文書の用語をそのまま使うのが無難だ。
村に住まなくても関われるのか。関われる。村外に住む山林所有者との森林信託事業は、まさに住んでいない人との継続的な関わりを前提にした仕組みだ。国土交通省の推計でも、訪問を伴わない関係人口が約379万人いる。
西粟倉村は成功事例として扱っていいのか。村の計画書自体は楽観的ではない。林業への若者の就業は続いたものの「高齢退職者数を上回るまでには至っていない」と書き、農業は後継者不足に悩んでいる状況だとしている。人口減少のスピードが緩やかになった、という表現にとどまる点は押さえておきたい。
出典
西粟倉村「西粟倉村過疎地域持続的発展市町村計画(令和3年度~令和7年度)」/国土交通省「全国の「関係人口」は18歳以上の2割強!」(令和7年6月27日報道発表)/国土交通省国土政策局「関係人口の分類と推計値」
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