地方に落ちる割合は、2018年より下がっている
訪日客が増えたから地方で商売が成り立つ、という話の運び方はよく見かける。数字を開くと、話はそこまで単純ではない。観光庁のインバウンド消費動向調査の2025年暦年確報によると、訪日外国人旅行消費額は9兆4,549億円で2024年比16.4%増の過去最高である。この総額のうち、三大都市圏が6兆5,081億円、地方部が2兆1,338億円だった。
地方部の割合は24.7%になる。同じ資料が並べている過去の値を見ると、2018年は1兆1,212億円で27.5%、2019年は1兆1,661億円で26.7%、2024年は1兆7,361億円で24.1%である。金額は7年で倍近くに伸びているのに、割合はむしろ下がった。地方部の定義は三大都市圏すなわち東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫を除いた道県で、この8都府県以外のすべてを足して4分の1という姿である。
地域で起業しようとする人にとって、これは悪い知らせではなく縮尺の話だ。全国の総額を人口や面積で割って自分の町の取り分を見積もると、ほぼ確実に大きく外れる。まず4分の1に落とし、そこから県ごとの事情を乗せる。この順番を守るだけで、事業計画の初速がだいぶ現実に近づく。
お金は泊まる・買う・食べるの三つに寄っている
次に、その金が何に使われているかを見る。同じ資料の費目別の内訳はこうなっている。
| 費目 | 2025年の消費額 | 構成比 | 2024年の構成比 |
|---|---|---|---|
| 宿泊費 | 3兆4,578億円 | 36.6% | 33.6% |
| 買物代 | 2兆5,541億円 | 27.0% | 29.5% |
| 飲食費 | 2兆688億円 | 21.9% | 21.5% |
| 交通費 | 9,449億円 | 10.0% | 10.7% |
| 娯楽等サービス費 | 4,236億円 | 4.5% | 4.7% |
| その他 | 58億円 | 0.1% | 0.0% |
宿泊・買物・飲食の3つで85.5%を占める。2024年と比べると宿泊費と飲食費の構成比が上がり、買物代は29.5%から27.0%へ下がった。いわゆる爆買いの時代から、泊まって食べることへ重心が移っている流れがここに出ている。
地域での起業を考えるとき、この表は業種選びの地図として読める。宿を作る、物を売る、食べさせる。この3つはすでに大きな器があり、競争相手も多い。一方で交通費が10.0%、娯楽等サービス費が4.5%という数字は、器そのものが小さいことを意味する。体験型のアクティビティで食べていくという構想が難しくなりがちなのは、努力が足りないからではなく、全国で4,236億円しかない枠を取り合う構造にあるからだ。
娯楽等サービス費4,236億円という小さな枠の読み方
4.5%という数字を見て手を引く前に、内訳を一段だけ下げてみる価値はある。同じ資料は国籍・地域別の費目別消費額を出していて、娯楽等サービス費の額はオーストラリアが370億円である。オーストラリアからの訪日客の総消費額は4,067億円なので、娯楽等サービス費の割合は9.1%になり、全国籍平均の4.5%の2倍に当たる。カナダは133億円で総額2,202億円に対して6.0%と、これも平均より高い。
一方で中国は844億円だが総額2兆58億円に対して4.2%、韓国は511億円で総額9,906億円に対して5.2%である。金額の絶対値で見ると中国が最大だが、割合で見ると英語圏の長期滞在客のほうが体験に金を払っている。スキー場のある町や自然のなかのガイド事業で豪州系の客が重く扱われる理由が、この構成比に表れている。
枠が小さい分野で起業するなら、客層を絞り込むしかない。全訪日客を母数にして4.5%を取りにいくのではなく、娯楽に9.1%を割く国の客が来る土地で、その人たちに向けて作る。母数の小さいほうが有利に働く場面は、こういう構成比の偏りが残っているところにある。訪日客が地方で困るのはバスと飲食店だという4,110人の回答も、裏返せば移動と食事の周辺に手つかずの仕事が残っていることを示している。
県ごとの消費単価は15.7万円から1.0万円まで開いている
同じ資料には都道府県別の訪問者数と1人当たりの消費単価、平均泊数が載っている。この3つを並べると、同じ「地方」という言葉のなかの差がはっきりする。
消費単価が高いのは東京都の15.7万円、北海道の15.0万円、沖縄県の12.6万円、福岡県の10.5万円である。低いのは奈良県の1.0万円、千葉県の1.9万円、山梨県の2.4万円、大分県の3.2万円、秋田県の3.3万円。奈良県は訪問者数が370.9万人もあるのに平均泊数が0.4泊で、消費単価が1.0万円にとどまる。京都から日帰りで鹿を見て帰る動きが、そのまま数字になっている。
逆に泊数が長いのは茨城県の10.7泊、埼玉県の8.2泊、福井県の7.0泊、宮崎県の6.8泊である。茨城県は訪問者数22.9万人・消費単価6.8万円で、観光というより滞在や就労を含む動きが混ざっていると読める。北海道は300.9万人・15.0万円・6.0泊で、訪問者数と単価と泊数の3つが揃っている数少ない道県だ。起業の土地を選ぶなら、訪問者数の多さだけでなく、泊数が1泊を超えているかどうかを先に見たほうがよい。1泊未満の土地では宿も飲食も体験も成り立ちにくい。
1人当たり22万8,782円をどう分け取るか
全体に戻る。2025年の訪日外国人旅行者数は4,113万5,081人で、一般客1人当たりの旅行支出は22万8,782円、2024年比0.9%増である。消費総額が16.4%伸びたのに1人当たりは0.9%しか伸びていない。つまり2025年の伸びは、1人がたくさん使うようになったからではなく、来た人数が15.5%増えたことで説明がつく。
単価が動かないなかで人数が増える局面では、1人からたくさん取る設計より、通る人の数を取り込む設計のほうが噛み合う。高単価の体験商品を1日1組だけ回すより、滞在中に必ず通る場所に小さく構える。宿の36.6%や飲食の21.9%という大きな器の周辺に、既存の店を補う形で入り込む余地があるという読み方になる。
数字の扱いで一点注意がある。都道府県別の旅行消費額の合計は、都道府県間交通費や訪問地不明の支出が含まれないため、全国の総額とは一致しない。県別の数字を足し上げて全国と比べるとずれる。地域ごとの計画に使うときは、県別は県別のなかで比べるのが原則である。農泊のインバウンドが74.8万人泊で地方部5,873万人泊とどれだけ離れているかを見た記事や、観光振興の事例を宿泊者数から読んだ記事とは測っている単位が違うので、人泊と金額を混ぜないようにしたい。
よくある質問
地方部の2兆1,338億円は、自分の県の取り分を計算する土台に使えるか。おおまかな縮尺としては使える。ただし都道府県別の消費額が別に出ているので、自分の県の値を直接見たほうが早い。徳島県なら訪問者数9.2万人・消費単価3.7万円・旅行消費額34億円・平均泊数3.3泊という具合に、県ごとの4点セットが公表されている。
娯楽等サービス費が4.5%なら、体験型の事業はやめたほうがよいのか。やめる理由にはならない。構成比が小さいのは全国を母数にしたときの話で、オーストラリアからの客では9.1%になる。どの国の客が来る土地なのかを先に確かめ、来ている客層の構成比で判断するのが筋である。
確報と速報はどちらを引くべきか。確報である。2025年暦年の総額は確報で9兆4,549億円だが、速報の段階では9兆4,559億円と報じられていた。10億円の差なので結論は変わらないものの、提出物に書くなら2026年3月31日公表の確報の値を使うのが安全だ。
学生のうちに地域で小さく試すなら、どこから手をつけるか。県別の消費単価と平均泊数を見て、泊数が2泊を超えている県を数県に絞る。そこで実際に客が何に困っているかを現地で聞く。この順番なら、机の上の数字と現場の話が噛み合う。地域の受け入れ先を探す段階では、FLASPOのように学生と地域をつなぐ場を使うと、観光の繁忙期に当たっても入口が見つけやすい。
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