うまくいっていないという話は、どこで数字になるか
住んでいる町の運営がうまくいっていないと感じたとき、その感覚を裏づける数字はどこにあるのか。地方公共団体の財政については、法律が測り方を決めている。財政健全化法に基づく「健全化判断比率」が4つ、公営企業の「資金不足比率」が1つで、合計5つの指標が毎年公表される(総務省「地方公共団体の財政の健全化」)。
4つの比率には、それぞれ2段階の基準が置かれている。超えると財政健全化計画の策定が必要になる「早期健全化基準」と、さらに重い「財政再生基準」だ。後者を超えた団体は財政再生計画をつくり、国の同意を得て運営することになる。感覚ではなく、この基準線を超えたかどうかが制度上の判定になる。
令和7年度決算に基づく結果は、令和8年9月29日に速報として公表された。令和8年8月31日現在の算定結果をまとめたもので、公表手続きの途中にある団体が多いため数値は今後動く可能性があると注記されている(総務省「令和7年度決算に基づく健全化判断比率・資金不足比率の概要(速報)」)。以下の数字はこの速報による。
1,788団体のうち、基準を超えたのは1団体だけだった
結果から見ると、制度の網にかかる団体はきわめて少ない。都道府県47、政令市20、市区795、町村926の合計1,788団体のうち、早期健全化基準以上となったのは1団体である。その1団体は財政再生基準も超えており、前年度の令和6年度決算と同じ状況だ。該当したのは北海道夕張市で、財政再生団体はこの1市のみ、財政健全化団体はない。
4つの比率を基準値と並べると、どの指標で引っかかったのかが分かる。実質赤字比率、連結実質赤字比率、将来負担比率はいずれも基準超過が0団体で、唯一1団体が出たのが実質公債費比率だった。
| 比率 | 早期健全化基準 | 財政再生基準 | 超過団体数 |
|---|---|---|---|
| 実質赤字比率 | 道府県3.75%/市区町村11.25〜15% | 道府県5%/市区町村20% | 0団体 |
| 連結実質赤字比率 | 道府県8.75%/市区町村16.25〜20% | 道府県15%/市区町村30% | 0団体 |
| 実質公債費比率 | 25% | 35% | 1団体 |
| 将来負担比率 | 都道府県・政令市400%/市区町村350% | 基準なし | 0団体 |
市区町村の実質赤字比率の基準に幅があるのは、財政規模に応じて線が動く仕組みだからだ。将来負担比率に財政再生基準がないのは、将来の負担見込みを理由に再生計画を強いる設計になっていないためである。
夕張市の比率は、計画の17年目でこの位置にある
唯一の財政再生団体の数字を見ると、再建に要する時間の長さが分かる。夕張市の財政再生計画の期間は平成21年度から令和11年度までで、令和7年度はその17年目にあたる。令和7年度決算の実質公債費比率は67.5%で、基準の35%を大きく上回っている。前年度の68.1%からは0.6ポイント下がった。
一方、将来負担比率は45.0%である。前年度の104.5%から59.5ポイント落ちており、こちらは基準の350%を下回る。借金の残高が将来を圧迫する度合いは下がったが、毎年の返済が収入を食う度合いはまだ重い。2つの比率が別の動きをしている理由は、片方が残高を見る指標で、片方が年々の資金繰りを見る指標だからだ。
制度ができてからの推移を見ると、早期健全化基準を超える団体は年を追って減ってきた。令和7年度決算では新たに基準を超えた団体はなく、財政健全化計画を新しく策定した団体もない。施設整備で傾いた自治体の話は過去に数多くあったが、公表される比率の上では、いま基準の外にいる団体は1つに絞られている。公共施設が財政を圧迫する経路そのものは残っており、地方創生の施設整備が抱える構造のほうが、この1という数字より日常に近い。
先に傾くのは一般会計の外側だった
基準超過が1団体だからといって、どこも安泰というわけではない。同じ速報には、基準に届かない範囲の変調が記されている。令和7年度決算で実質赤字額がある団体は1団体あった。令和6年度決算では0だったので、ここは増えている。連結実質赤字額がある団体も2団体で、こちらも前年度は0だった。
公営企業の側はもっと数が多い。資金不足比率が経営健全化基準の20%以上となった公営企業会計は3会計で、内訳は交通事業1、病院事業1、下水道事業1である。前年度も3会計だった。それとは別に、資金不足額がある公営企業会計が53会計ある。前年度の55会計から2つ減ったが、桁が違う。
ここが見落とされやすい場所だ。健全化判断比率は一般会計を中心に見る指標で、連結実質赤字比率になって初めてすべての会計が合算される。バスや病院、下水道の会計が先に資金不足に陥り、それが一般会計からの繰入という形で表に出てくる順序になる。収支が公表されない事業も多く、道の駅の収支が13駅分しか公表されていないように、個別事業の採算は外から見えにくい。
平均値を見ると、都道府県と市区町村で桁が違う
超過団体の数だけでなく、全体の平均も公表されている。実質公債費比率の平均は都道府県が10.2%、市区町村が5.5%だ。前年度は都道府県10.1%、市区町村5.6%なので、ほとんど動いていない。
差が際立つのは将来負担比率である。都道府県の平均が139.2%に対し、市区町村の平均は5.9%だ。前年度は都道府県144.1%、市区町村6.2%で、どちらも下がった。都道府県が20倍以上という水準にあるのは、道路や河川といった大型の社会資本を地方債で整備してきた主体が都道府県側だからだ。市区町村の平均が1桁という事実は、町村単位では借入の残高が将来を圧迫する構図になりにくいことを示している。
この指標を住民の立場で読むときは、順番を決めておくと迷わない。まず自分の市区町村の4つの比率が基準の内側にあるかを見る。次に、資金不足額がある公営企業会計があるかを確かめる。最後に、実質公債費比率が年々どちらへ動いているかを3年分並べる。水準そのものより、向きのほうが運営の変化を映す。
自治体側の制約は、お金の指標だけでは測れない部分もある。職員数の減少や事業の固定化といった論点は比率に表れないため、職員の減少と財政の硬直化のような整理と合わせて見る必要がある。地域の仕事を考える学生にとっては、就職先としての自治体や地元企業の体力を測る材料にもなる。進路を考える段では、FLASPOのような支援の情報と並べて検討したい。
よくある質問
財政再生団体になると何が変わるのか。財政再生計画をつくり、国の同意を得て運営することになる。計画期間は団体ごとに決まり、夕張市の場合は平成21年度から令和11年度までの約20年という長さだ。計画の実施状況は毎年報告する義務がある。
破綻という言葉は制度上使われるのか。使われない。法律の用語は早期健全化基準と財政再生基準で、そこに該当するかどうかという判定になる。企業の倒産と違って債務が消えるわけではなく、長期の計画で返していく形になる。
自分の住む自治体の数字はどこで見られるのか。各団体が議会への報告と公表を行っており、都道府県や市区町村のサイトに毎年の健全化判断比率が掲載されている。全国の団体別の数値は、総務省が速報と確報にあわせて団体別の資料を公開している。
基準を超える団体が1つだけなら、財政の心配はいらないのか。基準は相当に重い水準に置かれているため、超えないことは健全さの証明にはならない。実質赤字額がある団体が0から1に、連結実質赤字額がある団体が0から2に増えたことや、資金不足額がある公営企業会計が53会計あることのほうが、変化の早い指標として見る価値がある。
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