平日は都市で働き、週末や月の一定期間を別の土地で過ごす。そんな暮らしが一部の富裕層のものだった時期は、もう過ぎている。国の推計では実践者は数百万人の規模にのぼり、2024年には後押しのための法律まで整えられた。とはいえ自治体側の受け入れはまだ整備の途中で、実際に始めようとすると壁も見える。数字と制度の両面から、いまどこまで来ているのかを確かめていく。
実践者は推計で700万人規模に達している
規模感をつかむ手がかりは、国土交通省が令和4年9月に行ったアンケートにある。18歳以上の人口およそ1億495万人のうち、約6.7パーセントにあたるおよそ701万人が二地域居住等を行っていると推計された。おおまかに言えば15人に1人の計算になる。
この数字を読むときは、何を数えたのかに注意がいる。調査でいう二地域居住等には、別荘での滞在から実家への定期的な帰省、長期のワーケーションまで幅のある形が含まれている。住民票を二つ持てるわけではないので、実態としては主たる住まいを保ちながら別の地域に反復して滞在する暮らし方の総称と考えるほうが近い。
同じ調査では、実践していない人のうち約3割が二地域居住等に関心を持っていることも示された。関心層の厚さに対して実践者が6.7パーセントにとどまっているという構図が、いま制度が埋めようとしている隙間にあたる。関心と実践のあいだに何があるのかは、後段で触れる。
2024年の法改正で、根拠となる仕組みができた
それまで二地域居住は、移住施策の周辺で扱われる曖昧な位置にあった。これを正面から扱う枠組みが、広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の改正によって整えられている。国土交通省の報道発表のとおり法案は令和6年5月2日に公布され、同年11月1日から施行された。
| 主体 | 担う手続き | できるようになること |
|---|---|---|
| 都道府県 | 広域的地域活性化基盤整備計画に二地域居住に関する事項を定める | 市町村の計画づくりの前提をつくる |
| 市町村 | 特定居住促進計画を作成する | 住まいや働く場の整備、建築規制の特例の活用 |
| 市町村長 | 特定居住支援法人を指定する | NPOや民間事業者が公的な立場で相談や物件紹介を担う |
実務で効いてくるのは、計画をつくった区域では建築物の用途制限が緩和され、滞在者が働くための施設などを整えやすくなる点だ。空き家を改修して仕事場をつくる際に用途の壁で止まる例は各地にあり、そこに道が通ったことになる。
もう一つの要点が支援法人の指定である。移住相談のように、窓口が役場の開庁時間に限られると働きながらの検討は進まない。地域の事業者やNPOが指定を受けて相談や物件の紹介を担えば、平日の夜や週末にも話が進む。運用の詳細は国土交通省の二地域居住の推進の手引きに示されている。
自治体側の動きは、まだ入口にある
制度ができたことと、使える場所が増えたことは別の話だ。国土交通省が掲げている目安は、施行後5年間で特定居住促進計画の作成が累計600件、支援法人の指定が累計600法人という水準になっている。全国の市町村数と比べれば、五年かけて三分の一程度に行き渡るかどうかという設計だとわかる。
機運づくりの場としては、2024年10月に全国二地域居住等促進官民連携プラットフォームが発足している。会員は1,167団体で、内訳は行政が770、民間や関係団体が397。計画の作成にはまだ至らなくても、情報を集める段階で参加している自治体が相当数あるという読み方ができる。
自治体が慎重になる事情もわかる。計画をつくれば住まいの確保や相談体制の整備がついて回り、担当者を置く必要が出てくる。人口が減って職員数も絞られている町ほど、新しい計画に人手を割く余力がない。移住施策を既に抱えている自治体では、どちらを優先するかという判断も入る。
この段階差は、地域を選ぶ側にとってはそのまま条件の差になる。計画を作成済みの市町村では窓口や物件の紹介が仕組みとして動いているが、そうでない地域では従来どおり個別の交渉になる。自分が通いたい土地がどちらなのかは、自治体のサイトで計画の有無を確かめるのが早い。
関心が実践に変わらない三つの理由
関心層が3割いるのに実践が6.7パーセントで止まっているのは、途中に共通した詰まりがあるからだ。国の議論でも、住まい、なりわい、地域との関わりの三点が繰り返し課題として挙げられてきた。
住まいの問題がいちばん手前にある。月に数日しか使わない部屋に通常の賃料を払うのは割に合わず、かといって短期の宿を繰り返し取ると宿泊費がかさむ。空き家は数としては余っているのに、貸し出しの体制が整っていないために借りられない。この隙間を埋める手段として空き家の流通は要になっており、仕組みの概要は空き家バンクを解説した記事に整理がある。
費用の見え方も実践を鈍らせる。滞在先の家賃や宿泊費に加えて、往復の交通費が回数分そのまま積み上がる。車を置く土地なら駐車場代と維持費も乗り、光熱費の基本料金は使わない月にも発生する。始める前に月あたりの総額を出しておかないと、三か月ほどで足が遠のくことになりやすい。
次に仕事の続け方がある。在宅勤務が定着したとはいえ、出社の頻度や通信環境の制約で滞在日数を確保できない人は多い。三つめが地域との関わりで、自治会の当番や地域行事にどこまで加わるのか、税や住民票をめぐる扱いはどうなるのかといった点が曖昧なまま進むと、双方に不満が残る。制度が支援法人という受け皿を置いたのは、この調整役を誰かが担う必要があるからだ。
これから始める人が、現状から読み取れること
ここまでの状況を踏まえると、始め方の順序は自然に決まってくる。まず滞在の頻度と移動時間を実際の生活に落として考える。片道3時間の土地に月2回通うのは想像より負担が重く、続かない理由の多くはここにある。
次に、通う先の自治体が制度上どの段階にいるかを確かめる。計画が作成されていれば住まいの紹介や滞在の支援が受けられる可能性があり、支援法人が指定されていれば相談先が明確になる。何もなければ、地域の不動産事業者や既に通っている人の伝手を頼ることになる。
最後に、地域との関わり方を先に決めておく。所有か賃貸かという住まいの形より、その土地で誰と何をするのかのほうが継続を左右する。地域と継続的に関わる人の位置づけについては関係人口の定義を扱った記事が参考になる。いきなり二拠点を構えるのではなく、短期の滞在を何度か重ねて相性を見る人も多い。FLASPOのような地域に入る仕組みを助走に使えば、住まいを決める前に土地の呼吸を知ることができる。
よくある質問
現状を調べる過程で出てくる疑問を、公表資料の範囲で整理しておく。
住民票は二か所に置けるのか。置けない。生活の本拠は一つと定められているため、住民票は主たる住まいに置いたままになる。行政サービスや選挙の扱いもそちらが基準になり、滞在先で住民と同じ扱いを受けられるわけではない。
法改正で補助金が出るようになったのか。改正の中心は計画と支援法人の仕組み、そして建築規制の特例であり、個人への給付を直接定めたものではない。ただし自治体が独自に滞在費や改修費の支援を用意している例はあるため、通いたい地域の制度を個別に見るほうが実益がある。
どのくらいの頻度から二地域居住と呼べるのか。明確な線引きはない。国の調査も幅のある実態をまとめて数えている。頻度の定義にこだわるより、その土地で暮らしの一部が継続しているかどうかで考えるほうが実態に合う。
勤務先の理解はどう得ればよいのか。就業規則で居住地や勤務場所が定められている場合、届け出が要ることがある。滞在中も通常どおり業務が成り立つことを、通信環境と連絡手段の面から先に説明できると話が通りやすい。
移住との違いはどこにあるのか。生活の拠点を移しきるかどうかが分かれ目になる。仕事や家族の事情で移りきれない人にとって、二地域居住は選べる中間の形として機能する。費用や始め方の基本は二地域居住の基礎を扱った記事にまとまっている。
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