JTBの地域共創は125地域を目標に置いた|遊休資産2軒からの滞在づくり

北海道の町で、空いた家が2軒だけ宿に変わった

最初に動いたのは大きな投資ではなく、使われていない家を直す手作業だった。北海道檜山郡上ノ国町では2025年4月から、住民と高校生が参加するDIYやワークショップに加え、企業と組んだリノベーションとアメニティ整備が進み、短い期間で遊休資産2軒が宿泊施設に変わった。町長は、外からの知見が入ることで遊休資産が資源として捉えられるようになったと述べ、町全体で30から40の泊まれる場所を整える考えを示している。

手を動かした主体が住民と高校生だった点も見落としにくい。外から来た施工業者だけで直した宿と、地元の人が内装に関わった宿では、使われ方が変わる。壁を塗った高校生がのちに客を案内する側に回ることもあり、受け入れの担い手は作業の場で育つ。企業が入れたのはリノベーションとアメニティの部分で、設計と段取りを持ち込む役が外側にいた形である。

2軒という数字は小さく見えるが、出発点としては意味が違う。泊まれる場所がない地域には、調査にも実習にも人を呼べない。逆に数軒でも受け皿ができれば、滞在を前提にした関わりが設計できる。上ノ国町の取組を起点に、JTBとAirbnb Japanは2025年10月1日、企業が地域に入るための枠組みを立ち上げた。

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枠組みに名前がつき、入口が外に開かれた

立ち上がった仕組みは「地域未来にぎわい工房」と名づけられ、同日から活動が始まった。両社は2025年1月に包括連携協定を結んで主に東日本で実証を重ね、地域に必要なのは観光支援の枠を超えた持続的なにぎわいづくりだという結論に至ったと説明している。JTBは観光事業で培った知見を、Airbnbはグローバルなネットワークとホームシェアリングの経験を持ち寄る役割分担である。

特徴は、2社で閉じない設計にしたことにある。地域貢献の意思を持つ企業が自社の専門性やリソースを使って入れる開かれた仕組みとされ、すでに大日本印刷、宿泊施設向けの「MUJI room essentials」の採用で良品計画が参画を表明している。ほかにカルチュア・コンビニエンス・クラブ、オリエントコーポレーション、損害保険ジャパンも名を連ねた。印刷、生活用品、金融、保険と業種が散らばっているのは、滞在拠点をつくる作業が内装から決済や補償まで分かれているためである。

展開の目標は数字で置かれている。2028年までに全国125地域へ広げるとされ、対象は滞在環境の需要と供給に差がある地域が主になる。発表は目標地域数を示す一方で、投資額や1地域あたりの規模には触れていない。どこまで実装されるかは、年度ごとの公表を追って確かめる必要がある。

重点テーマは観光地ではないところを向いている

並んだ4つのテーマを見ると、想定されている地域像がはっきりする。観光名所を抱える土地ではなく、人は来るのに泊まる場所が足りない土地、あるいは災害時の受け皿が要る土地が選ばれている。

重点テーマ 滞在をつくる理由 例として挙がった地域
再エネ地域 再生可能エネルギー事業と連動した滞在インフラ整備 北海道檜山郡上ノ国町
産業集積地域 工業団地などでの人材の滞在支援 北海道石狩市
防災対応地域 遊休資産を避難所・仮住まいとして活用 宮崎県高鍋町
離島・周辺地域 観光・移住検討者の交流拠点の整備 鹿児島県瀬戸内町

再エネ地域が先頭に置かれているのは、上ノ国町の事情とつながっている。発電設備の建設や保守では、数週間から数か月だけ人が増える。その滞在を町の外の宿で受けると、支払われたお金は町に残らない。滞在インフラを地域の側に持つという発想は、売電や工事の収益を地域内で回す話とひと続きになっている。

産業集積地域と防災対応地域が入っている点は、観光の枠から出た部分である。工事や立ち上げで数か月だけ人が増える土地には、ホテルを建てる需要はないが寝床は足りない。避難所の確保も同じで、平時に空いている家を使える状態にしておく話になる。泊まれる場所を観光客のためだけのものと見ない整理が、4つのテーマに共通している。

空き家は900万戸を超え、使い道のない分が385万戸ある

遊休資産という言葉の背後にある量は、統計で確かめられる。総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査(確報集計)によると、2023年10月1日現在の総住宅数は6,504万7千戸で、2018年から4.2%増えて過去最多となった。そのうち空き家は900万2千戸で、2018年の848万9千戸から51万3千戸の増加、空き家率は13.8%と過去最高である。

問題は内訳のほうにある。賃貸や売却の予定がなく、別荘のような二次的住宅でもない空き家は385万6千戸で、2018年から36万9千戸増えた。借り手も買い手も決まっていない家が、この区分に積み上がる。片付けも改修もされないまま置かれやすく、所有者にとっては使い道が思いつかない資産になる。

ここに企業が入る理屈がはっきりする。1軒ずつでは採算に乗らないが、宿泊に転用する手順、什器の調達、保険や決済までを型にして複数の地域で回せば、1軒あたりの手間は下がる。地域の側は、どの家をどう直すかを決める住民の合意づくりに力を使える。空き家の数字そのものは空き家の現状と統計に、法律上の区分と学生が関われる入口は空き家活用の学生プロジェクトに整理している。

瀬戸内の島では、港に共創の場を置いた

宿をつくる動きと並んで進むのが、人が集まる場所づくりである。2026年10月13日、香川県小豆郡土庄町、八千代エンジニヤリング、JTB、Stapleの4者は、土庄港フェリーターミナル1階にシェアオフィスを開き、2026年11月から共創拠点として運営すると発表した。島の玄関口であるフェリーターミナルに置くことで、島外から来た人が最初に通る場所が作業と相談の場になる。

4者が描く筋道は、人が集まり、つながり、アイデアが生まれ、情報が広がり、新しい人や企業や投資が集まり、事業が生まれ、その価値が地域に返るという循環である。面積や席数は公表されていないため規模はわからないが、建設コンサルタント、旅行会社、不動産運営の組み合わせからは、調査から運営までを分担する体裁が読める。

JTBの側から見ると、こうした動きはツーリズム事業、エリアソリューション事業、ビジネスソリューション事業、グローバル領域という事業区分のうち、地域の行政や事業者と組む領域に当たる。旅行商品を売る会社というより、地域の受け入れ環境を整える受託と共同事業の比重が上がっている。学生が滞在して働く枠組みとの違いは学生が地域に滞在して働くにはで確かめられる。地域で動くプロジェクトの探し方はFLASPOでも紹介している。

よくある質問

学生が関わる余地はあるのか。上ノ国町では地域住民と高校生が参加するDIYやワークショップが行われている。発表は学生向けの募集制度に触れていないため、入口は地域ごとの取組を通じて探すことになる。

125地域はどこが選ばれるのか。公表されているのは、滞在環境の需要と供給に差がある地域を主な対象とすること、4つの重点テーマに沿って動くことまでである。地域名は再エネ、産業集積、防災、離島の例として4つが挙がっている段階にとどまる。

企業はどう参加するのか。参画企業・団体の募集が始まっており、問い合わせ先として地域未来にぎわい工房事務局が示されている。地域創生に取り組んでいる企業だけでなく、これから取り組む企業も対象とされている。

自治体にとっての利点は何か。遊休資産を宿泊施設や避難所として使える状態に変えられること、外部の知見が入ることで資産の見え方が変わることが挙げられている。上ノ国町の例では、2軒の転換が町全体で30から40軒という計画につながった。

観光客が増える話とは違うのか。発表は観光支援の枠を超えた持続的なにぎわいづくりを掲げており、工業団地の人材や避難所の確保も対象に入る。来訪者を増やすことよりも、滞在できる状態をつくる側に重心がある。

出典はJTBのニュースリリース「地域未来にぎわい工房」(2025年10月1日)と小豆島の共創拠点(2026年10月13日)、総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」確報集計(令和6年9月25日公表)。


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