参加した事業そのものが資料として残っている
大学の地域プロジェクトに関わった学生が論文の段階で行き詰まるのは、手元に活動の記録しかないときである。自分の経験だけで章を立てようとすると、主張を裏づける材料が足りない。ここで見落とされがちなのが、そのプロジェクト自体が国の事業として審査と評価を受け、記録が公開されているという事実である。
文部科学省は平成27年度から「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」を実施した。略称はCOC+で、同省の事業ページでは、大学が地方公共団体や企業などと協働して学生にとって魅力ある就職先を生み出し、地域が求める人材を育てる教育課程の改革を支援する事業と説明されている。地方創生の中心となる人を地方に集めることを狙いに据えていた。
令和2年度からは後継の「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業」が走っている。略称はCOC+Rで、他の大学や自治体、地域企業と協働して地域が求める人材を養成する教育改革を進めると同時に、就職先と一体になった教育プログラムを実施することで若者の地元定着と地域活性化を進める事業と位置づけられている。
つまり自分が入ったプロジェクトが国の事業の一部なら、申請の段階から事後の評価まで、第三者が点検した文書が公開されている可能性がある。活動の体験を一次情報として使いながら、事業の設計と評価を公的文書で押さえれば、論文の骨組みが立つ。
件数と参画校を押さえると対象の広さが決まる
論文で扱う範囲を決めるには、事業の規模を数字で把握しておく必要がある。一つの大学の取組だけを見るのか、全国の事業を横に並べるのかで、集める資料の量が大きく変わる。
文部科学省が平成27年9月28日に公表したCOC+の選定状況によると、申請は56件あり、選定件数は42件だった。採択率はおよそ4分の3である。事業に参画する大学数は合計256で、設置形態別では大学が194校、短期大学が31校、高等専門学校が31校となっている。大学194校の内訳は国立46、公立40、私立108で、申請大学42件のうち国立が36、公立が4、私立が2だった。
この構成から読み取れることは少なくない。申請の主体は国立大学に大きく偏り、参画校では私立が最も多い。幹事校として申請を担うのは国立大学で、地域の私立大学や短期大学、高等専門学校が参加校として連なる形が標準だったことになる。
後継のCOC+Rは規模が絞られた。文部科学省のCOC+Rのページに載る選定事業は、信州大学を幹事校とする事業と、山梨県立大学、岡山県立大学、徳島大学の4件である。42件から4件への縮小は、それ自体が論文の問いになりうる。
評価資料は年度ごとに種類が違う
公開文書を集めるとき、同じ事業の資料だからといって一括りにすると引用で崩れる。選定の時点で書かれた計画と、終了後に下された評価は、性格も書き手も違う文書である。
COC+Rの場合、各事業について年度ごとに別の文書が並んでいる。
| 年度 | 段階 | 公開されている文書 | 論文での使いどころ |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 選定時 | 基本情報・概要図 | 事業の設計と当初の目標を示す |
| 令和3年度 | フォローアップ時 | 進捗状況の概要 | 初年度の実施状況を確かめる |
| 令和4年度 | 中間評価時 | 中間評価結果・概要図 | 外部評価による指摘を引く |
| 令和5年度・令和6年度 | フォローアップ時 | 進捗状況の概要 | 指摘後の軌道修正を追う |
| 令和7年度 | 事後評価時 | 事後評価結果 | 事業全体の到達点を押さえる |
個別事業の文書とは別に、全体を束ねた文書も出ている。事後評価結果の総括が令和7年度に、中間評価結果の総括が令和4年度に公開され、フォローアップ結果の概要は令和3年度、令和5年度、令和6年度の分が並ぶ。全国の傾向を論じる章では、個別の評価書より総括のほうが引きやすい。
評価委員会の委員名簿も令和2年度から令和7年度まで公開されている。誰が評価したかを確かめれば、評価の視点がどの分野に寄っているかを見立てられる。評価書の文言を引くときは、この名簿を合わせて示すと記述の性格を説明しやすい。
大学が自分で出した報告書と突き合わせる
国の評価書だけでは、現場で何が起きたかは見えない。弘前大学、香川大学、和歌山大学のように、採択校が事業報告書を自校のサイトで公開している例が多く、そこには年度ごとの取組と数値が並ぶ。
二つを並べて読むと、評価の言葉と現場の記述のずれが見つかる。国の評価書は目標の達成度を測る形で書かれるが、大学側の報告書には達成に至らなかった事情や体制の制約が具体的に書かれていることがある。このずれを指摘できれば、記述の引き写しではない分析になる。
COC+は平成27年度に採択された事業が5年間支援を受け、令和元年度を最終年度としている。したがって事業の全期間を扱う論文なら、平成27年度から令和元年度までの5年分の報告書を揃えることになる。年度途中で担当教員や参加自治体が入れ替わる例もあるため、各年度の報告書を飛ばさずに集めたい。
在学中のプロジェクトを題材にするなら、卒論で地域を扱う手順と、地方創生で大学と組む事業の仕組みをあわせて読むと、制度の枠と自分の立ち位置を分けて書けるようになる。
引用で落としやすい三つの点
公開資料を集めた段階で安心してしまうと、提出直前に指摘を受ける。地方創生に関する大学の事業は、名称と年度の表記でつまずく例が目立つ。
第一は事業名の変遷である。「地(知)の拠点整備事業」、「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」、「大学による地方創生人材教育プログラム構築事業」は、略称でCOC、COC+、COC+Rと呼ばれる別の事業である。略称だけで書くと、どの事業の話をしているのかが読み手に伝わらない。初出で正式名称を書き、以降は略称で統一するのが安全である。
第二は年度の表記である。文部科学省の資料は和暦で書かれており、平成27年度と令和2年度が併記される。西暦に直して本文を書くなら、本文中で統一したうえで、引用する文書名は原文の和暦のまま残す。本文と注で表記が入れ替わると、同じ年度を別の年度のように読ませてしまう。
第三は数字の出どころである。選定件数42件は選定状況の文書に、参画大学数256校は同じ文書の表に載っている。孫引きした解説記事ではなく、省の文書そのものを典拠として示す。公開文書の所在が変わることもあるため、閲覧した日付を注に添えておくと後から確かめられる。
こうした作業は地域に出る前から進められる。FLASPOのような接点で現場に関わりながら、並行して公的文書を読み進めると、現地で確かめたい点が具体的になる。
よくある質問
自分の大学が採択されていなかった場合はどうするのか。採択校の事業を対象に据えて、自校の取組を比較の材料に使う形が成り立つ。42件という母数があるため、地域条件や設置形態で絞って数校を選ぶだけでも比較の軸が立つ。
終わった事業を扱うことに意味はあるのか。事後評価まで揃っている事業は、計画と結果の両方が公開されている点で扱いやすい。進行中の事業は結論が出ておらず、学生の論文で成否を論じるのは難しい。
評価書の文言はそのまま引用してよいのか。公的文書であっても、引用の範囲を示して出典を明記する必要がある。評価の文言は短く引き、解釈は自分の言葉で書く。表や図を転載する場合は出典表示の条件を確認したい。
インタビューは必要か。公開文書だけでも論は組める。ただし評価書に書かれていない経緯を補うには、事業に携わった教職員への聞き取りが効く。聞き取りを行う場合は、学内の研究倫理の手続きと記録の扱いを先に確認しておく。
どこから手をつけるべきか。まず選定状況の文書で件数と参画校を押さえ、次に対象を決め、それから年度ごとの評価文書を集める順番がよい。先に評価書を読み込むと、事業の全体像が掴めないまま細部に引き込まれる。
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