卒論で地域を扱うには|大学の地域プロジェクトを研究テーマにする手順

卒論は98%の大学に置かれている

3年の秋に地域のプロジェクトに入り、そのまま卒論にしたいと考える学生は多い。見通しを立てる材料として、まず卒論そのものの位置を確かめておきたい。文部科学省の令和5年度の大学における教育内容等の改革状況調査によると、卒業論文等を授業科目として設けていると答えた大学は745大学、全体の約98%である。令和元年度は721大学で約97%だった。

さらに、学部の全部または一部で必修にしている大学は695大学、約91%にのぼる。令和元年度の668大学、90%から増えている。つまり多くの学生にとって、卒論は選ぶかどうかではなく、何を書くかの問題として現れる。地域を扱うという選択は、必修の枠の中でテーマを決める話になる。

同じ調査には、授業の形が変わってきたことを示す数字も並ぶ。能動的学修を取り入れた授業を実際に行っている大学は97.0%、カリキュラム編成に当たり企業等と連携する仕組みを設けている大学は42.0%、文理横断や文理融合の教育を行っている大学は41.3%である。地域に出る授業や企業と組む科目は、もはや例外的な取組ではない。

テーマを決める時期も見通しに入れておきたい。必修として置かれている以上、提出の期限は学年暦で決まっており、現地に通う回数はそこから逆算することになる。地域を扱うテーマは、資料を読む時間に加えて移動と相手の都合が入るため、机の上で完結する題目より段取りの比重が大きい。先に動かせない日程を押さえ、空いた期間に現地の予定を入れる順番で組むと破綻しにくい。

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活動の記録はそのままでは研究にならない

現場に通った学生がつまずくのは、テーマ決めではなく書き出しの段階である。イベントを手伝い、住民に話を聞き、報告書も書いた。それでも卒論の章立てにしようとすると形にならない。活動の記録は時間順に並ぶが、研究は問いの順に並ぶからである。

同じ調査では、ボランティア活動を取り入れた授業科目を開設している大学が509大学、約67%とされている。令和元年度の478大学、約64%から増えており、地域に関わる経験を単位にできる環境は広がっている。ただし科目として参加した経験と、研究として扱える素材は別物である。前者は与えられた枠で動いた記録で、後者は自分で枠を立てた検証になる。

切り替えの手がかりは、活動の中で説明がつかなかった場面を思い出すことにある。参加者が思ったより集まらなかった、同じ人しか来なかった、担当課の話と住民の話が噛み合わなかった。こうした引っかかりが問いの原型になる。学生が地域プロジェクトを始める順番で触れた受け皿の広さも、入ってからの観察の材料として使える。

確かめられる形まで問いを削る

問いは、答えが出る形まで削らないと検証に進めない。「地方創生はうまくいっているのか」は論文にならないが、「この町の移住相談は何件で、相談した人のうち何人が住み始めたか」であれば数えられる。問いの型ごとに、確かめ方と当たる資料は決まっている。

問いの型 確かめ方 当たる資料
人がどれだけ動いたか 公表統計の時系列を並べる 省庁の年次資料、政府統計の総合窓口
制度が使われているか 計画の作成や指定の公表を数える 市町村が公表する計画、公募要項
地域が何を求めているか 募集要項や方針の記載を読む 自治体の募集要項、協定文
当事者が何に困っているか 聞き取りや観察を自分で行う 自分で集めた記録

上の三つは他人が作った資料で確かめられる。四つ目だけは自分で集める必要があり、手間も責任も重い。先に公表資料で分かることを済ませておくと、聞き取りで聞くべきことが絞られる。すでに統計に出ていることを現地で質問すると、相手の時間を使うだけで終わる。

資料は年度と出どころで扱いが変わる

公的な資料を使うときに最初に確認するのは年度である。同じ制度の説明でも、令和6年度の資料と令和8年度の資料では金額や要件が変わっていることがある。地域おこし協力隊や二地域居住のように毎年手が入る分野では、古い資料を引いたまま現状として書くと事実関係が崩れる。本文か脚注に資料名と公表年度を書いておけば、読む側も更新の有無を追える。

探す順番としては、所管省庁のページで制度の説明と年次の集計を押さえ、数値の細かい内訳が必要なら政府統計の総合窓口で元の統計表に当たるのが基本になる。市町村の計画書も有力な資料で、たとえば国土交通省の二地域居住の推進に関わる計画は公表が前提のため、どの地域がどんな人に来てほしいと書いているかを文字で比べられる。

二次情報を出発点にするのは構わないが、引用元に必ず戻る。まとめ記事は年度の表記が落ちやすく、複数年の数字が混ざっていることもある。卒論で引くのは一次資料で、二次情報はその所在を知る手がかりとして使う。京都大学の地域創生プロジェクトのように大学側の窓口が公表されている例では、学内の資料も一次情報として扱える。

年次の集計が出ている分野なら、同じ資料の数年分を並べるだけで変化が見える。たとえば総務省が毎年公表している地域おこし協力隊の隊員数等の資料は、隊員数と取組団体数、年齢構成、任期後の進路までが同じ様式で続いている。様式が揃った資料は年度をまたいで比べられるため、卒論の表をつくる土台に向く。逆に様式が変わった年があれば、その断りを本文に入れておく。

現場に入る前に決めておくこと

聞き取りをするなら、始める前に段取りを固める。指導教員に調査の計画を見せ、学部や研究科に倫理審査の手続きがあるかを確認する。相手が自治体なら担当課に連絡し、プロジェクト経由なら窓口になっている教員や団体を通す。学生個人の名前で突然訪ねると、受ける側は答えてよい範囲が判断できない。

相手に伝えるのは、何のための調査か、何を聞くか、記録をどう残すか、どこまで公表するか、名前を出すかどうかの五点である。録音の可否はその場で確認し、断られたら取らない。公表前に原稿を見せるかどうかも先に決めておくと、後の調整が楽になる。交通費や謝礼の扱いは研究室の慣行があるため、自己判断で決めない。

忘れやすいのは終わった後である。協力してくれた人に結果を渡すところまでを計画に入れておく。提出した論文の要旨でも、現地向けに書き直した短い報告でもよい。地域の側からすると、聞かれたまま何も返ってこない調査が一番こたえる。地域と学生の関わり方の事例はFLASPOでも紹介している。

聞き取りの同意は口頭でも成立するが、書いた紙を渡すほうが互いに安全である。調査の題目、指導教員の名前と連絡先、聞く内容の範囲、記録の保存期間、公表の形、途中で撤回できることを一枚にまとめ、相手に残す。学部が書式を持っている場合はそれに従う。撤回されたときに記録を削除できるよう、録音と文字起こしの管理の仕方も決めておく。

よくある質問

活動した地域をそのまま卒論の対象にしてよいか。差し支えないが、関わった立場を本文に明記する必要がある。企画に加わった人が効果を評価すると、見たいものだけが見える。関与の範囲と期間を書き、判断の根拠になる資料を自分の記憶以外に置いておけば、読む側が妥当性を測れる。

一つの地域だけを扱うのは弱いと言われた。件数が少ないことと、論として弱いことは別である。一つの事例を深く扱うなら、比べる軸を外から持ってくる。全国の集計値と並べる、同じ制度を使う別の自治体の計画と読み比べる、過去の年度と現在を比べるといった形で、位置づけが示せれば成り立つ。

数字が見つからないテーマはどうすればよいか。公表されていないものを推測で埋めるのは避ける。その代わり、なぜ公表されていないのかを書く手はある。制度が始まって間もないために集計がない、担当が市町村ごとに違って全国の数字にならない、といった事情自体が分析の対象になる。

就職活動と並行して現地に通えるか。調査の山と選考の山をずらすのが現実的である。公表資料で確かめる作業は場所を選ばないため、移動が必要な工程を先に済ませ、選考が立て込む時期には資料の読み込みを置く。訪問の回数を減らしたいなら、一回で聞く範囲を広げる代わりに、事前に送る質問票を丁寧につくるほうが成果が安定する。


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