失敗したスマートシティを調べると、たいてい海外の大型計画が撤退した話に行き当たる。国内で公費を入れた事業はどうなったのか。総務省は平成29年度から令和6年度までに実施した55件の補助事業を振り返る調査研究を行い、実施団体へのアンケート結果を公表した。読むと、事業が止まる場所は技術の側ではなかったことがわかる。
55件を振り返った調査が、すでに出ている
総務省のスマートシティ推進事業は、都市OSと呼ばれるデータ連携基盤の導入や、その上で動くサービスの整備に取り組む自治体などを支援してきた。内閣府、国土交通省、経済産業省と連携した枠組みで、平成29年度から令和6年度までの8年間に計55の補助事業が実施されている。その成果と課題をまとめたのが、情報流通行政局が作成した横展開モデル及びチェックリストである。
まず目を引くのは、生き残りの数字が悪くないことだ。一次アンケートでは、整備されたデータ連携基盤の80パーセント、アプリケーションの88パーセントが現在も継続して活用されていると報告されている。補助金が切れたら全部止まるという印象とは違い、多くの事業者が導入の効果を実感しており、機能追加や別のアプリ開発へ進んだ例も多い。
続けている理由も聞かれている。基盤を継続活用している35団体のうち、効果は発現していると感じるが43パーセント、十分に発現していると感じるが20パーセントで、合わせて6割を超えた。一方で効果があるかわからないと答えた層が約3割あり、止める理由がないから動かしているという状態も残っている。
それでも資料は、継続性は高いが発展性に課題があると総括している。動いてはいるが、その地域の内側で閉じている。失敗がどこにあるかを探すなら、停止したかどうかではなく、何に広がったかを見る必要がある。
動いているのに、つながっていない
広がりの乏しさは数字にはっきり出ている。分野をまたいだデータ連携を実現している事業は19パーセント、他の地域とのデータ連携は17パーセント、アプリケーションの共同利用は16パーセントにとどまる。都市OSという言葉の中心にある連携が、いずれも2割に届いていない。
資料はこの状態を、多くの都市OSが各地域でサイロ化していると表現し、財務省の指摘どおりデータ連携が進んでいない実態が浮き彫りになったと書いている。交通と防災と健康のデータを一つの基盤に載せる構想で始めたのに、結果として一つの分野の一つのアプリを支える土台になっている例が多いということだ。
救いは意欲の側にある。約4割の団体が将来的な連携や拡張に前向きだと答えており、資料はこれを実装につなげる技術的・制度的な支援が有効だと示唆している。つながらない理由が意思の欠如ではないなら、手当ての打ちどころはある。
止まる原因はカネとヒトに集中している
継続運用で何に困っているかを聞いた結果は、順位がはっきりしている。最大の課題は運用経費の確保で68パーセント、次が組織全体の機運醸成で48パーセント、運用体制の確保が43パーセントと続く。技術的な難しさより、事業を支える足腰の部分に困難が集まっている。逆に継続できている事業は、明確な運用体制を確保していると38パーセントが答えた。
経費の規模も公表されている。二次アンケートの平均値を並べると、基盤に重心がかかっていることがわかる。
| 区分 | 初期開発費の平均 | 年間運用費の平均 |
|---|---|---|
| データ連携基盤(単体) | 3,053万円 | 1,278万円/年 |
| アプリケーション(単体) | 1,637万円 | 575万円/年 |
事業全体のコスト構造を見ると、初期も運用も約3分の2をデータ連携基盤が占め、約3分の1がアプリケーションだという。住民が触るのはアプリの側なので、費用の重心と効果の見えやすさがずれる。基盤の費用対効果について61パーセントの事業者が不明確と答えた一方、アプリケーションでは54パーセントが効果は費用以上と答えたのは、この構造の裏返しである。
根っこは、住民に聞いていないこと
資料がすべての課題の根源として名指しするのは、住民ニーズの把握の欠如である。事業計画の段階で住民ニーズ調査を実施していない事業が70パーセントに上り、事業が廃止に至る最大の理由は、ユーザーの課題やニーズと整合しなかったことだと書かれている。使う人に確かめないまま作った機能は、使われないまま維持費だけを食い、やがて維持する理由そのものを失う。
結果はアプリの利用率に表れる。100パーセント近いものから1パーセント未満まで極端なばらつきがあり、成否が二極化していると報告されている。利用率が低迷した事業の多くは、その原因として画面の使いにくさや広報とプロモーションの不足を挙げた。技術の優劣ではなく、使いたいと思わせる運営の基本が分かれ目になっている。
負の連鎖として整理されているのは次の順番である。住民ニーズの欠如がサービスの利用低迷を招き、それが効果を実感できない状態と収益確保の困難につながり、最後に事業継続の断念に至る。失敗はある日突然起きるのではなく、計画書を書いた時点で半分決まっている。
次に始める側が先に決めておくこと
この調査から引き出せる備えは三つある。一つめは、効果を測る指標と手法を着手前に決めること。費用対効果が不明確と答えた事業者は、測定の指標や手法が確立していないことが多いと指摘されている。効果がわからないと関係者の意欲が落ち、議会や住民への説明責任も果たせず、それ自体が継続を危うくする。
二つめは、基盤とサービスを分けて評価することだ。資料は、基盤の効果はその上で動くサービスの価値向上や将来の拡張性といった間接的な便益で測るべきだとしている。三つめは、最もコストの大きい基盤部分の共同利用を進めて重複投資を削ること。共同利用が16パーセントにとどまる現状は、裏返せば削れる余地が大きいという意味でもある。
施設整備で同じ型の失敗が起きる構造はハコモノはなぜ失敗するのか|地方創生の施設整備が抱える構造に、デジタル側の取り組みが伸びている部分は地方創生DXの成功事例|生成AI導入30%と重点8項目の現在地にまとめてある。10年の政策全体の評価は地方創生の現状と課題とは?10年の成果と4つの壁を解説が入口になる。学生が地域の課題解決に関わる方法はFLASPOの事例も参考になる。
よくある質問
国内のスマートシティ事業は失敗したのですか。
総務省の調査では、整備されたデータ連携基盤の80パーセント、アプリケーションの88パーセントが現在も継続活用されている。止まった事業は少数で、課題は他地域や他分野へ広がらないことにある。
何件の事業が調査の対象になっていますか。
総務省のスマートシティ推進事業として平成29年度から令和6年度までに実施された計55の補助事業である。実施団体へのアンケートとヒアリングが行われた。
事業が廃止される最大の理由は何ですか。
資料は、ユーザーの課題やニーズと整合しなかったことを最大の理由として挙げている。計画段階で住民ニーズ調査を実施していない事業が70パーセントに上ることが背景にある。
維持費はどのくらいかかりますか。
二次アンケートの平均値では、データ連携基盤の年間運用費が単体で1,278万円、アプリケーションが575万円である。初期開発費は基盤が3,053万円、アプリが1,637万円だった。
なぜ地域をまたいだ連携が進まないのですか。
資料は多くの都市OSが各地域でサイロ化していると指摘している。ただし約4割の団体は将来的な連携や拡張に意欲を示しており、技術的・制度的な支援があれば実装に進む余地があるとされている。
元の資料はどこで読めますか。
数値はすべて総務省情報流通行政局が作成した「スマートシティ事業の計画・実施のための横展開モデル及びチェックリスト」による。スマートシティ官民連携プラットフォームのサイトに掲載されている。
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