田植えの一日だけでは、この名前は付かない
収穫体験に参加したことがある人は多い。しかし行政の資料に出てくる「教育ファーム」は、半日のイベントとは少し違うものを指している。農林水産省は教育ファームの説明で、これを「農林漁業者等が生産現場に消費者を招き、一連の農作業等の体験の機会を提供する取組」と定義している。鍵になるのは「一連の」である。種まきから収穫まで、作物が育つ時間に合わせて何度か現場に通う形が前提になっている。
言葉自体は新しくない。平成19年の教育ファーム推進研究会の最終報告で枠組みが整理され、その後も事例集や運営の手引きが作られてきた。現在の位置づけは令和3年3月に決まった第4次食育推進基本計画のなかにあり、国の食育の目標のひとつとして「農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合の増加」が置かれている。つまり教育ファームは単独の事業名ではなく、国民が生産現場に触れる機会を増やすための手段として数えられている。
目標は70パーセント以上。直近の実績は57.0パーセント
第4次食育推進基本計画の目標一覧では、農林漁業体験を経験した国民(世帯)の割合を、令和2年度の65.7パーセントから令和7年度までに70パーセント以上にするとされている。ところが実績は逆方向に動いた。令和6年度食育白書の概要が示す推移は次のとおりである。
| 年度 | 経験した国民(世帯)の割合 | 回答者数 |
|---|---|---|
| 令和2年度(2020) | 65.7% | 2,395人 |
| 令和3年度(2021) | 61.3% | 2,447人 |
| 令和4年度(2022) | 62.4% | 2,370人 |
| 令和5年度(2023) | 63.2% | 2,309人 |
| 令和6年度(2024) | 57.0% | 2,365人 |
2024年度に家族の中で農林漁業体験に参加したことがある人が「いる」と答えたのは57.0パーセントで、白書は近年は減少傾向で推移していると書いている。計画の最終年度を前にして、現状値からも8.7ポイント下がった。白書はこの落ち込みの理由を特定していないが、同じ調査から参加を妨げている要素は読み取れる。
関連する目標も同じ向きに動いている。産地や生産者を意識して農林水産物や食品を選ぶ国民の割合は、現状値73.5パーセントに対して直近は67.5パーセントで、目標の80パーセント以上から離れた。環境に配慮した農林水産物や食品を選ぶ国民の割合も67.1パーセントから61.3パーセントに下がり、目標は75パーセント以上である。生産現場との距離が開くほど、産地を見て選ぶ行動も弱くなるという関係が、数字の上では並行して現れている。
参加した人の6割強が、感謝の感じ方が変わったと答えている
効果の側から見ると数字は明快である。体験に参加して変化したことを聞いた結果(1,347人)では、「自然の恩恵や生産者への感謝を感じられるようになった」が64.8パーセント、「地元産や国産の食材を積極的に選ぶようになった」が41.5パーセントだった。「食べられなかった野菜などが食べられるようになった」は13.6パーセント、「地元の生産者等との交流が増えた」は11.4パーセントで、「変化はなかった」の15.8パーセントを大きく上回っている。
買い物の行動まで変わる人が4割を超えるという点は、地域の側にとって重要である。体験が一度の思い出ではなく、産地を選ぶ習慣に変わるなら、受け入れた側には来訪後の売り先が残る。白書も、行動変容につながることが期待される取組として農林漁業体験を挙げ、学校等での農林漁業教育の充実を含めて参加者が増加に転ずるような強化が求められるとしている。
最大の壁は費用でも距離でもなく、やり方がわからないこと
参加していない999人に理由を聞いた結果は、受け入れ側の想像と少しずれている。最も多いのは「体験に参加する方法がわからないから」の36.2パーセントで、次が「関心がないから」34.6パーセント、「時間が取れないから」32.4パーセント、「体力的に体験する自信がないから」28.4パーセントと続く。「会場までの距離が遠いから」は14.9パーセント、「参加費用がかかるから」は8.4パーセント、「体験の準備等に手間がかかるから」は6.0パーセントで、いずれも下位である。
料金を下げても人は増えないという読み方ができる。足りていないのは告知と入口の設計である。同じ調査でどんな工夫があれば参加するかを聞くと、「親子や友人など、いろいろな参加の仕方ができること」が31.2パーセント、「地域の伝統行事などのイベントに合わせて参加できること」が28.4パーセント、「収穫物の調理体験ができること」が26.4パーセントの順だった。「地元の生産者等との交流があること」は19.9パーセント、「オンラインで、体験前に試したり、体験後も関係が続けられること」は5.9パーセントにとどまる。祭りや行事の日程に合わせ、参加の形を複数用意し、採ったものを食べるところまで組む。農家ひとりで抱えるには手間の多い部分で、ここに人手が必要になる。
学校給食という受け皿と、学生が入れる隙間
学校はこの取組の最大の現場である。白書によれば学校給食は全小学校数の99.1パーセント、全中学校数の91.5パーセントで実施されており(2023年5月時点)、給食に使われる食材の地場産物の使用割合は56.4パーセント、国産食材は89.4パーセントだった。食育推進計画を作成している市町村の割合は91.2パーセント、都道府県は100パーセントである。制度の枠はすでに全国に敷かれていて、足りないのは現場を動かす手である。
学生が関わる余地はここにある。告知の作り方、親子向けの受付、当日の案内、収穫物を調理する段取り。調査が示した「工夫」の上位は、いずれも人を配置すれば実現できるものである。農家に入る前に体験の側から地域を知る道筋は農業体験の種類と選び方に、体験を自分の経験として語れる形に組み替える順番は農業体験をガクチカにするにはに整理した。宿泊を伴う受け入れの規模は農泊の到達点が参考になる。地域と学生をつなぐ入口の作り方はFLASPOでも扱っている。
よくある質問
教育ファームと農業体験は同じものですか。重なりますが同じではありません。教育ファームは農林漁業者等が生産現場に消費者を招き、一連の農作業等の体験の機会を提供する取組を指します。一日の収穫体験も農林漁業体験として調査の対象には入りますが、教育ファームという言葉は種まきから収穫まで複数回通う形を念頭に置いています。
参加できる場所はどこで探せますか。地方農政局が体験スポットの紹介ページを持っており、市町村の食育推進計画にも受け入れ先が載ります。計画を作成している市町村は91.2パーセントなので、住んでいる自治体の計画を見るのが近道です。調査で最も多かった不参加の理由が「方法がわからない」であることを踏まえると、探し方の情報自体が不足している状況だと考えられます。
なぜ割合が下がったのですか。白書は理由を特定していません。示されているのは割合の推移と、参加しない人が挙げた理由までです。推測で原因を書くことはできませんが、参加の障壁として費用や距離より「方法がわからない」が上に来ている点は、告知の側の課題を示しています。
食育に関心がない人はどのくらいいますか。食育に関心があると答えた人は80.8パーセントで、関心がないと答えた約2割に理由を聞くと(423人)、「食事や食生活への関心はあるが、食費を安くすることの方が重要だから」が40.9パーセント、「他のこと(仕事、趣味など)で忙しいから」が38.8パーセント、「食育自体についてよくわからないから」が34.8パーセントでした。食に無関心なのではなく、優先順位の問題として表れています。
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