農林水産業に無償で関わる|三分野で違う受け皿と公表された数字

田畑と森と海では、外の人の入れ方がそろっていない

農業を手伝いたい、森に入ってみたい、海の環境を守る活動に加わりたい。どれも一次産業に無償で関わる話だが、調べ始めると手がかりの量がまるで違う。森林には登録の仕組みと公表された件数があり、海には国の交付金の枠があり、農業には全国を見渡せる数字が存在しない。

同じ「ボランティア」という言葉でくくられていても、受け皿を作ってきた役所が別で、作った順番も違うからである。分野ごとの事情を先に知っておくと、探す先を間違えずに済む。三つを並べると次のようになる。

分野 主な受け皿 国の制度 公表されている規模
森林 森林ボランティア団体、企業の社会貢献、緑の少年団、学校林 里山林活性化による多面的機能発揮対策(林野庁) 企業の活動2,002か所、登録7.3万件、緑の少年団2,955団体31万人
農業 自治体・農協の援農ボランティア制度、農家との個別の関係 分野を名指しした国の制度はない 全国を集計した公表値はない
水産 活動組織(漁協・住民などで構成) 水産多面的機能発揮対策事業(水産庁) 予算額14億5,200万円(令和6年度概算決定)

規模の欄に入っている数字は、分野ごとに意味が違う。森林は参加した人や箇所の数、水産は国が用意した予算の額で、農業は空欄である。並べたからといって比べられるわけではないのだが、公表のされ方そのものが分野の成熟度を映している。

募集中の地域コンテスト

読んだら、地域に行ってみよう

地域が出したお題に、オンラインでアイデアを応募できます。受賞すると、現地に無料で招待されます。

募集中の地域をすべて見る

森林だけは、関わった人の数が公表されている

林野庁の令和7年版 森林・林業白書には、森林に外から関わる人の数がいくつも載っている。企業による森林づくり活動の実施箇所数は令和6年度に2,002か所。森林づくりを応援する人や団体を登録する「フォレスト・サポーターズ」は令和8年3月末時点で7.3万件。緑の少年団は令和8年1月時点で2,955団体、31万人である。

子どもが関わる口も数字になっている。学校林を保有する小中高等学校は約2,200校、面積は1.6万ヘクタール。国土緑化推進機構の「学校林現況調査報告書」(令和3年調査)が出典として挙げられている。寄附では緑の募金が令和6年に総額約20億円を集めた。

活動の側を支える国の制度もある。里山林活性化による多面的機能発揮対策は令和7年度に始まった枠組みで、平成25年度から令和6年度まで続いた「森林・山村多面的機能発揮対策交付金」を引き継いでいる。窓口は都道府県ごとに置かれた地域協議会で、林野庁が直接受け付ける形ではない。地域の住民や森林所有者が作った活動組織が、下草刈りや間伐、里山林の整備といった作業に取り組む。

ここまで数字が揃っている分野は、一次産業のなかでは森林だけである。制度の歴史が長く、企業の社会貢献の対象として定着してきた経緯が効いている。関わりたい人が規模を確かめてから動けるという点で、入り口としてはいちばん見通しがよい。

農業は、人手が足りないのに全国の集計がない

人手が足りないという事実のほうは、数字がはっきりしている。農林水産省の農業労働力に関する統計によれば、個人経営体の基幹的農業従事者は令和8年に98.7万人。令和2年の136.3万人から大きく減り、100万人を割った。平均年齢は67.7歳、65歳以上が69.3万人を占める。なお令和8年の値は農業構造動態調査による標本調査の推定値で、全数調査である農林業センサスの令和2年の値とは性質が違う。

それだけ減っていれば外の手が要る。実際に自治体や農協が援農ボランティアの制度を持っている例は各地にある。ところが、何人が登録していて何日分の作業が行われたのかを全国で足し合わせた公表値が見当たらない。農林水産省の統計一覧にも、援農を単独で集計した調査は置かれていない。

手がかりになるのは事例研究である。農林水産政策研究所は労働力不足軽減に資する援農ボランティアとして、JAふじ伊豆が果樹の分野で行っている仲介の取組を整理している。参加者を集めるときは居住地や組合員資格の制限を設けずに広く募り、交通費を支給し、援農した作物を土産として持ち帰れることを事前に伝える。受入農家の側には生産部会の協力を得て、援農による経営上の効果を説明する。

続く仕組みのほうが難しいという指摘も出ている。参加者と受入農家の人間関係づくりを意識し、2年目以降は農家と直接やり取りする形に移すのが効果的だという。果樹は収穫期に短期間で多くの手が必要になるので、広く募って関係を育てる手順が噛み合う。制度としてではなく、個々の産地の工夫として積み上がっている段階である。

海の保全活動は、交付金の枠のなかにある

水産の分野は、森林とも農業とも違う形をしている。個人が登録する仕組みではなく、事業の単位が「活動組織」になっている。水産庁の水産多面的機能の発揮等という予算の資料に、仕組みがまとまっている。

令和6年度の水産多面的機能発揮対策事業の予算は14億5,200万円。前年度の16億5,300万円から減っている。お金の流れは国から地域協議会へ、そこから活動組織へという二段で、県や市、漁協などが地域協議会を構成する。交付は定額で、おおむね事業費の2分の1に相当する額とされている。資機材の整備は2分の1以内である。

支援の対象になる活動は具体的だ。藻場の磯焼け対策、サンゴ礁の保全、魚介類の放流、海洋環境調査。水辺のほうでは干潟やヨシ帯の保全、内水面の生態系の維持、漂流漂着物の回収と処理。加えて国境と水域の監視、海の監視ネットワークの強化、海難救助訓練も入る。事業目標には対象水域での生物量を20パーセント増やす(令和7年度まで)という数字が置かれている。

裏を返せば、個人が「海のボランティアに登録する」という入り方は用意されていない。地元の漁協や活動組織に話を通すところから始まる。漁業そのものに外から関わる道筋は漁業に外から関わる|関係人口の受け皿としての海の仕事を数字で見るで別に整理している。

学生が入るならどこからか

三分野を見比べると、探し方の順番が決まってくる。森林はまず都道府県の森林・林業の担当課か地域協議会に当たる。活動組織の一覧を持っている県が多く、受け入れている団体に直接連絡する形になる。企業の森林づくりが2,002か所あるので、大学の所在地の近くに場所がある確率も低くない。

農業は全国の窓口を探しても出てこない。自治体の農政課、農協、それから産地の生産部会が実質的な入り口になる。援農を受けている産地は収穫期に人を求めているので、時期を合わせて問い合わせるほうが話が早い。体験として関わる形から始めたい場合は農業体験をガクチカにするには|受け入れ側の事情から組み立てるに受け入れ側の事情を書いた。

水産は地元の漁協と、県の水産部門が置いている地域協議会が窓口になる。活動が藻場の整備や清掃など屋外の作業中心で、安全の管理も組織側が負っている。無償の活動と有給の仕事の線引きは分野をまたいで共通の論点なので、ボランティアと有給活動はどこが違うのか|労働者性と税の線引きを先に読んでおくと迷いが減る。自然環境の側から関わりたい場合は環境ボランティアの種類と選び方|法律に裏づけのある活動から探すに制度に根拠のある関わり方を並べてある。

地域に関わる入り口をどう設計するかという話はFLASPOでも扱っている。一次産業の場合、数字が無いことは受け皿が無いことを意味しない。集計されていないだけで、現場は人を待っている。

よくある質問

援農ボランティアの全国の人数は、本当に公表されていないのか。農林水産省の統計の一覧には、援農を単独で集計した調査が置かれていない。自治体や農協が個別に登録者数を出している例はあるので、地域を限れば数字は取れる。全国を足し合わせた公表値が見つからないという意味である。

無償なのに交通費や作物が出るのは、ボランティアではないのか。実費の支給や収穫物の持ち帰りは、報酬ではなく参加の負担を下げる仕組みとして位置づけられている。ただし支給の額や形によっては労働者性の判断に関わるので、受け入れ側が示す条件を文書で確かめておくのが安全である。

緑の少年団には大学生も入れるのか。緑の少年団は子どもの団体で、指導や引率の側に関わる形が現実的である。31万人という規模は団員の数で、学生が入るなら団を運営する側や、地域の森林づくり活動の方を見るほうが近い。

水産の活動組織に個人で参加できるか。組織に加わる形になる。活動組織は漁協や地域の住民などで構成され、国の交付は組織に対して行われる。個人の登録窓口が国の側に用意されていないため、地元の漁協か県の地域協議会を通すことになる。

森林・山村多面的機能発揮対策交付金という名前で検索しても出てこないのはなぜか。令和7年度から「里山林活性化による多面的機能発揮対策」という名前に変わっている。旧名の事業は平成25年度から令和6年度までで、古い資料は旧名のまま残っている。問い合わせ先は都道府県ごとの地域協議会である。


アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

FLASPO

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。

FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。

賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。

コンテストを探す▶︎

FLASPOで募集中のコンテスト

自治体や企業が出したお題に、学生・若者がオンラインでアイデアを応募できます。募集中のものも、これまでのお題と結果も、一覧で見られます。