泊まらずに帰る訪日客|地方の宿泊1.4泊と目標2泊の差を読む

地方に来る人は増えたのに、泊数は増えていない

町の観光協会で話を聞くと、同じことを言われる年が続いている。外国人は確かに来るようになった、ただし日帰りか一泊で、翌朝には次の都市へ向かう。印象論に聞こえるが、統計を開くとそのまま裏付けが出てくる。観光庁が2026年7月6日に公表した宿泊旅行統計調査の2025年年間値(確定値)によると、2025年の外国人延べ宿泊者数は1億7,992万人泊で、前年比9.4%増、2019年比では55.6%増だった。

この数字を地域別に割ると、動きの方向が見える。三大都市圏、つまり東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫の8都府県は1億1,936万人泊で前年比5.1%増、それ以外の道県をまとめた地方部は6,056万人泊で19.1%増だった。伸び率は地方部が三大都市圏の4倍近い。構成比でも地方部は33.7%まで上がり、2023年の28.5%、2024年の30.9%から2年続けて押し上がっている。この構成比の意味は地方部シェア33.7%の読み方で詳しく扱っている。

それでも現地の体感が変わらないのは、人数と泊数が別の量だからである。何人が来たかではなく、一人が何泊したかを見ると、話は反転する。

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目標は2泊、割り算で出てくるのは1.4泊

政府は、この泊数そのものを目標に据えている。観光庁の観光立国推進基本計画は令和5年度から令和7年度までの3年間を対象とし、令和7年までに達成する数値として、訪日外国人旅行者一人当たり地方部宿泊数2泊、訪日外国人旅行消費額単価20万円、国内旅行消費額22兆円などを掲げた。訪日外国人旅行消費額5兆円と国内旅行消費額20兆円については、早期達成を目指す目標として別に置かれている。

実績はどうだったか。観光庁が令和8年4月にまとめた観光の現状等についての資料では、2025年の訪日外国人旅行者数は推計値で4,268万人、消費額は約9.5兆円、一人当たりの旅行支出は22.9万円とされている。日本人の国内旅行消費額は26.8兆円だった。この4,268万人で地方部の6,056万人泊を割ると、一人当たり約1.4泊になる。計画期間の最終年にあたる2025年の時点で、目標の2泊には届いていない。

令和7年までの目標 目標値 2025年の値 達否
訪日外国人旅行消費額単価 20万円/人 22.9万円 超過
訪日外国人一人当たり地方部宿泊数 2泊 約1.4泊 未達
国内旅行消費額 22兆円 26.8兆円 超過
訪日外国人旅行消費額(早期達成) 5兆円 約9.5兆円 超過

金額の目標は軒並み超えている一方で、泊数だけが取り残されている。使う額は増えたが、滞在の長さは変わっていない、という形である。

伸びているのは、名前が出てこない県だった

では地方部の19.1%増は、どこで起きたのか。確定値の都道府県別の表を前年比の順に並べると、首位は鳥取県の72.0%増である。続くのが新潟県の60.6%増、三重県の57.7%増、富山県の54.5%増。いずれも訪日旅行の宣伝で前に出てくる県ではない。外国人延べ宿泊者数の上位5都道府県は東京都、大阪府、京都府、北海道、沖縄県の順で変わらないままだが、増分の勢いは別の場所に移っている。

同時に、絶対量の小ささも表から読める。鳥取県の20万3,600人泊は、東京都の6,011万5,730人泊の300分の1に満たない。福井県は10万8,550人泊、島根県は11万4,300人泊、高知県は14万780人泊である。率の大きさは、母数が小さいことの裏返しでもある。逆にいえば、ここで数百人泊が動けば率は目に見えて変わる。都道府県の並びは2025年の延べ宿泊者数で見る集まり方に一覧がある。

減った県があることも見落とせない。群馬県は16.7%減、滋賀県は8.6%減、大阪府も3.5%減となっている。地方部全体が伸びたからといって、どの地域でも同じ波が来たわけではない。前年比を一年だけ見て判断すると、催しの開催年や臨時の便が立った年の跳ね上がりを傾向と読み違える。2019年比の列も並べて、二つの向きが一致しているかを確かめたい。

旅館の稼働率38.2%が示している余白

泊数が増えない理由を、受け入れ側の数字から見ておきたい。2025年の客室稼働率は全体で61.6%だった。施設タイプ別では、ビジネスホテルが75.3%、シティホテルが74.1%、リゾートホテルが56.9%、旅館が38.2%、簡易宿所が29.6%である。都道府県別では大阪府が全体で78.6%と最も高く、稼働率が80%を超えたのはビジネスホテル3箇所だけだった。

旅館の38.2%という水準は、部屋が足りないわけではないことを示している。前年差では旅館が2.1ポイント、リゾートホテルが2.8ポイント上がっており、方向は改善している。それでも6割強の客室が空いたまま一年を終えた。泊まる先がないから一泊で帰るのではなく、二泊する理由が用意されていないほうが実態に近い。稼働率と宿泊者数を重ねて地域を絞る手順は宿泊者数と客室稼働率から人気エリアを絞る方法にまとめてある。

国籍の構成も合わせて見ると、設計の手がかりが増える。確定値では、国籍別の上位5つが中国、台湾、韓国、米国、香港で、この5か国・地域で全体の約59.6%を占めた。前年比の伸びが最も高かったのはロシアの104.4%増である。相手を一つの塊として扱うと、滞在の設計は粗くなる。

学生が入れる隙間はどこにあるか

二泊目をつくる仕事は、大きな投資を必要としない部分がかなり残っている。到着した夜から翌日の昼までに何をするかが決まっていないために一泊で帰る、という形が多いからだ。朝の市場、集落の歩き方、季節のしごとの見学といった中身は、現地にある素材を言葉にして並べるだけで成り立つ。この並べ替えは、学生が関わりやすい作業である。

このとき効くのは、数字で場所を選ぶ癖である。率の伸びが大きい県は注目されやすいが、母数が十万人泊の県と六千万人泊の県では、同じ提案の効き方が違う。旅館の稼働率が38.2%にとどまっている一方でビジネスホテルが75.3%という差は、どの種類の宿に余力があるかを教えてくれる。現地に入る前に確定値の表を開いておけば、思いつきで提案して空振りする回数が減る。地域と関わる入口の形はFLASPOのような窓口を通すと、受け入れ側の期待と作業の範囲が先に文書になる。

もう一つ、言語の手当てが抜けやすい。上位5か国・地域で6割を占めるという構成は、対応する言語を絞れることを意味している。全部をそろえる前に、実際に来ている相手の順に用意するほうが早い。

よくある質問

1.4泊という数字は、観光庁が公表しているものか。公表資料に直接この形で載っているのは、目標値の2泊のほうである。1.4泊は、確定値の地方部6,056万人泊を訪日外国人旅行者数4,268万人で割った概算にあたる。訪日者数は推計値なので、確定後に小幅に動く可能性がある。

速報値と確定値で数字が違うのはなぜか。観光庁は2026年2月27日に年間値の速報値を公表し、その後に回収した調査票を反映して7月6日に確定値を出している。外国人延べ宿泊者数は速報の1億7,787万人泊から1億7,992万人泊へ、客室稼働率は61.8%から61.6%へ変わった。資料を引くときは、どちらの値かを本文に書いておくと後で混乱しない。

三大都市圏と地方部の線引きはどう決まっているか。確定値の注記によると、三大都市圏は東京、神奈川、千葉、埼玉、愛知、大阪、京都、兵庫の8都府県を指し、地方部はそれ以外の道県である。北海道や沖縄県のように宿泊者数の多い地域も地方部に入るため、構成比を読むときはこの区分を踏まえておきたい。

泊数を増やす以外に、地域が見るべき数字はあるか。消費額単価は目標の20万円を超えて22.9万円まで来ているが、これは全国の平均である。地方部で何にいくら使われたかは別の調査を見る必要がある。確定値では延べ宿泊者全体に占める外国人の割合が27.2%と示されており、日本人宿泊者が前年比2.7%減だったことも合わせて読むと、同じ客室を誰で埋めるかという問いが残る。平日と週末の偏り、季節ごとの山と谷も、年間の平均値では見えなくなる。月次の公表値まで下りてから地域の計画を立てるほうが、現場の繁閑に合う。


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