軽井沢、白浜、那覇、ニセコ。ワーケーションの候補地を検索すると、だいたい似た地名が並ぶ。ただ、そこに「人気」と書かれている根拠はたいてい示されていない。人が集まっているという意味なのか、働きやすいという意味なのか、言葉だけでは区別がつかないままだ。公的な統計には、その二つを別々に測った数字がある。
「人気」という言葉が二つの意味で使われている
候補地を比べるとき、最初につまずくのは指標の取り違えだ。来る人の多さを表す数字と、宿の混み具合を表す数字は、まったく別のものを測っている。前者が大きい土地は受け入れの選択肢が広い。後者が大きい土地は、同じ日程で部屋を押さえるのが難しい。
観光庁の宿泊旅行統計調査には、この二つがどちらも載っている。延べ宿泊者数は、何人が何泊したかを足し上げた量の指標だ。客室稼働率は、使える客室のうち実際に埋まった割合で、混雑の度合いを示す。
滞在しながら働く場合、効いてくるのは後者である。観光で一泊するなら満室のホテルを避けて別の宿に流れればよいが、同じ部屋に四泊も五泊もするなら、空いている日が連続していなければ予定が組めない。連泊できるかどうかは稼働率に左右される。
さらに、受け入れ側の性格も見ておきたい。観光庁のワーケーション・ブレジャーのページでは、休暇が主体の形と業務が主体の形が区別されている。どちらを想定した町なのかで、平日の昼間に働ける場所があるかどうかが変わる。
延べ宿泊者数の上位は大都市と離島に割れる
国土交通省近畿運輸局が観光庁の統計からまとめた2025年の宿泊旅行統計(確定値)によると、2025年の全国の延べ宿泊者数は6億6,111万人泊だった。都道府県別では東京都が最も多く、大阪府、北海道、沖縄県、京都府が続く。この上位5都道府県だけで全国の約42パーセントを占めている。
| 都道府県 | 延べ宿泊者数 | うち外国人 | 外国人の比率 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 1億790万人泊 | 6,012万人泊 | 55.7% |
| 大阪府 | 5,877万人泊 | 2,452万人泊 | 41.7% |
| 北海道 | 4,650万人泊 | 1,330万人泊 | 28.6% |
| 沖縄県 | 3,386万人泊 | 921万人泊 | 27.2% |
| 京都府 | 3,316万人泊 | 1,829万人泊 | 55.2% |
| 千葉県 | 2,824万人泊 | 438万人泊 | 15.5% |
| 長野県 | 1,905万人泊 | 251万人泊 | 13.2% |
並べてみると、上位の顔ぶれは二つの性格に分かれる。東京都と大阪府と京都府は外国人の比率が4割を超え、海外からの客で部屋が埋まる都市だ。対して千葉県と長野県は1割台にとどまり、国内の客が主な担い手になっている。
この違いは予約の取りやすさに直結する。海外からの需要は曜日の偏りが小さく、連休でなくても埋まりやすい。国内中心の土地は週末と長期休暇に山が立つぶん、平日の谷が深い。平日に働きながら滞在する側からすると、谷が深い土地のほうが都合がよい。
なお、量の多さは設備の充実と同じではない。延べ宿泊者数が全国11位の長野県は、外国人比率で見れば13.2パーセントにとどまる。数字の大小ではなく、どんな客層で積み上がった数字なのかを読むほうが、候補地を絞るうえでは役に立つ。
客室稼働率で見ると順位が入れ替わる
同じ資料には都道府県別の客室稼働率も載っている。2025年の全国平均は61.6パーセント。首位は大阪府の78.6パーセントで、東京都が76.3パーセント、福岡県が72.1パーセントと続く。
| 都道府県 | 全体の客室稼働率 | 全国順位 | ビジネスホテル | 旅館 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪府 | 78.6% | 1位 | 82.9% | 49.0% |
| 東京都 | 76.3% | 2位 | 81.5% | 41.7% |
| 福岡県 | 72.1% | 3位 | 77.8% | 31.3% |
| 沖縄県 | 60.3% | 13位 | 77.2% | 43.6% |
| 山梨県 | 43.8% | 46位 | 73.2% | 34.4% |
| 長野県 | 39.0% | 47位 | 75.7% | 27.2% |
| 全国 | 61.6% | - | 75.3% | 38.2% |
目を引くのは最下位だ。長野県は39.0パーセントで47位、山梨県が43.8パーセントで46位になっている。どちらもワーケーションの受け入れでよく名前の挙がる県であり、宿泊者数そのものは決して少なくない。それでも全体の稼働率は低い。
理由は施設の構成にある。長野県の旅館は27.2パーセント、リゾートホテルは37.7パーセントしか埋まっていないが、ビジネスホテルは75.7パーセント、シティホテルは76.1パーセントまで上がる。つまり、観光向けの大型施設に空室が多く、仕事で使う側の施設はむしろ混んでいる。
この構造を知らずに「稼働率が低いから取りやすい」と判断すると、実際には駅前のビジネスホテルが満室で焦ることになる。県単位の平均ではなく、泊まろうとしている施設の種類で見る必要がある。
出張や業務の滞在が多い地域には平日の受け皿がある
もう一つ参考になるのが、何の目的で泊まっているかという内訳だ。観光庁の旅行・観光消費動向調査の2025年年間値(確報)では、2025年の日本人の宿泊旅行の延べ旅行者数は2億9,997万人で、このうち出張や業務を目的とするものが4,525万人を占めた。全体の約15パーセントにあたる。
この出張・業務の数字を都道府県別に見ると、東京都が603万人で最も多く、宿泊旅行全体に対する比率は27.5パーセントに達する。北海道は389万人で20.9パーセント、大阪府は379万人で18.0パーセント、愛知県は269万人で24.4パーセントだった。
比率が高い土地は、平日の昼に働く客を前提にした設備がすでに回っていると考えてよい。机のある部屋、朝が早い朝食、安定した回線といった条件は、観光地より業務需要のある町のほうが揃いやすい。宮城県の23.8パーセントのように、規模は大きくないが比率の高い県もある。
逆に千葉県は7.9パーセント、神奈川県は9.7パーセントと低い。行楽の客で成り立っている土地では、週末の価格が跳ね上がり、平日は館内の施設が動いていないこともある。自分の滞在が平日中心なのか休日中心なのかを決めてから、この比率を見ると選びやすい。
三つの問いで候補地を絞る
ここまでの数字を、実際の選び方に落とすと問いは三つになる。一つめは、自分の滞在が休暇主体なのか業務主体なのか。これが決まらないと、あとの二つは比べようがない。ワーケーションの種類の整理が出発点になる。
二つめは、泊まる施設の種類ごとの混み具合だ。県の平均ではなく、ビジネスホテルなのか旅館なのかで数字が倍ほど違う。連泊するなら、その施設区分の稼働率を見てから日程を置く。
三つめは移動にかける時間である。延べ宿泊者数の上位に並ぶ土地は、いずれも空港か新幹線の駅を抱えている。到達の良さは滞在中の自由度に跳ね返るため、現地での条件と同じ重みで見ておきたい。施設側の条件はワーケーションの場所選びにまとめた。
なお、統計の数字は候補を絞る道具であって、答えそのものではない。地域ごとの受け入れ体制や相談先は年度で変わる。FLASPOでは地域と滞在の情報を扱っており、最新の受け入れ状況は各自治体の窓口で確かめるのが確実だ。市場全体の動きはワーケーションの現状でも触れている。
よくある質問
上位のエリアは初めての滞在でも向いているか。向いている。移動の便がよく施設の選択肢も多いため、失敗したときの代替が利く。ただし稼働率が7割を超える都市では、連泊の空室が取りにくい。日程を決めてから宿を探すのではなく、空室の並びを見て日程を決めるほうが早い。
稼働率の低い県は設備が弱いということか。そうとは限らない。長野県のように、観光向けの大型施設の空室が平均を押し下げているだけで、仕事向けの施設は全国平均を上回っている例がある。平均値の低さは、むしろ価格交渉や連泊の余地が残っている印にもなる。
外国人の宿泊が多い都市は避けたほうがよいか。避ける理由はない。海外からの客が多い都市は通信や決済の環境が整っており、平日でも周辺の店が開いている。気をつけるのは価格だ。京都府や東京都のように比率が5割を超える土地では、繁忙期の単価が上がりやすい。
こうした数字はどこで追えるか。延べ宿泊者数と客室稼働率は観光庁の宿泊旅行統計調査で、目的別の旅行者数は旅行・観光消費動向調査で公表される。前者は月次と年次、後者は四半期と年次で更新され、確報が出ると速報の数値が若干動く。引用するときは公表日と速報か確報かを添えておくと誤読を避けられる。
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