移住費用の平均|月314,001円の平均世帯は2.87人・60.7歳

探している「平均」は、どの調査にも載っていない

検索欄に「移住費用 平均」と入れると数字は山ほど出てくる。ところが出所をたどると、どれも同じものを測っていない。国の統計に「移住費用」という調査項目が無いからである。存在するのは、毎月の暮らしでいくら出ていくかを測る家計調査、住宅をいくらで取得したかを測る住宅市場動向調査といった、対象も期間も目的も別々の調査だけだ。

困るのは、この別々の平均を足し合わせたくなるところにある。月の生活費の平均と住宅取得資金の平均を並べて合計すると、住宅ローンの返済が生活費の側にも入っていて二重に数えられる。一方で引越し代や自動車の購入費のように、どちらの調査にも出てこない費目は抜け落ちる。二重計上と欠落が同時に起きるので、合計した額は大きいのに肝心な費目が入っていない見積もりができあがる。

順番を変えたほうが早い。先に「一度だけ出る金」と「毎月出続ける金」を分け、それぞれに合う統計を当てる。内訳の立て方は移住費用の内訳で整理しているので、枠を作ってから平均を当てはめていくと、足し算の事故が起きにくい。

平均が無駄だという話ではない。桁を間違えていないかを確かめる用途には向いている。月の生活費の見積もりが5万円で出てきたら、どこかで費目を落としている可能性が高いと気づける。使い道を「他人と比べるため」から「桁の検算のため」に変えると、平均は扱いやすい道具になる。

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月314,001円は、2.87人・60.7歳の世帯の数字

毎月の支出でもっとも広く引用されるのが、総務省統計局の家計調査である。2025年平均では、二人以上の世帯の消費支出が1世帯あたり1か月314,001円だった。前年に比べて名目で4.6%の増加である。移住後の生活費を見積もるとき、この額を出発点に置く人は多い。

ただし同じ公表資料には、この314,001円がどんな世帯の数字なのかも書かれている。平均世帯人員は2.87人、世帯主の平均年齢は60.7歳である。2.87人という人数の世帯は現実には存在しないし、世帯主が60歳を越えた世帯の家計は、住宅ローンを払い終えて教育費も抜けた後の形をしていることが多い。

つまりこの額は、どこかの一軒の家計簿ではなく、性質の違う何万世帯かを平らに均した結果である。30代の夫婦と子どもの世帯が自分の暮らしを測る目安としては、人数も年齢も前提が合っていない。数字を使うなら、それがどの輪郭の世帯を指しているのかを一緒に書き写しておく必要がある。

年齢で切ると、平均はどの階級とも一致しない

同じ調査は、世帯主の年齢階級別にも消費支出を出している。並べると、平均が真ん中を指していないことがはっきりする。

世帯主の年齢(二人以上の世帯) 消費支出の月平均
40歳未満 299,100円
40〜49歳 348,607円
50〜59歳 367,643円
60〜69歳 327,405円
70歳以上 264,332円
全体(平均世帯人員2.87人・世帯主60.7歳) 314,001円

最も支出が多いのは50代の367,643円で、最も少ない70歳以上は264,332円である。開きは10万円を超える。全体の平均314,001円は、40歳未満の299,100円と40代の348,607円のあいだに落ちていて、どの年齢階級の実額とも重ならない。

移住を考える人の年齢はばらける。20代で仕事ごと移る人もいれば、子どもの進学に合わせて動く40代、退職を機に動く60代もいる。全体の平均ひとつを共通の目安にすると、40歳未満の世帯は1万5千円ほど多く見積もり、50代の世帯は5万円以上も少なく見積もることになる。自分の年齢の行を読むだけで、誤差はかなり縮む。

70歳以上の264,332円と50代の367,643円の差は10万円を超えるが、これは同じ人が年を取って支出を減らした記録ではない。別々の世代の世帯を同じ年に横並びで集計したものである。退職後の暮らしを見積もるために70歳以上の行を読むのは筋が通るが、いま50代の人がその行を自分の将来像として読むと、物価も制度も違う時代の数字を当てることになる。

世帯の人数が変われば、参照する表も変わる

移住は世帯の形が変わる機会でもある。一人暮らしのまま地方へ移る人もいるし、移住と結婚や出産が重なる人もいる。ここで表を取り違えると、桁がずれる。

2025年平均の単身世帯の消費支出は1か月173,042円で、平均年齢は58.6歳である。二人以上の世帯の314,001円と比べると14万円以上少ないが、これは節約の差ではなく世帯人員の差が大きい。一人暮らしと二人以上では、家賃の水準も食費の単価も別の構造になる。二人以上と単身を合わせた総世帯でみると259,880円、平均世帯人員は2.15人である。

収入の側も同じ注意が要る。二人以上の世帯のうち勤労者世帯の実収入は1か月653,901円だが、この世帯は平均有業人員が1.81人で、世帯主の平均年齢は51.0歳である。働き手がおよそ2人いる前提の額なので、片方が仕事を辞めて移る計画にそのまま当てるわけにはいかない。単身の勤労者世帯なら実収入は386,791円で、こちらの平均年齢は43.3歳である。

平均の代わりに置く三つの数字

では何を基準にするか。実務では次の三つで足りる。

一つ目は、自分の直近12か月の実績である。家計調査の平均は他人の集計だが、自分の通帳とカードの明細は自分の家計そのものだ。移住後に変わるのは住居費・光熱費・自動車関係費に偏るので、その三つだけを現地の水準に置き換えれば、残りはほぼそのまま使える。地域によってどの費目が動くかは、移住先の候補を二つか三つに絞った段階で現地の料金表を当たると早い。

二つ目は、一度だけの費用を実額で見積もることである。敷金や引越し代は平均を探すより、現地の不動産会社と運送会社に見積もりを頼むほうが早く、かつ正確である。三つ目は、分布の真ん中を示す中央値を併せて見ることだ。手元の資金のように平均が上に引っ張られやすい項目では、平均と中央値が数百万円ずれる。その差の読み方は貯金の中央値で扱っている。FLASPOでも、相談の入口はたいてい「平均はいくらか」だが、話を進めると自分の12か月の数字に行き着くことが多い。

よくある質問

移住費用の総額として一つの数字を知りたい、という問いには残念な答えになる。総額の平均を公的に出している調査は無く、住まいを借りるか買うか、車を持つか持たないかで桁が変わるため、一つの数字にまとめても使えない。代わりに「一度だけの費用」と「毎月の費用」の二つに分けて、それぞれの幅を押さえるほうが実用的である。費用の全体像は地方移住の費用とはから追えるようになっている。

家計調査の数字は毎年変わるのか。変わる。2025年平均の消費支出は前年に比べ名目4.6%の増加で、物価の動きと実際の消費量の両方が反映される。見積もりに使うときは、発表年を必ず書き添えておくとよい。

平均より多く使っていたら使いすぎなのか。そうとは限らない。年齢階級別の表を見ればわかるとおり、50代の世帯は全体の平均より5万円以上多い。世帯人員と年齢が違えば支出が違うのは当然で、比べる相手は全体の平均ではなく自分と近い条件の行である。

地方なら生活費は必ず下がるのか。下がる費目と上がる費目が同時にある。家賃や食費は下がりやすい一方、自動車の維持費や冬の暖房費は上がる。差し引きで下がることは多いが、何が上がるかを先に知っておかないと、下がった分を見て安心したあとで想定外の支出に出会う。

単身と二人以上のどちらの表を見ればよいか。移住した直後の住まいで何人暮らすかで決める。一人で先に移って後から家族が合流する計画なら、最初の数か月は単身世帯の173,042円、合流後は二人以上の世帯の表に切り替えるのが実態に近い。途中で前提が変わる計画ほど、期間を区切って別の行を当てる価値がある。

出典は総務省統計局「家計調査(家計収支編)2025年(令和7年)平均」である。数値は調査の公表ページと、同ページで公開されている家計の概要で確認した。


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