農地を借りて作物を売るところまで行き着くかどうかは、気候や土よりも受け入れの体制で決まることが多い。同じ制度が全国で動いているのに、資金を受け取った人の数は県によって十倍以上違う。支援が終わった1年後に就農を続けている割合にも差が出ている。公表されている数字を並べると、どの県が入口を広く開けているかは見えてくる。候補地を絞る材料として順に確かめていく。
新規就農は年4万2,850人、若い層はむしろ減っている
全体の流れを押さえておくと、自分の立ち位置が分かる。農林水産省が令和8年8月25日に公表した令和7年新規就農者調査結果によると、令和7年2月1日から令和8年1月31日までの新規就農者数は4万2,850人で、前年に比べ1.5パーセント減った。このうち49歳以下は1万4,410人で、8.3パーセントの減少である。
就農形態の内訳を見ると、親元などで自営農業に就いた新規自営農業就農者が2万9,240人、法人や農家に雇われた新規雇用就農者が1万250人、土地や資金を自ら調達して独立した新規参入者が3,360人となっている。移住して農業を始める人が当てはまりやすいのは後ろの2つで、雇用のほうは前年から0.7パーセント増えて下支えがある一方、新規参入者は10.4パーセント減った。新規参入者の部門別では露地野菜作が1,050人で最も多く、果樹作が810人、稲作が540人と続く。49歳以下に絞ると新規自営農業就農者の減り方が大きく、前年比16.9パーセントの減少だった。入口として広いのは雇われて始める道で、独立から入る人は年々薄くなっている。
資金は研修段階と経営開始後の2段構えになっている
移住と就農を同時に進めるなら、生活費の出どころを先に決めておきたい。農林水産省の就農準備資金・経営開始資金の案内によると、対象は次世代を担う農業者となることを志向する49歳以下で、研修段階と経営開始時の2つの局面に資金が置かれている。
就農準備資金は、道府県の農業大学校や先進農家などで研修を受ける期間に月13.75万円、年間で最大165万円を最長2年間交付する。交付主体は都道府県、市町村、青年農業者等育成センター、全国農業委員会ネットワーク機構である。経営開始資金は、経営を始めてから安定するまでの最大3年間、同じく月13.75万円を交付するもので、交付主体は市町村に限られる。設備や施設に充てる経営発展支援事業と併せて助成を受ける場合、経営発展支援事業の補助対象事業費の上限額は500万円になる。窓口が県と市町村で分かれているため、研修先の県と就農先の市町村が違うと相談先も変わる。要件の確認があるので、申請様式を作る前に交付主体へ相談するよう農林水産省が明記している点も押さえておきたい。
資金を受け取った人の数は、県によって十倍以上開く
制度は全国共通でも、実際に動いている量は地域差が大きい。農林水産省が令和8年3月にまとめた令和6年度の交付実績では、就農準備資金等の交付対象者が1,336人、経営開始資金等が8,864人で、合計1万200人だった。令和6年度に新たに採択されたのは就農準備資金で823人、経営開始資金で1,741人である。
| 都道府県 | 令和6年度の交付対象者(準備+開始) | 認定新規就農者数(令和7年3月末) |
|---|---|---|
| 北海道 | 660人 | 519 |
| 長野県 | 474人 | 488 |
| 鹿児島県 | 457人 | 520 |
| 熊本県 | 416人 | 452 |
| 福岡県 | 415人 | 407 |
| 福島県 | 373人 | 427 |
| 愛媛県 | 371人 | 304 |
| 沖縄県 | 315人 | 314 |
上位に並ぶのは北海道と九州、それに長野県や福島県のような果樹と野菜の産地である。一方で石川県は63人、山口県は64人、鳥取県は73人、富山県は76人と、同じ制度のもとで一桁違う水準にとどまる。交付対象者の属性も傾向がはっきりしている。経営開始資金等では40代が43パーセント、30代が41パーセントを占め、非農家出身が69パーセント、夫婦での共同経営が23パーセントだった。営農類型では施設野菜が32パーセント、露地野菜が26パーセント、果樹が18パーセントである。農家以外から入る人が7割近いという事実は、縁故のない移住者でも制度の主な利用層であることを示している。
支援が終わった1年後の定着率は、全国で9割を超える
始めやすさだけでなく、続いているかどうかも公表されている。農林水産省の支援終了1年後の定着率によると、令和6年度の全国の定着率は準備資金関係で95.6パーセント、開始資金関係で98.7パーセントだった。これは令和5年度に支援を終えた就農者のうち、1年経った令和6年度末の時点で就農を続けている人の割合である。
県別に見ると幅がある。準備資金関係では岩手県や秋田県、富山県、滋賀県、岡山県、徳島県、高知県、佐賀県など多くの県が100パーセントに達する一方、鳥取県は50パーセント、島根県は70パーセントと低い。茨城県と沖縄県が85.7パーセント、和歌山県が88パーセント、神奈川県が88.2パーセントで続く。開始資金関係はどの県も9割台で、最も低いのが大阪府の92パーセント、次に群馬県の93パーセントだった。母数の小さい県では1人や2人の離脱が率を大きく動かすため、低い数字を受け入れ体制の弱さと即断するのは危うい。むしろ読み取るべきは、研修段階から経営開始段階へ進むほど定着率が上がるという構図で、研修の2年を越えられるかが分岐点になっている。
認定新規就農者の厚みは、市町村の支援の濃さを映す
もう一段深く見るなら、計画を認定された経営体の数が手がかりになる。認定新規就農者は農業経営基盤強化促進法に基づき、有効期間5年の青年等就農計画を作って市町村から認定を受けた人である。農林水産省が令和8年3月31日に公表した認定新規就農者の認定状況では、令和7年3月末現在の認定数は1万954経営体で、前年より52経営体増えた。
このうち49歳以下は9,288人、原則45歳未満の青年は8,667人で、青年は前年より78人増えている。地域ブロックの小計では九州が2,412経営体で最も多く、関東が2,399、東北が1,693、中国・四国が1,581と続く。県単位では鹿児島県が520、北海道が519、長野県が488、熊本県が452、福島県が427の順である。前年からの増減を見ると、和歌山県が47、愛知県が35、千葉県が31と伸びた一方、九州の小計は71の減少で、熊本県や沖縄県が28ずつ減らしている。認定は市町村が行う手続きなので、この数字は窓口がどれだけ計画づくりに付き合っているかを間接的に映す。候補地を2つか3つに絞ったら、交付実績と認定数の両方を見て、どちらも厚い市町村から当たるのが効率的である。地域の側の事情から入りたいなら、FLASPOのように地域と関わる入口を使って現地の人に話を聞く手もある。
よくある質問
農家の出身でなくても資金は使えるのか。交付対象者の属性では、経営開始資金等で非農家出身が69パーセント、就農準備資金等でも66パーセントを占める。制度は出身を問わず、研修計画や青年等就農計画の中身で判断される。むしろ用意しておくべきは、どこで研修を受け、どの市町村でどの作物を作るかという具体の筋道である。
研修はどこで受けるのが一般的か。就農準備資金等の研修機関別の内訳では、農業大学校などの教育機関が38パーセント、先進農家や農業生産法人が28パーセント、市町村や公社などのその他が34パーセントだった。教育機関に偏っているわけではなく、受け入れ先の農家に入る形も同じくらい使われている。
いきなり独立するのと、雇われて始めるのはどちらが現実的か。令和7年の調査では新規雇用就農者が1万250人で前年から増え、新規参入者は3,360人で10.4パーセント減った。雇用のほうが入口として広く、収入も先に立つ。技術と販路を覚えてから独立に切り替える順番は、数字の動きとも合っている。
移住先を決める前に試せることはあるか。短期の農業体験から入って受け入れ先の雰囲気を見る方法がある。種類や費用の相場は農業体験の種類と選び方の記事に、任期つきの立場から就農へ進む道筋は地域おこし協力隊の卒業後に就農する記事にまとめてある。県と市町村の窓口に同じ質問をして答えがそろうかを見るのも、受け入れ体制を測る簡単な方法になる。
アイデアコンテストプラットフォーム「FLASPO」

アイデア1つで、地域や企業とつながれる。
FLASPOは、全国の自治体・企業が開催する若者向けアイデアコンテストのプラットフォームです。
地域や企業が抱える課題に対して、あなたのアイデアで解決策を提案できます。
賞金やユニークな地域体験が獲得できるコンテストも多数。誰でも参加無料・オンライン完結で挑戦できます。
